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第二十一話 薄紅色の月を見上げて

俺と殿様は窓の外に広がる城下町と、雲ひとつない夜空に浮かぶ薄紅色の満月を見ていた。

ここから町と月を見ながら一杯やるのを好んでいてな、と、

殿様は月を見上げながら盃を持ち上げた。


「ここの月はずっとこの色なんですよ」


トリアがフラウを連れて、俺たちの後ろから同じように景色を見ながら説明してくれた。

その瞳は月を見ているようで、その奥の何かをうつろに見つめているように見えた。

そして、

サユキが初めてこの月を見た時、「なにこの月。あかっ!こわっ!」って騒いでましたと、トリアは思い出すようにクスッと笑った。



「それで、草葉殿はこれからどうなさるおつもりで?」


しばらく月を眺めていた殿様が改めて俺に尋ねてきた。


「儂としては、このままこの地に留まって、お力を貸していただけると嬉しいんですがなあ」


「殿様。

なかなかにずるいですね。

あんな話を聞かされたあとに、無下に断ることなど出来ないではないですか」


俺はそう言って苦笑していた。


「さては、このためにわざわざその話を持ってきましたね」


「ふっふっふ。

作戦通りだな」


殿様はそう言ってニヤリと笑ってみせた。


まったく、この狸親父め。

本当は家康って名前なんじゃないか?


「いやいや、草葉殿。

儂はイエヤスではなく、イエナガですぞ」


「は?」


こわっ!

心を読めんのかよ、このおっさん。


「と、歴史好きな転生者の子がこのタイミングで言ってみると面白いと話していたのだが、どうやら成功のようだな」


殿様はそう言って、はっはっはっ!と笑ってみせた。

誰だか知らんが覚えてろよ、歴史好き!






「殿様」


「うむ」


俺は改めて俺の答えを伝えるために向き直った。


「俺はここには留まりません」


「…………そうか」


俺の答えに、殿様は悲しそうな顔をしてみせた。


「実は、このフラウの村はかつて魔獣に襲われて滅びてしまってまして、フラウはその村の生き残りなんですが、この子の姉は村が襲われる前に領主によって連れていかれており、今も生きている可能性が高いのです。

ですが、その行方を掴むことができずにいるので、まずはこの子の姉を見つけてやりたいと思ってます。

そのために、俺はこの国に留まっているわけにはいかないのです」


「なるほど。

そういうことか」


俺はフラウの姉が神託の巫女として連れていかれたことは伏せておいた。

未来視系はいろいろと厄介なことになりそうだからだ。

殿様ならトリアから報告されるだろうが、俺が話さなかったことが分かれば、それを無下に人に話したりはしないだろう。


「ですが、姉を見つけることができたら、この国で保護をお願いしたいとも思っています。

フラウも、カエデ姫とトリアさんに懐いてますし。

そのお礼に、俺にできることであれば、させてもらうつもりではいます」


「そうか!」


俺の返答に、殿様は嬉しそうに頷いた。



今日はもう遅いからと、その日は城に泊まらせてもらうことになった。

フラウもうつらうつらしていたから、お言葉に甘えさせてもらうことにした。

俺は明日からの計画を練りながら、ずいぶん久しぶりな気がした布団にくるまれて眠りについた。









殿様が影人を追い掛けて出たあと、先ほどの事前会談の部屋では、


「お兄様。

やってしまいましたね」


カエデが溜め息を吐きながら、肩を落としているイエツグにそう言った。


「ああ。

分かってるよ。

俺は結論を急ぎすぎた。

もう少し草葉殿の出方を伺うべきだったんだ。

久しぶりの転生者を何としても我が国にという思いから、喋りすぎてしまった」


自分で言っておきながら、イエツグはさらに肩を落とした。


「それに、私はお父様から口を出すなと言われていましたけど、あれはやはり、魔王討伐後の利権を見越した発言でした。

草葉様なら政治に理解を示してくれはするでしょうが、やはり良い気持ちにはならないでしょう」


カエデはそう言って、再び大きく溜め息を吐いた。


後ろに控えるテツが少し可哀想じゃないかとイエツグに同情の視線を送っていると、


「あら?

トリアも行かれたの?」


カエデがキョロキョロと周りを見回しながら、テツに尋ねた。


「あ、はい。

殿が出ていかれる時、一緒についていきましたよ。

フラウの相手も必要でしょうし、護衛も兼ねてついたのでしょう」


「そう」


カエデはテツの返答を聞いて、窓の外の月を見上げた。


「お父様なら、きっと何とかするのでしょう」


『草葉様ならきっと、この国の過去を話せば協力してくれる。

お父様なら、そこをつかないはずがない。


それにしても、お父様はいつまで道化を演じているつもりなのでしょうか!

お兄様じゃないんだから、私がいつまでも騙されるわけないのに!』


カエデは前半はシリアスに、後半はぷんぷんしながら心の中で呟いた。

そうして再び、その鬱憤を兄を責めることで晴らしていくのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、やっぱり殿様の本性はカエデ姫にはお見通しでしたか。
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