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第百八十四話 窮地に……

「それじゃ、そろそろ術をかけさせてもらおうかしらん」


「……くっ」


 一度は上空に逃げたのだが、操られているミツキとスカーレットによって引き戻されてしまった。


 スカーレットが一歩一歩近付いてくる。

 俺は出現させていた2体の影を集結させた。

 とりあえず、少しでも時間を稼がなければ。



「……無駄な抵抗はやめた方がいいわよん」


 スカーレットが指をパチンと鳴らすと、俺を囲んでいた吸血鬼(ヴァンパイア)たちがいっせいに襲いかかってきた。

 ただし、俺ではなく2体の影たちに。

 ミツキもそこに参戦している。


「……ちっ」


 俺は応戦を命じ、2体はミツキの矢に警戒しながら吸血鬼(ヴァンパイア)たちとぶつかる。


 個体の能力は俺の影の方が上だが、超速再生を持つ不死の吸血鬼(ヴァンパイア)が十数体。

 さらには完全に消滅させるために影が決め手を打とうとすると、タイミングよくミツキの矢が飛んでくる。


 これは、完全に時間を稼がれているな。


「……おまたせん、影人ちゃん」


「……スカーレット」


 影の戦いを眺めていると、いつの間にかスカーレットが俺の目の前に来ていた。

 傷の軽減に意識を割いていて油断していた。


「さ、て、とん……」


 スカーレットの瞳が真っ赤に染まり、瞳孔が縦に開く。


「……くっ」


 黒影刀を抜こうとするが体が動かない。


「……金縛りか」


「真祖の第1位ともなれば、いろんなことが出来るのよん」


 スカーレットの瞳が紅く輝いていく。


「……やっぱりすぐにはかからないわねん。

普通の人なら瞳を見ただけで【魅了(テンプテーション)】にかかるのにん」


 スカーレットの魔力がどんどん高まっていくのを感じる。

 それと同時に、少しずつ意識が減じていく。


 これはマズい。


「……そろそろねん。

あなたのことはワタクシがうまく使ってあげるわん」


「……く、そ」



 そして、俺の意識が閉じかけたその時、



「ご主人様!」



 聞き慣れた声に意識が再び覚醒する。



「フラウ!」



「あらん?」



 そして、俺の足元の地面が盛り上がり、スカーレットとの間に土の壁が出来上がる。


 スカーレットの視線が切れ、縛られていた体も糸が切れたように動く。

 土壁をよく見ると、ほのかに光を帯びているのが分かった。

 どうやらフラウの光の巫女の力が含まれているようだ。


「ご主人様~!」


「おわっと!」


 フラウが俺の上に落下してきて、それを何とか受け止める。


「間に合ったのだ!?」


「……ノア。

ああ。助かったよ」


 ノアが俺の横に着地する。

 上を見上げると、巨大なスロープのような坂道が出来上がっていた。

 どうやらノアがこの場所への直通ルートを作ったようだ。


「ご主人様、無事で良かったです~」


「ああ、ありがとう。

助かった」


 フラウが目を潤ませながら見上げている。

 俺は抱えていたフラウをそっとおろす。



「……いつの間にか、助けを呼んでたのねん」


 スカーレットの声が土壁の向こうから聞こえる。

 少しだけ不機嫌そうな声色を含んでいる。

 さすがに、こんなに早く来るとは思っていなかったようだ。



 俺は攻撃を受けた時からフラウたちの気配を探っていた。

 策にはめられた状態で1人でこの場から逃れるのは難しいと思ったので、救援を呼ぶ以外にはなかった。


 フラウたちと接触できなくとも、少しでも騒ぎが伝わればと思い、フラウたちの方向に飛んだのだが、無事に気付いてくれたようで良かった。


「いや、急に影人が空を飛んでると思ったら足に鞭が巻き付いて引きずられていったから驚いたのだ。

そしたらフラウが慌ててそこに行こうとしてて。

めんどかったから直通ルートで来ることにしたのだ」


「そうか。

すぐに来てくれて良かった」


 ノアが高速で飛行する俺に気付いてくれて、フラウがその緊急性に気付いてくれなければ間に合わなかった。

 2人に感謝だな。



「……これは、もう無理かしらねん」


 土壁の向こうにいるスカーレットの声が届く。

 フラウとノアが合流すれば確かにスカーレットたちに勝ち目はないだろう。


「……まあいいわん。

少しは収穫はあったし、本戦に備えるとしましょ」


 そう言うと、スカーレットの気配が飛ぶ。

 いつの間にか影たちの戦闘も止まっていて、吸血鬼(ヴァンパイア)たちは1ヶ所に集まっていた。

 その中心にスカーレットが現れる。

 隣にはミツキが控える。


「ミツキお姉ちゃん!?」


「……ミツキは引き込まれてたのだ?」


「……そんな」


 困ったような悲しいような表情を見せるフラウとは対称的に、ミツキは眉ひとつ動かさなかった。



「そろそろこっちの準備は整うわん。

また会う時を楽しみにしてるわねん」


「……」


 スカーレットはそれだけ言うと、その場から姿を消した。

 ミツキや他の吸血鬼(ヴァンパイア)たちとともに。



「……ミツキお姉ちゃん」





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