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第百六十三話 魔人

「その種族は魔人(まじん)って言われててな」


「魔人……」


 ドワーフの頭領が語る昔語り。

 かつて、人間と魔族は同じ種族だったという。

 そして、それを2つの種族に分けたのはあのパンダ女神だというのだ。


「そもそも、この世界を作ったのがその女神なんだよな?」


「ん?

ああ、そういやおまえら転生者には世界創世の神っていう明確な存在が確定してないんだったな」


「まあ、一応実在が確認されてはいないかな」


 この世界のように、明確に世界を創ったとかいう唯一神が顕現したりはしてないからな。

 少なくとも俺は認識していない。


「ふむ。

俺からしたら女神様がいない世界ってのの方がイメージわかないんだがな」


「まあ、そうだろうな。

お互い様だ」


「それもそうだ。

それでよ。

女神様はこの世界を創ったあと、1つの知恵ある生物を作った。

もともと動物たちはいたが、そのままでは絶対に自然発生しない生物だったらしい。

それが魔人だ」


 知的生命体か。

 この世界の環境的に進化による発生は不可能だったのか?

 あるいは、あちらの世界の俺たちもまた、自然発生ではないのかもしれないが。


「魔人は強かった。

世界に満ちる魔力を使って魔法を操り、女神様から賜った特殊な技能、スキルをいかんなく発揮した。

そんな魔人が世界を統べるのに、多くの時間はいらなかった」


 他に有力な対抗勢力のいない世界。

 あちらの世界の人間と同じ状況か。


「だが、強すぎた魔人は自分たちよりも圧倒的な強者の存在を脅威だと思い始めた」


 世界の覇者たる魔人よりも圧倒的な強者……。


「……女神か」


「そう。

魔人は自分たちを生み出した女神様を、自分たちの命運を握る危険な存在として捉え始めたんだ。

それほどに、魔人と女神様との力が近いところにあったのも問題だったんだろう」


 今は天界?らしきところで尊き存在として崇められている女神だが、たしかにその気になれば、おそらく指ひとつで世界を滅ぼせるのだろう。

 圧倒的な力で世界を掌握した魔人は世界そのものを滅する力を持つ女神を敵視した。

 

 まあ、もしあちらの世界でそんな存在が現れたら、たしかに人類はそれを脅威に感じて排除を望むかもな。


「それから魔人たちは女神様に一矢報いる時を探った。

そしてある日、ある1人の強力な魔人が生まれた。

そいつは、周りから闇の帝王と呼ばれるほどに強力な闇の力を有していたんだ」


 闇の帝王。

 ここで出てくるか。

 なぜか俺の中にあるという力。

 たしかに、その一端だけでも凄まじい力だが。


「そして、魔人たちは自分たちの力も含めてすべてを闇の帝王に注いだ。

さらに、それだけではまだ足りないと判断したのか、やつらは世界そのものを力に変換し始めた」


「世界そのものを?」


「ああ。

すべての動植物からその命を搾取し力に変えた。

まあ、それは女神様によって途中で阻止されたが」


 まさにすべてをかけての攻撃ってわけか。


「そして、世界の命を使った闇の帝王による一太刀は女神様に届いた」


「届いた、のか?」


 世界の創造神たる存在に刃が届くことなんてあるのか。


「まあ、実際は指先に小さな切り傷をつけた程度だが、女神様はそれを脅威に感じ、闇の帝王を抹消。

魔人のその力を2つに分けた」


 女神からしたら、絶対に安全なはずのところから攻撃が飛んできたんだ。

 それゃビビってそれぐらいするか。


「そうして出来たのが魔法を扱う魔族と、スキルを扱う人間だ。

で、闇の帝王の魂と力は女神様によって完全に消滅させられたはずなんだが……」


 それが、異世界から来た俺の中にあったと。

 なぜだろうか。

 闇の帝王とやらが最後の力を振り絞って自分の力を俺たちの世界に逃がしたのか?

 そんなことを女神が見逃すか?


 そうして現在、さらにその2つの種族は再び魔法とスキルの両方を扱うようになってきている。

 女神にとって幸いなのは、人間が女神を信仰していて、さらには人間と魔族が敵対していることか。


「……もしかして、魔王の目的って」


「……ああ。

闇の帝王に倣って、再び女神様を討つことだ」


 だが……、


「それは結局うまくいかなかったんだろ?」


 世界すべての力を使っても、女神にかすり傷1つつけるので精一杯だった。


「あの時とは状況が違う。

今は世界に満ちる魔力によって数多の種族が生まれた。

そして、それがまた数多の力を生む。

おまけに転生者とかいう強力な力を持つやつらも多い。

今のこの世界は、かつてとは比べ物にならないほどの力で溢れてるんだ」


 魔王は、その満ち溢れた力を束ねて女神に向けて放つつもりか。


「……なぜ魔王はそこまで女神を討とうとするんだ?」


 あのパンダはどちらかというと、この世界の行く末を見守ろうとしているように感じたが。


「さあな。

俺にはお上の考えは分からねえし、興味もない。

きっと、お強い方々にしか分からないすごい理由でもあんじゃねえのか」


 頭領はそう言うと、火酒の入った瓶を傾けた。


「ありゃ、酒が切れたか」


 が、中身は空になってしまったようだ。

 やれやれと頭領が体を伸ばす。

 どうやら話はここまでのようだ。


「まあ、そんなわけで、闇の帝王が使っていた武器も7つに分けられ、現在では魔人武器として管理されることになった。

さらには闇の帝王が使っていたスキルは『万有スキル』として、7つに分派し、世界中に散らばったってわけだ」


「ん?

ちょっと待て!

それは初耳だぞ!

というか、今までの話に出てこなかっただろ!」


「んあ?

そうだったか?」


 そんな大事そうな話をついでみたいに言うなよ。


「まあ、そんな感じだ。

俺は酒を取りに戻るからな。

話はここまでだ。

じゃあな」


「あ、おい!」


 頭領は俺の制止を聞かずにスタスタと帰ってしまった。


「……ったく」


 7つの魔人武器に、7つの万有スキル。

 そして、闇の帝王の因子。


 この世界にはまだまだ知らなければならないことが多いようだ。




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