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第百八十八話 惑わし惑わされ

「……ぐっ」


 大剣で胸を貫かれ、女王は地面に膝をついた。

 傷口からは大量の血が流れ、その口端からも血が流れる。


「……力が、入らぬ。

……その、剣、は……」


 女王は地面に大きな血溜まりを作りながら、自らを貫く大剣を見下ろした。


「そうよん。

聖剣エクスカリバーに次ぐ聖度を誇る浄化の大剣カタルシス。

見つけるの大変だったのよん」


 スカーレットがわざとらしく肩をもんでみせた。


「……ま、さか、グレイグにまで、術を……」


 女王はうつむき、目が霞んでいるのかぼんやりとしていた。

 本来であれば、女王ならば体を大剣で貫かれた程度では何の支障もないのだが、どうやらこの剣は女王の不死性を阻害する能力があるようだった。


「ふふふ。

そうよん。

影人ちゃんも手に入れば良かったんだけど、この国でお姉ちゃんに次ぐ序列に当たるグレイグちゃんも欲しかったのよん。

だから、どっちもにモーションをかけてたってわけん。

単独で動いてたグレイグちゃんは【魅了(テンプテーション)】をかけやすかったから、ワタクシが影人ちゃんのところに行った時には既にグレイグちゃんは術にかかってたのよん」


 スカーレットは勝ちを確信したのか機嫌良さそうに饒舌になっていた。

 実際、女王さえ抑えてしまえば、真祖を取り込んでいるスカーレット軍の戦力は圧倒的だった。


「……ふ」


「あらん?」


 女王は満身創痍な様子だったが、うなだれながらも口角を上げてみせた。


「……影人、の、予想が、当たったな」


「……え?」


 女王がそう言うと次の瞬間、


「……がっ!」


 スカーレットの体を大剣が背後から貫いていた。

 そして、その剣を持っていたのは傷ひとつない姿の女王だった。


「……な、なんで、」


 スカーレットが口から血を流しながら、先ほどまで女王がいた場所に目を向けると、女王だったものは影に変わり、地面に溶けようとしていた。

 そして、浄化の大剣カタルシスはそこにはなく、今はスカーレットの体を貫いているのだった。


 操られているグレイグも驚いたような表情でスカーレットたちのことを見つめていた。


「……あ、れは、影人、ちゃん、の?」


 スカーレットはその技に聞き覚えがあった。

 自分の影から分身をつくる技。

 影人が滅びの王になった時に使えるようになったと魔王軍には通達があったのだ。

 姿形を自在に変えられるという報告はなかったが、そういう機能もあったのだろう。


「ああ。

その通りだ。

これは私が影人から教わったものだ」















「……始まったか」


 俺は目を閉じ、夜想国に分布する気配を探っていた。

 スカーレット率いる吸血鬼(ヴァンパイア)集団が国に侵入し、女王側がそれと対峙したことは把握している。


 グレイグを含めた、あの日暴動の鎮圧に出向いた吸血鬼(ヴァンパイア)全員が【魅了(テンプテーション)】をかけられている可能性があると女王には伝えておいた。

 その筆頭である俺が言っても信憑性はないが、女王はどうやらその言葉を信じてくれたようだ。


 信用した理由はやはり俺が万有スキルを保有していることを告げたからだろう。

 そして、【魅了(テンプテーション)】への対抗策として【影者召喚】を教えたからだ。


 正直、俺が保有している【影者召喚】を『百万長者』に回収させてから女王に貸与しても良かったのだが、このスキルはきっと俺自身が今後重宝すると思い、女王に自力で修得してもらうことにしたのだ。

 一度、『百万長者』に回収させたスキルは再び俺に還元させることは出来ないからな。


 女王に影のスキルを扱う適性があるとはいえ、一朝一夕で新たなスキルを修得できるかは微妙な所だったが、『百万長者』内の【修得効率上昇】のスキルを貸与したら何とか修得してくれた。

 これはプルの【時の旅人】の下位互換のようなものらしい。


 もしも俺がスカーレットだとしたら、グレイグあたりを自分のものに出来ているとしたら、まず最初に狙うのは女王だ。

 女王さえ何とかしてしまえば、ナンバーツーのグレイグを抑えているのなら勝ちは確定したようなもの。


 ならば、例えば女王の弱点となるような攻撃でグレイグあたりに不意を突かせればあるいは。

 スカーレットならそう考えそうだ。


「……何とか、うまくいってくれていればいいのだが」














「まったく。

影人の読みがピタリと当たったな」


「ぐうぅ……っ!」


 女王がやれやれとため息をつきながら大剣をさらにスカーレットに突き刺す。

 傷口からはボタボタと血がこぼれ、スカーレットの顔がどんどん青くなっていく。


「……さて、あとは操られている奴らをどうにかしなければ……」



「呼~ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」



「プル!」


「プルなのだ!」


「……さすが。

良いタイミングだ」


 その時、亜空間からプルが現れ、フラウたちの隣にスタッと華麗に着地した。


「うーんと、なんかよく分かんないけど間に合った感じ?」


 プルは周りをキョロキョロと見回したあと、首をこてんと倒してみせた。


「まあ、何とかな」


 女王は呑気なプルの姿にやれやれとため息をついた。


「それで?

待たせた成果は上がったのか?」


「もちのろん!」


 女王に問われ、プルは雪の結晶のような先端を持つ杖を高々と掲げてみせた。



「惑わされし愚者をさらせ。

存在証明(レーゾンデートル)》」



 そして、プルの杖先がまばゆい光りを放った。





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