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第百七十二話 対第5位真祖

「場所はこちらで用意しよう」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の女王はそう言うと、右手を軽く払った。

 すると、目の前の空間が塗り替えられていき、石畳だけが延々と続く何もない空間へと移動していた。


「これは亜空転移か。

どこまでも続く地平。

すごいな」


「ふふ。

このような魔法など、ルルやその弟子と関わりを持つのなら見慣れているだろう?」


 たしかに、ルルやプルが同じ魔法を使っているのを見ているからさして驚きはないが、魔法で無限の広がりに近い空間を作ってそこに人を転移させるなんてことはそうそう出来るものではない。

 少なくとも、エレメントマジシャンを経験した程度の俺には不可能な芸当だ。

 まあ、ルルなんかと同レベルの術者なんだから当然と言えば当然か。


「ここならどれだけ暴れても構わない。

ああ、時間の経過も外より遅いから気にせずやっていいぞ」


「おいおい、そんなことも出来るのか」


「この程度、どうということはない。

ルルの作る空間は外での時間経過の影響を受けない完全自立型だからな」


 ようは、その空間にいる間は外で時間が経過しないってことか。

 自我を持たない無機物ならまだしも、人がその空間に存在していられるとか、もはやなんでもありだな。


「まあ、とにかく、好き勝手に暴れても問題ないと思っていてくれればいいだろう」


「……わかった」


 ともかく、それは重畳。

 夜想国の景観を壊したくはなかったからな。


「……では、始めようか」


 第5位の真祖であるグレイグが会話の終わりを待って口を開いた。

 その手にはいつの間にかとても大きな大剣が握られていた。


「……名を、聞いていなかったな」


「影人だ。

グレイグさん、よろしく頼む」


「影人か。

グレイグで構わない。

容赦はしないぞ?」


「分かった。

グレイグ。

それはこちらのセリフだ」


「はっ!」


「ふっ」


 俺とグレイグは互いに笑い合い、剣を抜き合った。


「では、始めるとしよう。

ああ。

殺すつもりでやれとは言わん。

殺せ。

それぐらいでなければ吸血鬼(ヴァンパイア)の相手は務まらん」


「……分かった」


 女王が右手を上に挙げる。

 それに合わせて俺とグレイグはともに剣を構えた。

 2人とも両手で剣を握り中段に構えるスタイルだ。


「……始め」


 そして、女王が右手を振り下ろすのに合わせて2人が互いに飛び出す。

 グレイグは大剣を頭上に振りかぶっていた。

 あんな大剣を持ち、体も俺の倍近い大きさなのに速度はほぼ互角。

 女王は俺と実力的に均衡が取れる相手を選んだのだろう。

 それならば、本当に加減などいらない。


「……解放しろ。

因果の指輪」


「むっ!」


 俺の言葉にグレイグは警戒してみせた。


 右手につけた指輪から闇の力が流れ出す。

 それは余すところなく黒影刀に注がれていく。

 それに呼応するように、刀身に散りばめられた光の粒が輝きだす。

 注がれた瞬間から闇の力が統制されていくのを感じる。

 闇の力の流れが以前とは比べ物にならないほどに流麗で淀みがない。

 なおかつ、引き出したい力の量を完璧にコントロール出来ている。

 これなら暴走することもないだろう。


 これが真の黒影刀と、それを操る滅びの王の力か。


「はぁっ!」


 2人が近付くと、グレイグが振りかぶっていた大剣を振り下ろす。

 巨大な体躯から繰り出される大剣の振り下ろし。

 普通ならばまともに受けることなど不可能だ。


「……ふん!」


「なにっ!?」


 だが、俺はあえてそれを正面から受けてみせた。

 振り下ろされる大剣を黒影刀の腹で受け止めたのだ。

 普通そんなことをすれば刀はたちどころに折れ、大剣は俺ごと地面を割るだろう。

 だが、闇の力を十分に注がれた黒影刀はその大きな力の塊を難なく受け止めてみせた。


 当然、刀だけではなく俺自身も闇の力で強化している。

 以前は闇の力を纏えば全てを持っていかれそうな感覚があったが、今は普通の魔力による身体強化と大差ない感覚だ。

 だが、その強化は普通の身体強化の比ではない。

 

 人間の8倍の身体能力と言われている吸血鬼(ヴァンパイア)

 その第5位の真祖。

 その膂力をまともに受けられるレベルなのだから相当だろう。


「……ほう」


 女王が楽しそうに笑う。


「……ふんっ!」


「くっ!」


 俺は受けた大剣を力任せにはね除ける。

 大剣を弾かれたグレイグが剣ごと後ろに下がる。


「……なかなかやるな」


「まだまだこれからだ」


「……無論だ」


 そして、俺とグレイグは再び剣を構え直した。





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