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第百九十一話 やりすぎ注意

 女王たちが飛び立つと、周囲が騒がしくなってきた。

 敵側の吸血鬼(ヴァンパイア)たちが動き始めたようだ。

 そこここで戦闘が始まっている。


 女王の魔人の鎌のことも気にはなるが、今は目の前の戦いに集中しなければ。


「ぅがぁぁぁーー!!」


「おっと」


 俺は噛みついてきた吸血鬼(ヴァンパイア)をかわし、黒影刀で一薙ぎする。

 襲いかかってきたヤツは低位の吸血鬼(ヴァンパイア)のようで、ほとんど自我がなかった。

 おそらく元の形質を引き継いだまま操るよりも、完全に意識を刈り取った状態で暴れさせた方が俺たちにとって厄介だとスカーレットが判断したのだろう。

 元の形質を引き継げば戦闘勘などから効率的で戦略的な戦いをしてくれるが、危機管理能力も残るため、無駄に回避行動を取ったり防御行動を取ったりするのだと女王が言っていた。

 グレイグのような高位な吸血鬼(ヴァンパイア)ならまだしも、使い捨てにすぎないと思われているのであろう低位の吸血鬼(ヴァンパイア)には不死を利用したゾンビアタックの方が効果的だとスカーレットが判断してもおかしくはない。


「……ん?」


 胴体から真っ二つにした先ほどの吸血鬼(ヴァンパイア)はすぐに等分された体をくっつけると、再び叫び声をあげて俺に襲いかかってきた。


「ちっ……」


 俺は再びそいつを切りつけた。

 今度は何度も剣を振り、吸血鬼(ヴァンパイア)を文字通り細切れにした。

 バラバラになった肉とともに血潮が舞う。


「……ふむ」


 バラバラにされた吸血鬼(ヴァンパイア)の肉はすぐにもぞもぞと動き出し、再び集合しようとしていた。

 これでは数分と経たずに元通りになってしまう。


「影人。

そういう時はこうするのだ」


「ん? ……どわっ!」


 俺が集まろうとしている肉片に目を向けていると、横から巨大な鎚が落ちてきて、それらを完全に押し潰した。


 ノアさん。

 いろんなもんが俺の顔に飛んできたんですが……。


「……さっきより再生が遅いな」


 粉々になった吸血鬼(ヴァンパイア)はほとんど血液しか残っていなかったが、それでも中心に集まろうとしていた。

 だが、先ほどよりも動きがだいぶ鈍い。


「切るよりも潰したり焼いたりした方が再生が遅くなるって、前にヴラドが言ってたのだ!」


 ノアはそれだけ言うと、巨大化させた鎚を振り回しながら敵陣に飛び込んでいった。


「……なるほど。

再生にかける工程数を増やすのか」


 ただ切り離しただけでは細胞同士をただくっつけるだけでいいから、そこまで時間はかからない。

 潰したり焼いたりすれば、その再生にも力を回さなければならないから時間がかかるってことか。

 つまり、ヤツらに単純な斬撃は効果が薄いということだ。


「フラウ。大丈夫か?」


 俺は横で戦っていたフラウに声をかけた。

 フラウは二刀短剣を振り回して吸血鬼(ヴァンパイア)たちを刻んでいたが、その再生力に戸惑っているようだった。

 いくら再生するとはいえ、相手を殺すつもりで何度も切りつけなければならないのはフラウにはキツいだろう。

 しかも、その相手がどれだけ傷付けようが襲いかかってくるのなら、なおさら。


「だい、じょうぶです、けど、すぐ元に戻っちゃうです」


 フラウは懸命に敵を切りつけていたが、斬撃ではやはりすぐに戻ってしまうようだった。


 だが、おそらくフラウなら。


「フラウ。

剣に光の巫女の力を纏わせられないか。

ほら、俺がやるみたいに」


「あ、はい。

やってみるです……えいっ!」


 フラウは俺の言葉を聞くと、短剣に眩しく輝く魔力を纏わせた。

 それは神々しいほどに白く眩しく輝いていた。


「……よし。てやっ!」


「ぎゃああぁぁぁっ!」


 フラウの光の剣で切られた吸血鬼(ヴァンパイア)は一振りで体がぼろぼろに崩壊していた。

 散らばった肉片や血液はかろうじて動いていたが、すぐに再生できる様子はなかった。


「すごいな……」


 どうやら光の巫女の力は吸血鬼(ヴァンパイア)に対して特効を持つようだ。


「……はぁはぁ」


 だが、フラウ自身がこの技に慣れていないようで、疲労が出るのが早かった。


「フラウ。

それはなるべく使うな。

剣を振る一瞬に出力するようにしながら戦うといい。

無理はするな」


「わかったです!」


 フラウはそう返事をすると光の巫女の力を引っ込めて戦場に飛び込んでいった。

 あの力があればそう心配する必要もないだろうが、一応、フラウの気配にマーキングをして様子を見ておくとするか。


「……さて、俺はどうするか」


 フラウと同じように闇の力を刀に纏わせても、おそらく同系統の力である俺の斬撃では普通に切るのと大差ないだろう。

 斬撃ではない攻撃となると魔法だが、俺はあまり魔法が得意ではない。

 一応、スペルマスターになってはいるが、申し訳程度に使えるレベルで、このレベルの敵に効果を発揮するとは思えない。

 プル曰く、闇の力に容量を割いてるからそっちにまでスペックが回らない、らしい。

 とはいえ、その力も、斬撃も効かないとなると……、飛ばしてみるか。


 闇の力を魔法のように飛ばす。


「ぅがぁぁぁーー!!」


「……」


 俺は襲いかかってきた吸血鬼(ヴァンパイア)をとりあえずバラバラにしてから、黒影刀に意識を集中した。


 刀に闇の力を集中。

 全体に纏わせる。


 次にそれを刀の先端に集めていく。

 刀をはみ出していくその力を球状に。


「……よし」


 バスケットボール大の真っ黒な球形の中に命の実の欠片の力が散らばり、さながら小宇宙のような、星々煌めく真っ黒の球体が刀の先端に出来上がる。


 それを少しずつ刀から切り離すように、さらに先へ先へ。


 刀を真上に向けて、その上に浮かぶように黒い球体を刀から切り離す。


 プツ……と、黒の魔球が刀から離れ、宙に浮かぶ。


「がああぁぁぁーーっ!」


 ちょうど目の前に、ゾンビのように迫りくる吸血鬼(ヴァンパイア)が現れる。

 俺はそいつに向けて刀を振りかぶると、刀の上に浮かぶ球形を投げるようにそいつに向けて撃ち放った。


 黒の魔球は静かに、だがものすごい速さで敵に向かって直進した。


 そして、


「……はっ?」


 吸血鬼(ヴァンパイア)に衝突した魔球は敵の体を血液1滴残さず一瞬で焼き付くし、そのままその後ろにいた吸血鬼(ヴァンパイア)をも消し飛ばし、それでもなお勢いを弱めることなく直進を続け、その進行方向上にいたすべての吸血鬼(ヴァンパイア)を消したあと、家々をも吹き飛ばしてそのまま見えなくなった。


「……えーと」


 そのあまりの威力に呆然としていたところに、タイミングよく現れて一部始終を見ていたプルが俺の背後でそっと呟く。


「……女王はなるべく殺すなって」


 不可抗力だ。


「……影人の闇の力はその身に纏うだけで高火力を発揮する。

あれだけ高密度に圧縮して放てばああなる」


 ここまでとは思わなかったんだよ。


「……女王は建物を壊したくないからって手加減してたね」


 うるさいな!




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