第百六十六話 そういえば封印解除するんだった
「さて、いろいろ分かったが、結局のところ何から手をつけるべきなんだ?
というか、なんか流れで俺のところにいろいろ集まってるが、魔人武器やら万有スキルやらは集めた方がいいのか?」
正直、情報過多で処理が追い付かないところがあるんだが。
「万有スキルに関しては誰が持ってるかも分からないから探しようがない。
いずれは影人の元に集まるとは思う。
魔人武器は使用者を選ぶとはいえ、魔王側に多くあるとそれだけ不利になる。
それなら早めに集めた方がいいかも」
「そうか。
そうなると、魔王側にある槍はともかくとして、鎌と短剣はどうにかしたいところか。
鎌を持ってるっていう吸血鬼はどうなんだ?
そいつらは魔王側ってわけではないのか?」
所在のまったく分からない短剣よりも、誰が持ってるかはっきりしている方から行った方がいいだろう。
「う~ん」
だが、プルはあまり乗り気ではないようだった。
「吸血鬼は閉鎖的。
夜想国に入るのも一筋縄ではいかない」
夜想国というのは吸血鬼の国のことだろう。
「それに、強い。
魔王軍でもそう簡単には手を出せないから、本当に必要になるまでは放っておいてもいいかも」
「……そうなのか」
プルが言うほどなのだから相当なものなのだろう。
出来ることなら関わることなくいきたいところだが、まあ、そうもいかないんだろうな。
「そうなると、残りは短剣ってことになるんだが、肝心の所在が分からないことにはな」
「あの~」
「ん?」
俺たちが頭を悩ませていると、フラウがおずおずと手を挙げた。
「えっと、あの~、その前に、あの、お姉ちゃんを~」
「「「「あ」」」」
悪い。
完全に忘れてた。
「おおっ!
影人殿っ!
よくぞ再び我らがエルフの大森林に参られた!」
「あ、ああ」
エルフの長が諸手をあげて歓迎してくれているが、まさか忘れていたとは言えないな。
「プルちゃ~ん!
元気にしてたかい?
今日もかわいいね~」
「……《超過重力100倍》」
「ふぎゃぷぎっ! (バキバキバキバキっ…… )」
……歓迎していたのは愛娘に会えるからか。
なんだか聞こえてはいけない音が聞こえた気がするが、まぁ気のせいだろう。
「お姉ちゃん来たよ!」
『フラウ。
皆さん、お久しぶりです。
思ったよりも早かったのですね』
というわけで、再び俺たちはエルフの大森林の最奥にある命の樹にやってきた。
ここには神託の巫女であるフラウの姉が封印されている。
そして、その封印は命の実を混ぜて打ち直した真なる黒影刀でのみ破れるというのだ。
『影人さん。
無事に滅びの王になられたようですね』
「……やっぱりあんたは知ってたのか」
真なる黒影刀を扱うには滅びの王の称号が必要。
俺は滅びた<アーキュリア>の王であったバラムからそれを受け継いだのだが、彼女はどうやらそのことを知っていたようだ。
『そうですね。
知っていた、というよりは神託の力で知ったのですが。
きちんとした詳細を知れたのは、影人さんが滅びの王になられてからですね。
封印された状態では未来予知の能力もかなり低下しているので』
「そうなのか」
神託の巫女の能力は未来予知。
だが、その真価は予知した未来に現在を向かわせる未来決定能力にある。
それも、封印された状態では既に起こった事象を把握する、千里眼のような力になっているわけか。
それも十分にすごいと思うのだが。
「ご主人様!
早く!
早くお姉ちゃんを!」
フラウが命の樹の前でピョンピョン飛び跳ねながら急かしてくる。
早く姉を自由にしてやりたいのだろう。
「よし。
じゃあ、やるか」
『では、やり方を影人さんの頭の中に送りますね』
フラウの姉がそう言うと、命の樹から小さな光が放たれ、それが俺の頭の中に入ってきた。
「……なるほど。
これは便利だ」
その瞬間、俺は封印解除に必要な方法を理解した。
どうやら、相手の頭に情報を直接送り込むものらしい。
「よし。
いくぞ」
その送られた情報を確認し、俺は黒影刀を抜いた。
真っ黒な刀身に光の粒が星々のように煌めく。
『我は滅びの王。
すべてを終わりに誘う者。
我が名と血と魂と、魔力に於いて命ず。
命の樹に囚われし聖なる魂を、今ここに解き放ちたまえ』
俺が祝詞を唱えると黒影刀が黒く輝く。
刀身が黒いオーラを纏い、周りを星々が飛び交った。
『さあ、それで命の樹を切ってください』
「ああ。
いくぞ!」
俺は命の樹に向かって飛び、横に構えた黒影刀を横薙ぎに一気に振り抜いた。
カッ!
「なっ!」
「え?
きゃああああああっ!」
が、黒影刀が命の樹に触れる瞬間に光の塊が現れ、俺はそのままその光の塊に包まれてしまった。
少し離れたところでフラウの悲鳴も聞こえる。
いったい、何がどうなっているのか。
そして、俺とフラウはその場から消えることになるのだった。