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第百九十六話 違和感、懸念、そして駆け付け

「ハァッ!」


「……むぅ」


 青髪の真祖が放つ血の剣をプルは寸でのところでかわす。

 先ほどから彼が血を流すたびに増えていく血の武器にプルは辟易すると同時に違和感を感じていた。


 今や、プルの周りを数百本の真っ赤な血の剣が舞っている。

 それはすでに彼の身体に内在するであろう血液量をゆうに超えているように見受けられた。


「まだまだ行くぞ」


 そう言うと、青髪の真祖は自らの腕を引きちぎった。

 そして、それを上に放り投げると、腕は高速で回転し、青白い炎へと姿を変えた。


「くらえ」


 それをプルに投げつけると同時に、プルの周りを囲う血の剣がいっせいにプルを襲う。


「……」


 プルは向かってくる炎球を多重障壁で防ぐと、剣をひょいひょいと避ける。

 炎球が強力すぎて、全方位をカバーする結界では防げなかったからである。


 プルが剣を避けながら相手に目を向けると、引きちぎった腕はもう再生していた。

 それどころか、血を流すために自分でつけた傷ももうすべて再生していたのだった。


「……ふーむ」


 プルは青髪の真祖を包む、スカーレットの【魅了(テンプテーション)】にかかっていることを示す赤い光を見つめる。


 プルは精密に自分を狙ってくる血の剣を避けながら、青髪の真祖に違和感を感じていた。

 スカーレットの【魅了(テンプテーション)】を研究していく中で、対象に意思を持たせたまま戦わせた場合、たしかに過去の自分をトレースして臨機応変に戦ってくれはするが、その場その場の思考の瞬発力が必要となる高位の者同士での戦いではそれが不利に働くことにプルは気付いていた。

 グレイグが影人と戦った時がそうであったように。


 それにも関わらず、目の前の男は完璧に、精密に攻撃を仕掛けてくる。

 過去の自分と現在の自分との思考の矛盾など感じさせないほどに。


「……おまえ、もしかして操られてない?」


「……!」


 プルの言葉に、周りを巡る血の剣がピタリと止まる。


「お、当たり?」


「……」


 プルがこてんと首をかしげると、青髪の真祖はニヤリと口角を上げた。


「よく分かったな。

その通り。

俺様はスカーレット様の【魅了(テンプテーション)】にかかってなどいない。

俺様はスカーレット様に賛同したのだ。

平和主義で達観したこの国と女王には飽き飽きだ。

最強種である我ら吸血鬼(ヴァンパイア)はもっと世界に幅を利かせるべきなのだ!

だから俺様はスカーレット様に能力強化をしてもらっただけで、【魅了(テンプテーション)】などというものにはかかってなどいないのだ!」


 青髪の真祖はハッハッハッと大きな口を開けて笑いながら、尋ねてもいない情報まで話してくれた。


「……ふむふむ。

能力強化ね。

てか、あんたそんなキャラやったんかい」


 プルが開発した、スカーレットの【魅了(テンプテーション)】にかかっている者を判別する魔法は、スカーレットの魔力をトレースし、その影響下にある者を判別する魔法をベースにしていた。

