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第百七十七話 目撃者ミツキの報告

「……あれは、スカーレット、よね?」


 路地裏に潜む大量の吸血鬼(ヴァンパイア)と、その中にいる見覚えのある女性。

 民家の屋上に移動したミツキは改めてそれが魔王直属軍のスカーレットであることを確認した。


 金髪の長い髪。

 肉感的な身体。

 そして、真っ赤な瞳。

 

 かつて、西の<アーキュリア>をたった1人で滅ぼし、エルフの大森林を掌握しようとした存在。

 そんなヤツが今は、吸血鬼(ヴァンパイア)の国をどうにかしようとしている。


「……こ、これって、マズいやつよね」


 なぜ吸血鬼(ヴァンパイア)であるスカーレットが吸血鬼(ヴァンパイア)の国に潜んでいるのか。

 目的は分からなくとも、こんな路地裏で人々に隠れるように大量の吸血鬼(ヴァンパイア)を潜ませているのだから、きっとろくでもないことなのだろう。

 女王と影人の会話を聞いていなくても、ミツキはこれを異常事態だと察した。


「……どうしよう。

これは早く影人と女王に伝えた方がいいのか。

それとも、もう少し情報を仕入れた方がいいのか」


 冒険者としてそれなりに経験があるミツキは斥候には自信があった。

 弓士というジョブの特性からしても、潜むことには慣れていた。

 おまけに今は吸血鬼(ヴァンパイア)への擬態と、【隠者】によって完全に隠密できている。


 このまま彼女たちを追い、その狙いを突き止めることも出来るのではないか。


 ミツキがそう思うのも無理からぬ話だった。


 ミツキがそんなことを考えていると、スカーレットが吸血鬼(ヴァンパイア)たちに何事かを告げていた。


「!」


 そして、それを聞いた吸血鬼(ヴァンパイア)たちは散り散りに、街の中へと消えていった。


「……」


 ミツキはその光景をまばたき1つせずに見つめた。

 敵は女王と同じ吸血鬼(ヴァンパイア)

 女王が敵が誰なのか判別できないのだとしたら、今この場にいた吸血鬼(ヴァンパイア)を覚えておくことはきっと貴重な情報になる。

 ミツキはそう考えて、街に溶け込んでいく吸血鬼(ヴァンパイア)たちを一人ひとり頭に焼き付けた。

 さすがに数が多すぎて全ては覚えきれなくとも、狩人として獲物を追うことに慣れたミツキの目は、彼らの姿形を脳に克明に刻んでいった。


「それでん?

あなたはこんな所で何をしてるのかしらん?」


「しまっ!」


「あれん?

あなたは~……」


 吸血鬼(ヴァンパイア)たちを記憶するのに集中していたミツキは背後に現れたスカーレットに気が付くのが遅れた。

 ミツキの姿を捉えたスカーレットの瞳が瞬き、スカーレットはミツキに見覚えがあることに気が付いたのだった。












「影人っ!

起きろっ!

緊急事態だ!」


「……どうした?」


 グレイグが慌てた様子でドアを開けて入ってきた。

 俺は警戒を解かずに寝ていたので、グレイグが動いた時点で目を覚ましていた。

 グレイグの声で起きたフラウとノアが眠そうに顔を上げる。


「女王から念話だ!

影人の仲間の女が転移してきて、重要な情報を持ち帰ったそうだ!

急ぎ、部屋に来てほしいとのことだ!」


「ミツキか。

分かった」


 街に繰り出していたミツキが戻ったようだ。

 だが、女王の部屋に転移してくるほどの緊急性を持った情報というのはなんだろうか。


 俺はフラウとノアをちゃんと起こし、再び女王の部屋へと向かった。

 いつもの服のまま寝るようにしていたので、そのまま移動することにした。








「女王。

失礼します。

影人たちをお連れしました」


「うむ。

ご苦労」


 ノックしてから部屋のドアを開けて入室したグレイグを女王が労う。


「すまないな。

休んだばかりだと言うのにすぐに呼び出して」


「いや、構わない。

それよりも緊急事態というは?」


 俺が女王に尋ねると、ミツキが俺に駆け寄ってきた。


「影人!

スカーレットよ!

スカーレットが街に潜んでたの!

それも大量の吸血鬼(ヴァンパイア)と一緒に!」


「! ……詳しく聞かせてくれ」



 そして、俺はミツキから街での出来事を聞いた。






「……と、まあこんな感じかな」


「そうか。

もうそんなところまで奴らは入り込んでいるのか」


 スカーレットの【魅了(テンプテーション)】をかけられた吸血鬼(ヴァンパイア)が民衆に紛れ込んでいるのだとしたら、かなり面倒なことになるな。


「……おかしい」


「……女王?」


 女王が顎に手を当てて眉間にシワを寄せている。

 何か不審に思うことがあるようだ。


「スカーレットがこの国にいるはずがない。

夜想国の夜の帳の結界は侵入者を感知する。

そして、スカーレットが侵入した形跡はない。

だから、この国にスカーレットがいるはずがない」


「え?

でも、私が見たのは間違いなくスカーレットだったわ」


 ……どういうことだろうか。

 結界内に侵入したら分かるはずなのに、なぜかスカーレットはこの国にいた。

 ミツキの見間違いか?

 だが、ミツキは間違いはなかったと断言している。

 他に考えられるとしたら……。


「あ、あの~」


「フラウ?」


 フラウが恐る恐る手を挙げていた。


「あの、魔王さんのスキルを使えば、結界の中に来れるんだったような……」


「あ、そうか」


 魔王の万有スキルならば結界内に転移できるんだったな。

 結界の通過だけを感知する結界だと、いきなり結界内に転移してくる者の存在を感知できないのか。


「だが、そのスキルによる転移は転移場所の困難度合いによって能力が減衰するらしいが、これから吸血鬼(ヴァンパイア)の女王と戦おうという時にそんなことをするのか?」


「……ふむ。

どうやら、何か裏があるようだな。

まあ、分からないことを考えていても仕方ない。

いつでも動けるようにだけはしておこう。

まずはプルの魔法開発が終わるまで時間を稼ぐことに注力するとしよう」


 女王はスカーレットの潜伏は考慮に入れつつ動くことにしたようだ。

 たしかに情報の足りない現状ではそれしか出来ないか。







 その時の俺は気が付かなかった。


 時おり見せる、ミツキの虚ろな目に。




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