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194.魅了の欠点

 ガガガガガガンッ!



「……ふん」


 森の中で木々を縫うように高速で飛来する無数の弾丸を、女王は鎌の一振りで叩き落とす。

 その手に持つは漆黒の大鎌。

 大きくとも細身のその鎌は魔人の鎌と呼ばれていた。


 落とし損ねた弾が頬をかすり、女王の頬から一筋の血が流れた。


「それがおまえのいた世界の武器か。

久しぶりに見たな」


 女王は森の中を高速で走りながら話す。

 相手とは距離が離れているはずなのに、その声はしっかりと相手に届いていた。


「うん。

【女神の魔弾】。

私も、魔獣を狩る以外で再び使う時が来るとは思わなかったわ」


 話し掛けられた相手、第二位真祖の吸血鬼(ヴァンパイア)カナは感情を殺した瞳でそれに応えた。


「弓よりも速く、強い。

連射もできて、弾の補充も一瞬か。

相変わらず嫌な能力だ」


 女王は頬に流れた血をすくうと、ペロリと舐めてみせた。

 いつの間にか傷は治り、血も止まっているようだった。


「私が銃だと認識しているものは何でも生成できるわ。

弾もカートリッジごと生成できるから、たしかにリロードも一瞬かもね」


 カナはそう言って肩をすくめてみせた。


「グレイグと同じタイプのスキルだな。

だが、地面を介さない分、あれよりも高性能か。

さすがは転生者のスキルだな」


「まあね~。

まあ、さすがに大砲とかは銃の認識にはならないけど、これぐらいだったら、ぜんぜん銃だよね」


 カナはそう言うと、自分と同じぐらいの大きさの機関銃を生成した。


「!! ……ちっ!」


 女王はそれを見るやいなや、身に付けていたマントを翻し、森の中を飛翔した。


 ガーーーーッ!という、モーターと弾丸の発射音が轟音となって森に響き、木々を掃射していく。

 それが通過したところにあったものは次々に穿たれ、木々がバキバキと音を立てて倒れていった。


「……」


 カナの機銃掃射に追いかけられながら、女王は森の中を高速飛行してスカーレットを探していた。






「うんうん。

さすがは第二位真祖だわん。

これは時間稼ぎには十分ねん」


 そして、そのスカーレットは背の高い木のてっぺんに立ち、傷の修復に努めていた。


 そして、それと同時に呪文の詠唱も始める。



『かしこみかしこみ。

我、ここに奉らん。


遥かな太古に眠りし遥かな尊き力の源よ。

我が呼び声に応えよ……』



 スカーレットの始めた儀式に呼応するように、女王の館の奥深くに敷かれた魔方陣がホウッと赤い光を放ち始める。













「……だぁっ!」


「……」


 グレイグが横に振る大剣をしゃがんでかわす。

 そのまま跳躍しながら下から斜めに切りつける。


「ぐあっ!」


 グレイグは傷を押さえて後ずさった。


「……」


 チラリと影者たちを見る。

 2体の影者はグレイグが作成した剣や槍を完全に鎮圧していた。

 地面から刃が出た瞬間にそれを砕く、もぐらたたきのような状態になっている。

 それどころか、少し暇をもて余しているようにさえ見える。


「お、おのれ!」


 グレイグは再び大剣を振りかぶる。

 それと同時に、俺の足元から土の槍を突き出す。


 また同じ手を。


「……」


 俺は足元の槍を闇の力を纏わせた黒影刀で破砕してから、その刀でグレイグの剣を受け止めた。


「ぐぐぐぐ……」


 グレイグが力を込めるが、いっこうに俺に伝わってこない。


 おかしい。

 グレイグが弱すぎる。


 前に女王の館で戦った時はパワーもスピードもこんなものではなかった。

 スキルによる武器の生成ももっと速く、数も桁外れだったはずだ。


「……ふん」


「くっ! ……ぐわっ!」


 俺はグレイグの剣を弾くと、刀でグレイグの心臓を突き刺した。

 グレイグは刀を抜こうとして刃をつかむが、押し返すことも出来ていなかった。


「……どういうことだ?

