第百八十九話 存在証明
「惑わされし愚者をさらせ。
《存在証明》」
プルの杖から放たれた光は空に立ち昇ると急激に膨張し、一瞬で夜想国の端まで広がった。
「……これは」
女王が空に広がる光を見上げていると、その光の一部が地上に降りてきて一瞬だけスカーレットを包むと、再び空へと還っていった。
そして、空に広がった光は無数の赤い光点に変わり、いっせいに地上に降り注いだ。
「ひゃっ!」
「なんなのだ!?」
地上に降り注ぐ無数の赤い光にフラウもノアも目をつぶった。
その閃光の降射はしばらく続き、やがて、ピタリとやんだ。
「な、なんだこれはっ!?」
「ん?」
誰かの叫ぶ声に目を開けたフラウが見たのは、赤い光に包まれる吸血鬼たちだった。
スカーレット側にいた吸血鬼は全員がその赤い光に包まれていたが、女王側の吸血鬼は半分ぐらいだけで、他にはミツキなんかもその光の中にいた。
「その光に包まれてるのが【魅了】にかかってるヤツ。
つまり敵」
「……よもや、自軍の半数が取り込まれていようとはな」
女王は自分の味方だと思っていた自軍の吸血鬼が赤い光に包まれている光景にため息をついた。
正体がバレた女王側の吸血鬼たちは、今は皆一様に虚ろな目をしていた。
『操られていることに気付かれないように潜入していろ』
という命令が失敗に終わり、待機状態に移行したためのようだ。
「ふ、ふふふ。
まさか、ワタクシの【魅了】を看破してくるとはねん」
スカーレットが口から血を流して俯きながら呟く。
「……ホントは術自体を解くようにしたかったけど、時間が足りなかった。
残念」
「……ふふ、あなたは本当に、恐ろしい人ねん」
プルの返答にスカーレットは薄い笑みを見せていた。
「プル。
助かった。
申し訳ないが、もう一仕事頼みたい。
我の屋敷の地下牢獄に行って、捕らえてある吸血鬼たちの真偽を確かめてもらいたい。
まず影人から連れてきてもらえると助かる。
術にかけられている者が予想よりも多かった。
援軍が必要だ」
「ふむふむ。
おけー。
いてくるでー」
女王に頼まれたプルはさっさと転移し、その場から消え去った。
軽く承諾したように見えるが、プルは現状の戦力差を鑑みて早急に必要だと判断したようだ。
「……最悪の、状況ねん。
かくなる上は、短期決着よん」
プルが転移したのを見たスカーレットは震える指をパチンと鳴らした。
「やっほ!」
「おわっ! ……ああ、プルか」
あちら側の戦況にプルの気配が現れ、この地下牢に赤い光が飛んできてどうなるかと思ったが、そのままの足でこっちに来てくれたのか。
「無事に魔法の開発は終わったんだな」
開戦はしてしまっていたが、どうにか間に合ったようで良かった。
「ん。
でも思ったより操られてるのが多い。
そんで私は女王に言われて、ここに閉じ込められてる味方を解放しにきた。
まずは影人を連れてこいって」
「そうか」
ということは、自軍の方にも【魅了】にかけられた吸血鬼が多数いたということか。
グレイグもそうだと考えると、たしかに戦力が足りない。
「……影人は操られてない」
プルは赤の光が俺を包んでないのを確認すると牢を開けた。
鍵はかかっていなかったようだ。
「よし。
じゃあ、俺は【影追い】で先に行ってる。
プルも選別を終えたら皆と一緒に転移してきてくれ」
「らじゃらじゃ」
俺が影に沈みながら言うと、プルは敬礼をしながら去っていった。
はたして牢にはどれだけの味方がいるのか。
いずれにせよ、俺は敵を減らすことに尽力するか。
そうして俺は自分の影に潜り、夜想国の中心へと急いだ。