 そのため、【魅了(テンプテーション)】にかかっていなくても、スカーレットの魔力をその身に受けているこの男も赤い光に包まれていたようだ。


「……」


 だが、そのことよりもプルが懸念したのは能力強化なる言葉。

 他人の力を強化する能力。


 魔法なのかスキルなのか。


 数多の魔法を開発研究するプルでも、そんな魔法は知らない。

 そうなると後者。


 他者のスキルを強化するスキル。


 そう考えてプルが一番最初に頭に浮かんだのが影人だった。

 他人のスキルを強化する、もしくはそれと同じ効果を発揮するスキルを他人に渡す。

 もし、そんなスキルを持つ能力者が影人以外にもいたら。

 もし、そんな奴がスキルを奪う魔王の元にいたとしたら……。


「こりゃー厄介そうだのう」


「何をぶつくさ言っている……ぶぎゃっ!!」


 ため息をつくプルに襲い掛かってきた青髪の真祖をプルは爆裂魔法で吹き飛ばす。


「ほいほいほいほい」


「わっ! ぎゃっ! ぎゃぷっ! ちょっ!」


 プルは先端に雪の結晶の意匠が施された杖から連続で爆裂魔法を放つ。


「……ぐっ……まっ! ……く……」


 青髪の真祖は次々に炸裂する爆発に耐えきれず、徐々に体が崩壊。

 血も蒸発していった。


「……く、そっ!」


 最後の力を振り絞ってなんとか血の剣をプルに飛ばすが、それもすぐに爆発によって撃墜され、蒸散された。


「……な、ぜ……急に……っ」


 もはや顔周りだけになってしまった青髪の真祖がなんとか言葉を放つ。

 さっきまで自分が優勢だったはずなのに、なぜ突然こうなったのかと。


「ん?

だって操られてないなら改善の余地なしじゃん。

それなら死刑にしていいって女王に言われてたから」


「……て、手加減、して、いた……のか」


 屈辱と絶望に満ちた真祖の男の顔面に、プルの最後の爆裂魔法が飛ぶ。


「手加減って難しいんだよね。

消滅させない程度に攻撃するのが大変だから防御ばっかしてた」


 そう言われて男は気が付く。

 プルが防御ばかりでほとんど攻撃をしてこなかったことを。

 てっきり自分の攻撃に手も足も出ないのだと。神樹の守護者の弟子などこの程度だと思っていた自分が愚かだったことを。


「……く……そ」


 そして、青髪の真祖は完全にこの世界から消え去ったのだった。













「……ミツキお姉ちゃん!」


「……フラウ。

あなたが来たのね」


 そして、夜想国中に矢の雨を降らせるミツキのもとにフラウが到着する。


「ミツキお姉ちゃん!

もうやめるです!」


 フラウは家屋の屋根の上で矢を放ち続けるミツキに向かって叫ぶが、ミツキは手を止めることはしなかった。


「無理よ。

私としての意思はあるけど、スカーレットの命令には逆らえないようになってる。

魅了(テンプテーション)】ってのは厄介ね、ホント」


 赤い光に包まれたミツキは困ったような表情をしながら弓を引き続けた。

 大技を連発し続けたミツキの右手の指からは血が流れていた。


「私が、私がなんとかするです!」


 フラウはそう言うと、光の巫女の力を手に集中させた。


 プルはフラウの光の巫女の力ならミツキにかかった【魅了(テンプテーション)】をなんとか出来るかもしれないと言った。

 いま、フラウの中で光の巫女の力を最大限に引き出す技は【聖剣(エクスカリバー)】の生成しかなかった。


<マリアルクス>の図書館での修行中、ほとんど成功しなかった技。

 それでも、今それが必要ならと、フラウは集められるだけの光の巫女の力を手に集中していった。


「! ダメよ! フラウ!!」


「……え?」


 ミツキの声に反応してフラウが顔を上げると、ミツキはフラウに向けて矢を射っていた。

 自分に対する敵性反応。

 ミツキはそれに反応し、フラウに向けて強力な魔力に包まれた矢を放っていたのだ。


「フラウ!」


「きゃあぁぁぁーー!!」


 フラウの方を向きながら叫ぶミツキは、またすぐに天に矢を放ちだした。

 フラウに放った矢をどうにかしたいけど、体が言うことを聞かないといった感じのようだった。


 フラウはそれを避けようとしたが、光の巫女の力に集中していたことで、超高速で迫るミツキの矢を避けることが出来なかった。



 そして……、



「フラウ!!」


「きゃあぁぁぁーー……あれ?」


「やれやれ。

間一髪だったな」



 その矢を、駆け付けた影人が叩き落としたのだった。



「ご主人様!」


「ああ。おまたせ、フラウ」





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