第百六十話 鍛冶開始
「ご、ご主人様。
お水、置いとく、です」
「ん?
ああ、ありがとうフラウ」
少し寝ていたか。
俺はフラウが声をかけてきたことで、立ったままの睡眠から覚醒した。
これで2日目。
立ちぱなっしなのはキツいが、少しは慣れてきたな。
水を持ってきてくれたフラウの方をチラリと見ると、うつらうつらと船を漕いでいた。
「フラウ。
フラウはべつに俺たちに付き合わなくていいんだぞ?
床の上じゃたいして休まらないだろう。
国主が宿を取ってくれたんだ。
そっちで休んだらいい」
「だ、だいじょぶ、れす」
フラウは言ってる側から頭を揺らしている。
俺たちに合わせて一晩起きていたようだ。
俺はべつに立ちながらでも眠れるから3日程度なら何とかなるが、フラウにはツラいだろう。
プルは……。
「……くー。くー」
寝てる。
なのに、頭領が合図をすると器用に魔法を放っている。
さすがだな。
というか、初めてからずっと寝てないか、こいつ?
「……プル。
フラウに……」
「んー、《ヒュプノ》……むにゃ」
「あふぅ」
俺がフラウを寝かせてやってくれと頼もうと思った瞬間に、プルはフラウに強制睡眠魔法をかけた。
俺は近くにいた女性のドワーフに頼んでフラウを宿まで運んでもらった。
「おら!
ワタル!
腰が引けてきたぞ!」
「ひぇーーん!」
ワタルは開始当初から泣きながら鎚を振っている。
とはいえ、一晩中寝ずに鎚を振り続けているのだからたいしたものだ。
「影人さんたち、なんで立ちながら寝れるのー!?
ずるくなーい!?」
「おら!
文句言わずに手を動かせ!
やることやってりゃいーんだよ!」
「わーーん!」
頭領は酒をあおりながら鎚を振るう。
ドワーフは酒さえあれば三日三晩鎚を振るえると豪語しているが、あながちホラでもないようだ。
ワタルはたまに他のドワーフのおっさんに、口に食事や飲み物を突っ込まれている。
俺やプルは立ったままだが、普通に食事をとっている。
ちなみに、俺とプルはタイミングを見てトイレにも行けるが、頭領とワタルは気合いらしい。
ちなみに、ミツキは開始早々離脱し、ドワーフの国で好きに過ごしているようだ。
「……頭領。
ちなみに、あとどれぐらいかかりそうだ?」
「あん!?
思ったより手強いからな!
こりゃ3日目にいっちまうな!」
「うわーん!
やだよー!」
そうか。
頑張ろう。
いや、頑張れ、ワタル。
「やっほー。
おっちゃん。
久しぶり~」
「おう!
ミツキか!
元気そうだな!」
その頃、ドワーフの国を一人歩きしていたミツキは一軒の店に顔を出した。
ミツキに声を掛けられたドワーフは片手をあげて、どすどすと出迎えに現れた。
「弓の調子はどうだ?
俺んとこで買ったやつはもう古くなったから使ってないだろ?
今の弓も見てやろうか?」
どうやらここはミツキが世話になった武器屋のようだ。
「うん。
えっとね、この弓を見てほしいんだけど」
ミツキはそう言うと、スキルの亜空間に保有していた黒い大きな弓を取り出した。
エルフの大森林で長からもらったものだ。
「! こ、こいつぁ!」
「知ってるの?」
ミツキの弓を見たドワーフは目を見開いて、まじまじとその黒い弓を見つめた。
「これさぁ、せっかくエルフの長にもらったのはいいんだけど、大きいし重いし、私には扱えないのよね。
エルフの長はいずれ使えるようになるって言ってたけど」
「……そうか。
エルフの長が……」
ドワーフはアゴ髭を触りながら考え込んでいるようだ。
「……こいつぁ、俺には荷が重いな。
仕事が終わったら、頭領に聞いてみな」
「……そっか」
どうやら何かあるようだ。
ミツキはとりあえず弓をしまって、頭領たちの作業が終わるのを待つことにした。
宿に行くとフラウが布団に寝かされていた。
「ふぁ~あ。
なんかまだかかるみたいだし、私も寝よっと」
そうして、ミツキはフラウの隣のベッドで眠りについた。