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第百九十九話 介入、そして決着

「だ、誰なのん!?」


 頭に直接語りかけてくる謎の声にスカーレットは周りをキョロキョロと見回すが、当然のように誰もいなかった。


『それは手を出してはならない禁忌なんだよね。

封印を預けた女王ですら手を出せないはずなんだけど、どこでそれのことを知ったのかな?』


「……っ」


 謎の声に含まれる微かな威圧はスカーレットを怯ませるには十分だった。


 感知の外から強制的に念話をぶつけるなど、並みの魔法士ではない。

 そもそも自分より格上の存在に対して出来る芸当ではないのだ。

 それはつまり、いま自分に話し掛けてきている相手は自分よりも数段上位の存在ということ。


 スカーレットはその結論にすぐに至り、こめかみから汗を垂らした。


「……そう。

管理者がいたのねん」


 スカーレットが解除しようとしていた封印は解かれれば世界が滅びかねない力を有した存在だった。

 スカーレットはそれほどの封印が解呪の呪文だけであっさりと解けてしまうことに疑問を感じてはいたが、それを見張る存在がいたことで納得が出来たようだった。


「……やっぱり一筋縄では行かないわよねん」


『ま、そういうことね』


「また……えっ! うそっ!?」


 頭の中に再び声が響くと、先ほどまで解呪を続けていた封印とのアクセスが強制的に切られ、封印は完全にリセットされてしまった。

 女王の館の奥深くにある魔方陣も光を失い、再び深い眠りに入った。


『はい、これで元通り。

お疲れ様。

あ、これはお仕置きね』


「きゃっ! ……そ、そんな……」


 封印とのアクセスを切られただけでなく、魔王から与えられていた隠匿系のスキルも解除されてしまい、スカーレットは絶句した。


「……こ、こんなバカげた芸当が出来るのはん……あ、あなたもしかして、神樹の……?」


「ようやく見つけたぞ」


「……あ」


 困惑するスカーレットの元に女王が現れ、魔人の鎌によってスカーレットは一瞬で粉々にされてしまった。


 そして、それとほぼ同じタイミングでフラウの聖剣(エクスカリバー)が夜想国を一掃したのだった。






「……やれやれ。

ようやく片がついたな」


 女王は粉々にしたスカーレットの破片を血の一滴も残さずに風魔法で集め、宙に浮かべた。

 それを小さく圧縮し、中を真空に保つ。

 こうなってしまえば、さすがのスカーレットと言えども自力での復活は不可能だろう。


「……ルル。まだいるのか?

おかげで助かった」


 女王は何もない中空を見上げると、そこに在る何かに話し掛けた。


『まったく。

吸血鬼(ヴァンパイア)の女王であるあなたがこんなことでは困るのよ、情けない』


「悪かったよ」


 まるで母親に叱られている子供のように女王は平謝りをしてみせた。


『まあ、国の方は影人たちがうまいことやったみたいだからいいわ。

それよりも、あなたの妹ちゃんがどうやって封印のことを知ったのか。

目的はなんなのか。

それをきっちりと吐かせて報告しなさいよ。

じゃあね』


 神樹の守護者であるルルはそれだけ言うと、さっさと念話を切ってしまった。


「……やれやれ、わかってるよ」


 女王は軽くため息をついてから、滞空させたスカーレットの塊にそっと手を添えた。


「……これからどうなるか分かるな?

楽に死にたいなら知っていることはすべて話すことだ。

姉妹のよしみで消え方ぐらいは選ばせてやるぞ」


『……っ』


 そう告げる女王の目からは身内に向けるような温かみは一切感じられなかった。

 スカーレットは身動きが取れない状態で、その威圧感にただ身を震わせることしか出来なかった。












「ミツキ!」


「ミツキお姉ちゃん!」


 フラウとともに聖剣(エクスカリバー)で国中をひと回しで斬ったあと、俺たちは倒れたミツキに駆け寄った。

 聖剣(エクスカリバー)は振り終えた瞬間に消えてしまっていた。


 周りを見ると、赤い光に包まれていた吸血鬼(ヴァンパイア)たちは皆、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちていた。

 そして、その赤い光は完全に消え去っているようだった。


「……ん」


「お姉ちゃん!」


 少しすると、ミツキがゆっくりと目を開けた。

 魔力不足で少し顔色が悪いが、それ以外は特に問題なさそうだ。

 指先はだいぶ痛そうな状態だが、あとでプルに治してもらうとしよう。


「ミツキ、大丈夫か?

状態はどうだ?」


 ケガの具合もそうだが、スカーレットの【魅了(テンプテーション)】がどうなったかを確かめる必要があった。

 本人の談を素直に信じるわけにはいかないが、どう答えるかも見ておいた方がいいだろう。

 まあ、ほぼ問題なく斬れたとは思うが。


「……ん。大丈夫。

指は動くし、もうスカーレットの魔力の残滓もないみたい」


「……そうか」


 ミツキはキズだらけの右腕を痛そうに動かしながら呟いた。

 まあ、プルのかけた確認魔法も消えたんだし、もう大丈夫なのだろう。


「……影人、フラウ」


「ん?」


「なんですか? ミツキお姉ちゃん」


 ミツキが改まった顔でこちらに向き直った。


「……ごめん!」


 ミツキはそれだけ言うと、地面にぺたっと座り込んだ状態でバッ!と深く頭を下げた。


「威勢よく偵察に行ったのに簡単に捕まって操られちゃって。

私のせいでそっち側がかなり不利になってたのも知ってる。

ホントに、ほんとーにごめん!」


「……」


 ミツキは地面に頭を擦り付ける勢いだった。

 意図せず味方を傷付けていたんだ。

 ミツキが気負うのも分かる。


「……ミツキ。大丈夫だ。

何とかなったんだから問題はない。

それよりもミツキが無事で良かった」


 俺はミツキの肩に手をのせながらそう声をかけた。


「……影人……わっ!」


 ミツキが顔を上げてこちらを見上げると、フラウがミツキの胸に飛び込んだ。


「ミツキお姉ちゃん! 無事で良かったです!

だから、良かったです!」


「……フラウ」


 フラウはどうやら泣いているようだった。

 聖剣(エクスカリバー)でうまく斬れたから良かったものの、下手すればミツキをも斬っていたかもしれない。

 それに、他の吸血鬼(ヴァンパイア)たちに殺されていた可能性もある。

 フラウは心配していたのだろう。

 その緊張の糸が切れたようだ。


 そこに、ミツキのことを責める気持ちなんて微塵もない。


「……ごめんね、ありがとう」


 ミツキにもフラウの気持ちが伝わったようで、しがみつくフラウをミツキも優しく抱きしめ返していた。




「おー! みんな無事なのだー!」


「ん。吸血鬼(ヴァンパイア)たちも全員正気に戻った」



 そこに、ノアとプルも合流する。

 どうやら、無事に他の吸血鬼(ヴァンパイア)たちの【魅了(テンプテーション)】も解除できたようだ。




 その後、傷付いた吸血鬼(ヴァンパイア)たちの再生を待っている時に女王からも念話が入った。


『すべて終わった。すぐに戻る』


 と。


 どうやら無事に吸血鬼(ヴァンパイア)の国での騒動は終結を迎えることが出来るようだ。




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