スカーレットからは手加減しろとでも命じられたのか?」


 俺はグレイグに尋ねてみることにした。

 スカーレットの【魅了(テンプテーション)】にかかっていても、真祖であるグレイグには意識があるからだ。


「……ふん。

自分の戦闘経験をトレースして自考しながら戦うといっても、戦いというものはその度に変わるもの。

ただでさえレベルの高い者の戦闘は精密な魔力コントロールと卓越した技術によって支えられている。

いまこの場面でこう動きたいと思う俺と、過去の戦闘経験をトレースした結果で動こうとする俺とがせめぎ合い、十分に力が出せないんだ」


「……なるほど」


 なまじ意識が生きているせいで本来の能力を発揮できていないわけか。


「真祖ほど実力がなければそこまで違和感は感じないだろうし、日頃から戦闘に身を置いていなかった者ーー例えば転生者なら、違和感なく戦えるかもしれないが、それなりに実力が近い者との戦闘になるとそれが露呈するのだろう」


 強いがゆえに弱くなる、か。

 それも相手が自分と近しい実力であればあるほど。


 たしかに実力が逼迫した者同士での勝負事なんてものは一瞬の判断が勝負を分ける。

 過去の経験なんてものではなく、その時の一瞬を見て判断するのだ。


「……スカーレットの【魅了(テンプテーション)】の思わぬ弱点だな」


 数を作るには驚異的な能力だが、個々の能力を十二分に引き出すことは出来ないわけか。


「……だから、さっさと俺を倒せ。

出来れば殺さないでもらえると助かるがな」


 グレイグは胸に刺さった刀を抜こうと腕に力を入れながら、かすかに肩をすくめた。

 それぐらいの挙動なら取れるようだ。


「分かった。

命の保証はしないけどな」


「……このやろう」


 しれっと言い放った俺に、グレイグは苦笑していた。








「……さて、次はどうするか」


 俺は黒影刀についた血を払って鞘に納めた。


 グレイグはバラバラにした上で影者2体とともに俺の影に突っ込んだ。

 傷付けてもすぐに再生してしまうし、拘束しても破られる。

 そうなると、このやり方が一番効果的だ。


「……」


 俺は皆の気配を探ってみた。


 プルはもう1人の真祖と戦っているが、そいつもグレイグと同じように本来の力を発揮できていないのならプルの敵じゃない。

 そもそもプルにそんな心配は無用だろう。


 ノアは館の方に急いでいるようだが、雑魚吸血鬼(ヴァンパイア)を狩っているのだろうか。

 とはいえ、広範囲殲滅の中に飛び込んでも邪魔なだけだろう。


 それは女王も同じか。

 そもそも女王は気配を感知できないほど遠くにいるようだし。


「……そうなると、やっぱりフラウのところか」


 フラウがミツキの元に急いでいたことには気付いていた。

 途中でプルと合流したことも。


 フラウの光の巫女の力なら、ミツキにかけられた【魅了(テンプテーション)】も何とか出来るのではないか。

 それを研究していたプルがそう考えても不思議ではない。


 とはいえ、やはりフラウもミツキ相手にはやりづらいだろう。


「……よし」


 俺はフラウの元に向かうことを決め、さっそく【影追い】でフラウの元に転移しようとした……、


「……ん?」


 が、自分の影に潜ることが出来なかった。


「……転移できない?」


 どうやら、影の中にグレイグがいる影響で影を使った転移が出来ないようだ。


 グレイグを影者2体でがんじがらめにしているのだが、まさかこんな弊害があるとは。

 これは気を付けなければ。


 とはいえ、グレイグを外に出すことも出来ないし。


「……仕方ない」


 俺は闇の力で身体強化をして、フラウの元まで走ることにした。


「……フラウ、待っててくれ」


 そうして、俺は猛スピードでその場から消えていった。




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