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第百九十八話 聖剣生成

「ご、ご主人様……?」


「……うわっ!」


 俺がフラウの肩に触れた瞬間、俺の中の闇の力がごっそりとフラウに流れ込むのを感じた。

 フラウが困ったような顔でこちらを見上げている。


「な、なんか……ものすごい力が! 急に!

ど、どうすれば……」


 フラウは唐突にもたらされた力に驚いているようだった。

 突然、自分の中にまったく異なる力が流れてくれば戸惑うのは当然だろう。


「フラウ。落ち着け。

それは俺の闇の力だ。

なぜだかは分からないが、フラウに触れたら力が俺からフラウに流れだしたんだ」


「……ご主人様の……」


 フラウは目を閉じて意識を集中し始めた。

 自分の中にある力を感じているようだ。


「……これが……。強くて暗くて、ちょっと怖いです……、でも、ご主人様の力だと思えば、なんだかいけそうな気がします!」


「……フラウ?」


 フラウはさらに集中力を高めた。

 フラウの中に散分する俺の力が集められ、手のひらに集中していくのが分かる。


「いいぞ! そのままいけ!」


 俺はフラウの肩に手を置いたまま声をかけた。


「……今です!

【生成[聖剣(エクスカリバー)]】ぁ!!」


「おおっ!」


 そして、フラウの手に巨大な光の剣が生成された。


 が、


「な、なんかだいぶデカいな」


「そ、そうですね」


 それは想像以上に巨大な光の剣だった。

 空に向けられたそれは先が見えないほどに巨大で長い剣だった。




「おー! なんなのだあれ!」



「……フラウ、やったね」



 離れた場所にいたノアやプルにもそれは視認することが出来たのだった。




「……す、すごい、なにあれ……って、あっ!」


 ミツキも天を貫く巨大な光の剣に驚いていたが、それを最大の危険と感じたミツキの体は俺たちに向けて数千にも及ぶ矢を射っていた。

 それらの矢はすべてがミツキの強力な魔力で強化されているようで、それに触れた屋根や地面は削られ、消えてしまっていた。


「……フラウ、分かるな?

あの矢だけを斬るんだ」


「……はい」


 自分たちに猛スピードで向かってくる無数の矢を、俺とフラウは冷静に見据えていた。

 フラウと接触している俺には、この聖剣(エクスカリバー)に出来ることを理解することが出来た。

 フラウもどうやら同じ感覚を感じているようだ。


 この光の剣は実体のない存在。

 だから斬るものを選ばない。

 なんでも斬ることが出来るのだ。

 それはつまり、斬るものの選択が出来るということ。


 俺は肩にのせた手をフラウの手に添え変え、聖剣(エクスカリバー)を一緒に持ってやった。


「……よし、振るぞ」


「……はい!」


 そして、俺たちは巨大な光の剣を叩き落とした。


 それに触れた矢は一瞬で消滅し、数千あったすべての矢が塵と消えたのだった。


「よし」


 俺たちは矢がすべて消えたことを確認すると、聖剣(エクスカリバー)を横に構えた。

 剣は周囲の家屋や吸血鬼(ヴァンパイア)たちに触れていたがそれらには一切影響を与えていなかった。

 俺たちが放たれた矢だけを斬ることをイメージしたからだ。


「予行練習は上出来だ。

次に斬るのはミツキにかかっている魔法だ」


「はい」


 俺がそう言うと、フラウも承知していたように頷いた。


「ミツキが纏っている赤い光、あれはスカーレットの【魅了(テンプテーション)】の魔力だ。

あの赤い光だけを斬ることをイメージするんだ。

そして、それはミツキのものだけじゃない。

この剣に触れたすべての赤い光を斬って消す。

そのことを深くイメージしろ」


「ぜ、全部ですか?」


 さすがに自信がないのか、フラウが不安そうな顔をする。

 だが、ここですべての【魅了(テンプテーション)】を消してしまえるのなら俺たちの勝ちは確定だ。

 この聖剣(エクスカリバー)は力の消費が激しい。

 おそらく、あとひと振りしか出来ないだろう。

 それならば、出来ることはやっておきたい。


「深く考えなくていい。

ミツキが纏う赤い光を斬ることを考えるんだ。

そうすれば、剣にそれが斬る対象だと認識させられるはずだ」


「わ、わかりました」


 フラウが頷いて集中し始めたのを確認し、俺もイメージを高める。

 俺とフラウがこの光の剣を振り、ミツキを操っている赤い光を斬り消すイメージを。



「……よし、やるぞ!」


「……はい!!」



 そして、夜想国中を光の帯が一回りしたのだった。















 影人たちが聖剣(エクスカリバー)を振るった少し前。


「……くっ! きゃあっ!」


「……ぐっ。ようやく、捕まえたな」


 女王はぼろぼろになりながらも、なんとか第二位真祖であるカナを捕らえることに成功していた。

 銃器で何度も撃たれたようで、体には貫かれた跡がいくつも残っていたが、それらはすぐに服ごと再生した。


「……くっ……まったく、最初っから私が女王に勝てるわけないのよ」


 仰向けに倒されて両手を掴まれたカナは息を乱しながら上に乗る女王を見上げた。

 女王の長い髪がさらりとカナの頬にかかる。


「生成系のスキルの弱点は手元以外に生成できないこと。

さらにカナの武器の弱点は手元から離すと作動しないことだ。

腕を潰しても再生されるが、拘束してしまえば何も出来ないだろう」


 女王はそう言いながら自分の髪を1本引き抜き、それでカナの腕を後ろ手に縛った。

 カナは腕に力を込めるが、髪が引きちぎれることはなかった。


「……自分の弱点に対抗策がないわけではないのだろう?」


 女王は髪がちぎれないと分かると抵抗をやめたカナにそう尋ねた。


「そうだけど、操作されてる自分がもう諦めてるのが分かるわ。

意思がある分、もうあなたには敵わないって思っちゃってるんだと思うわ」


「……そういうものか」


 カナにこれ以上戦う意思がないことが分かると、女王は立ち上がって周りを見回した。


「……相変わらずヤツの居場所が知れないが、まあ探してみるか」


「ごめんね、私もスカーレットがどこで何をしてるか知らないから」


「分かっている。

片がついたらほどきにくる。

しばらくはそのままで我慢していろ」


「はいはい、いってらっしゃい」


 女王はため息を吐くカナをその場に置いて、スカーレットを探しにその場を消えた。












『……目覚めよ怒り。

ほとばしれ猛り。

我が咆哮に耳を傾けよ』


 呪文を詠唱し続けていたスカーレットは【魅了(テンプテーション)】の魔力をもとに戦況を把握していた。


「……結局、真祖は皆やられちゃったのねん。

やっぱり影人ちゃんだけでも欲しかったわねん」


 スカーレットはやれやれとため息をつきながら、それでもぎらりと瞳を輝かせる。


「まあいいわん。

これが復活すれば、そんなの関係ないものん。

きっと、すべてを吹き飛ばしてくれるはずよん……」


 そう言うと、スカーレットは少しだけ憂いを秘めた瞳を覗かせた。


「……さて、とん……」


 そして、スカーレットが残りわずかな詠唱を再び唱え始めようとしたその時、



『やれやれ。

そこまでにしてもらおうかな』



「!!」



 スカーレットの頭に直接語りかける声があった。




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