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第百七十四話 影者召喚

 黒影刀を逆手に持ち変えて、俺は正面からグレイグとやりあうのをやめることにした。


 まずは、


「……むっ!?」


【影追い】でグレイグの背後に移動し、背中を斬りつける。


「ふん!

甘いわっ!」


 が、振り向きざまに剣で止められ失敗。

 だが接近することには成功した。


 俺はグレイグから離れないようにしながら黒影刀による斬撃とともに、突きや手刀での攻撃を併用する。

 同時にグレイグの周囲を素早く移動し、撹乱しながら攻撃する。


「ぐっ!

なっ!

このっ!」


 グレイグは自分の近くで常に何かしらの攻撃をしてくる俺に煩わしさを禁じ得なかった。

 ただでさえ長い2本の剣を完全に持て余している。


「ちっ……はぁっ!」


「おっと」


 グレイグは再び剣先を伸ばして自分の周りにぐるぐると巻いた。

 が、俺はそれを予期していたので、【影追い】で距離を取る。

 この国は基本的に全体が暗闇なので、【影追い】を使いたい放題だった。


「ちっ!

ハァハァ……」


 決定的な決め手にはなっていないが多少は体力を削れたか。


「……ふぅ」


「! ……そうか、超再生だったな」


 グレイグにいくつかつけた傷がもうなくなっていた。

 そういえば体力はどうなのだろうか。

 体力ぐらいは減ってもらわないと俺の今までの行動はすべて無駄になるのだが。


「ああ、体力は再生ではなく回復の類いだからグレイグの体力は回復しないから安心するといい」


「……女王よ、それは出来れば言わないでいただきたかった」


 そうだな、グレイグさん。

 ……ありがたいお言葉に感謝するよ。


「……ふむ。

そういうことなら」


 これはあの技を使ってみるか。


「ほっ!」


「むっ!」


 足元の影に意識を向ける。

 すると俺の影が広がっていき、部屋全体に行き渡った。


「……ほう、これは」


 女王が物珍しそうな顔をした。

 どうやら女王はこれを知っているようだ。


 この影を広げる力は影撃の英雄の時点で使えた力なのだが、使いどころが分からずに今まで放置していたのだ。

 だが、滅びの王となって新たなスキルを使えるようになった今、この力の真価を知った。



【影者召喚】



 俺がそのスキルを使うと、広げた影から次々と黒装束を身につけた影が現れた。

 それは全身に真っ黒な影の服を纏った人の形をした影だった。

 顔の部分は黒い布でぐるぐるに覆われていて、唯一窺える目の部分だけが赤く光っている。


 これは前任の滅びの王であるバラムが使っていたスキルだ。

 あの時はスケルトンだったが、どうやら使用者の属性に合わせて召喚されるようだ。


 俺の場合は忍ってわけね。


 そうして、部屋中を黒装束の影が埋め尽くした。


「むぅぅ……」


 グレイグはところ狭しと立ち並ぶ影たちに戸惑っていた。

 突然、相手が1人から100人になれば戸惑うのは当然か。


 俺は右手をすうっと上に挙げる。


「……いけ」


 そして、その手を振ると、100体の影たちがいっせいにグレイグに襲い掛かっていった。


「ぐぬぅぅ。

ナメるなぁ!」


「……やっぱりダメか」


 が、影たちはグレイグが振り回す2本の長剣に次々消されていった。

 どうやら人間でいう致命傷を受けると消えてしまうようだ。

 このあたりはバラムの時と同じだな。


 それに、1体1体の力が弱い。

 ジョブで言うと忍と影長の間ぐらいか。

 どうやら、使用者の実力を当分する形になるようだな。

 まだこの力には慣れていないし、いま出せる戦力はこれが最大かな。


 だが、これは喚び出す数を減らすことで、1体ずつの力を上昇させられるようだ。


 俺は試しに100体いる影を50体に減らしてみた。

 減った影は地面の俺の影に溶け、その分が既存の影たちに足されていく。

 心なしか、さっきよりも影が濃くなっている気がする。


「よし、もう一回行ってこい」


 俺が再び影たちに命じると、50体になった影たちは再びグレイグに襲い掛かる。


「……ぬっ!

ぐぅ……ちっ。

おあぁっ!」


「……まだダメか」


 グレイグは先ほどよりも手こずってはいたが、それでもまともな手傷を受けることなく対処していた。

 数を半分にした程度では影長よりも少し強いぐらいか。


「……なら、10体ならどうだ?」


 再び減った影が10体になった影たちに集まる。


「……!」


 そこで俺は違和感を感じる。

 さっきまでは単純な命令。


『グレイグを攻撃しろ』


 という簡単な命令しか伝えられなかったが、今度は細かい指示まで出来るようだ。


「…………。


よし、いけ」


 俺はそれぞれに細かい指示を飛ばし、影たちを再びグレイグに向かわせた。


「むっ!」


 今度は影たちは連携を重ね、グレイグを翻弄し始めた。


「……ぬぅぅ。

くそっ!」


 グレイグも速さと連携でもって翻弄され、なかなか影を仕留められずにいるようだ。

 この10体は影撃の英雄に限りなく近い実力を持っているようだ。


 時に【影追い】のスキルを使ってグレイグの背後を取り、あるいは1人が正面きって囮となってその背後に重なるように並走していた影が攻撃を仕掛けたりと、しっかりと戦術を使ってグレイグと戦っていた。


 これはなかなか使える。

 自分の指示通りに動く兵を複数体手に入れたようなものだ。

 おまけにやられても一定時間経過すれば再び召喚可能。

 

「……まるで軍隊のようだな」


 女王が呟く。

 彼女の言う通り、これは俺1人で小隊の役割を果たしているようなものだ。


「……おっ!」


 そんなことを考えていると、影たちがグレイグを追い詰めていた。

 4体掛かりで体を押さえ付け、3体が【影縫い】でさらに動きを止める。

 そして、残りの3体で止めを差す。


「……ぬっ!

ぐぐぐぐっ!」


 グレイグも拘束を解こうともがいているが、さすがに影撃の英雄レベルの相手7体に押さえ付けられたら身動きが出来ないようだ。


 これは殺ったな。


 そして、3体の刃がグレイグの首に伸びた瞬間、


「……くそっ! ……はぁっ!」


「なっ!」


 グレイグの足元の地面が隆起し、何本もの槍となってグレイグを拘束していた影たちを貫いた。


「おらぁぁぁ!」


 影たちの拘束を打ち破ったグレイグはさらにその槍を操作して盾に変化させ、襲い掛かっていた3体の攻撃を防ぎ、新たに地面から生えてきた巨大な刃で3体を引き裂いた。

 すべての影が倒され、影たちが地面に溶ける。


「……ふんっ!」


 グレイグが息を乱しながらも、やってやったと胸を張る。


「ぬ!?

……がっ!」


 そして、その瞬間に俺自身がそのグレイグの首を黒影刀で飛ばした。


「ほう」


 女王が嬉しそうに笑っているのが見えた。


「……な、に」


 首だけになったグレイグは切り離された体を見つめながら、驚いた顔をして地面に落ちていく。


「……べつに、俺自身が動かないとは言っていない」


 そして、グレイグの首が地面に落ちると同時に、切り離された体から夥しい量の血が吹き出した。


 別に卑怯だとは思わない。

 影たちも俺のスキルだし、勝負が終わったと思って油断したのはグレイグだ。

 相手の隙や油断を突くのは常套。

 俺はずっとそんな世界で生きてきた。


 生き残れなければ意味がない。

 結局は、それが全てだ。





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