第十八話 事前会談。本番?知らんて
翌日。
公式な会談の前に、まずは事前に打ち合わせを兼ねた話し合いが行われた。
公式な会談には四大大将を含めたお偉いさんが多数出席するので、あらかじめそこでの話の内容をまとめておくそうだ。
参加しているのは俺とフラウ。
殿様とカエデ姫。
護衛も兼ねてテツとトリア。
そして、
「草葉殿!
この度はよくぞ!
よくぞこの<ワコク>に参られました!
我ら一同!
国をあげて歓迎いたします!」
「あ、ありがとうございます」
この元気なさわやかイケメンの7人だ。
「ねえ!
父上!
カエデ!」
「…………」
「え、ええ。
もちろんですわ」
このさわやかイケメンは昨日の殿様との話に出てきた、殿様の長男で名前はイエツグだそうだ。
この国の正統後継者でもある。
それにしても、カエデ姫が気まずそうにしているのは分かるよ。
こちらこそ、昨夜はお見苦しい所をお見せしてしまった訳だからな。
だが、おっさん。
なんであんたまでむくれてるんだよ!
こちとらある意味被害者だぞ!
そんで、引いてはこの城の最高責任者であるあんたの警備のザルがそもそもの原因だろ!
息子が精一杯歓待の姿勢を示してるのに、国主のあんたがそれじゃ台無しだろ!
こちとら、カエデ姫に結界球ビンタくらって、あんたに全裸飛び蹴りされたんだぞ!
2人とも威力半端ないし!
おかげで俺の両頬には手形と足形がばっちりだ!
さっきからフラウの『?』な視線が痛いんだぞ!分かるか!
「父上!
いい加減にしてください!
あなたがそんなだから、この国には男性の転生者が来ないのですよ!
国主ならば、公務とプライベートの区別ぐらいはつけてください!」
よく言った!
イエツグさん!
もうあなたがこの国を継いじゃいなさい!
きっとその方が良い!
あんな親バカ殿はさっさと引退だ!
言いたかったことを言ってくれたイエツグさんに俺は心から賛辞を送った。
「………仕方あるまい。
話を進めるとしよう」
殿様はイエツグさんに言われて、しぶしぶながら、ようやく話をする気になったようだ。
いや、おっさんの膨れっ面に需要ないからな!
「まったく。
すみません、草葉殿」
いえいえ、あなたも大変ですね。
そんな気持ちを込めながら、俺は困ったような顔で軽く会釈しておいた。
「では、まずは私がこの世界の背景を簡単にご説明しましょう」
そう言って、イエツグさんはいろいろと説明してくれた。
昨日、団子屋で<ワコク>の概略を説明してもらったことは伝わっているようで、それ以外の所を話してくれた。
まず、この世界は女神アカシャによって創造された世界で、大気には魔力が満ち、人々は魔力の恩恵を受けながら生活しているという。
女神アカシャっていうのは、どうやらあのパン神のことのようだ。
また、さまざまな知的生命体が存在していて、
人間。
エルフ。
ドワーフ。
獣人。
リザードマン。
ドラゴニュート。
オーク。
妖精。
魔族。
などなど。
その種類は多岐に渡り、それぞれの種族が広大なこの世界で国や集落を作って生活している。
交易を行ったり、積極的に交流を深めようとする種族もいるが、基本的には互いに不可侵として、それぞれの種族が平和に暮らしていたそうだ。
数年前までは。
だがある日。
そんな平和な世界に魔王が降り立った。
それ以前から転生者はいたそうで、いろいろと争いの火種になってきたこともあったみたいだが、それまでは何とかなってきたらしい。
でも、魔王は今までの転生者とは一線を画するほど強力な力で、あっという間に魔族を完全に支配し、そのまま全世界に宣戦布告した。
当然、各種族とも対抗したが、魔王はこれまで自然発生でしか現れなかった魔獣を人工的に作り出すことに成功し、その力で持って各種族の集落や国を蹂躙。
瞬く間に領土を広げていったという。
一方、人間は魔族の領土から遠い所に国を構えていたため、長く力を溜め込むことができた。
撤退してきた各種族の者や、遠方にいたモノたちも集い、また、転生者も多数囲い込むことができたため、魔王にとってはこの人間の領域が世界掌握に向けた最後の砦となっていたのである。
もちろん、まだ各地区で小競り合いを続けている種族や、カエデ姫のような強力な結界や完全隠蔽術を行使して国を守っている種族もいる。
だが、それらも時間の問題で、いずれは陥落してしまうだろう、とのことだった。
そして近々、魔族による大々的な侵攻作戦が開始されるようで、1人でも多くの戦力を必要としているのだと言う。
特に、転生者の持つスキルは強力なものが多く、転生者1人の力で戦況をひっくり返すこともあるという。
しかも、年々転生者のスキルが強力になっているため、どこの国も転生者の獲得に躍起になっているそうだ。
そうして、この度、各国の転生者を含めた最大戦力でもってして、魔族による大規模侵攻作戦を打ち破ろうということになったという。
「なるほど」
それは確かに、どこも転生者を欲しがるわけだ。
間違っても、魔族側に回られたりしたらたまったものじゃないだろうしな。
「ですので!
草葉殿には我が国の転生者として、その防衛作戦に参加していただきたいのです!」
と、イエツグさんが熱く語った。
カエデ姫が少し顔をしかめたが、俺にはその原因が分かっている。
「イエツグさん。
お話いただき、ありがとうございます。
その話からすると、俺が<ワコク>の転生者として参戦しなければならない理由はないですよね。
そもそも、世界の命運を懸けた防衛作戦なのに、各国の代表として人員を割かなければならないのですか?
あなたたちはいま、どこを見ているんですか?
この国に生きる民ですか?
世界の平和ですか?
それとも、魔王討伐後の利権、ですか?」
そう、目線で冷たく射抜かれたイエツグさんは、
「ぐっ」
と、言葉に詰まってしまった。
「そういうことでしたら、俺はここには居られません。
フラウ。
行くよ」
俺はそれだけ言って、その場を立ち去った。
フラウもカエデ姫の方をチラチラと見ていたが、少ししてから俺を追い掛けて出てきた。
実はフラウとは、昨日の入浴の前に一度、きちんと話をしていた。
フラウの姉を探してやりたいこと。
姉を探す手段はある程度考えられること。
<ワコク>を含めた各国は俺を自国の所属にしたいであろうこと。
そうなれば、自由に動くことは難しくなり、姉探しが滞る可能性があること。
だが、カエデ姫の保護下に入れば、おそらく姉を探してくれるだろうこと。
俺と旅をすることは危険も孕み、最悪、命を落とす可能性もあること。
それらの事実を、俺は包み隠さずフラウに伝えた。
中途半端にメリットだけを伝えても、フラウのためにならないし、生半可な覚悟で俺についてこられても困るからだ。
その話をすると、フラウは少しだけ考える仕草を見せたが、
すぐに、
「ご主人様と一緒に行く!」
と答えた。
俺がいいのか?と聞くと、
「お姉ちゃんがそう言ったから!」
と自信満々に答えてきた。
俺がふっと笑い、
「お姉ちゃんのことが大好きなんだな」
と呟くと、
「うん!」
と元気よく即答してきた。
俺はフラウの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
カエデ姫。
俺にもあなたがふわふわしていた理由が少し分かりましたよ。
部屋を出て少しすると、
「草葉殿」
殿様が追い掛けてきていて、俺を呼び止めた。