第十六話 神託の巫女。主人公には母性を理解できないようだ
カエデ姫とトリアが根気よく、時にはほわほわしながらフラウから話を聞いた。(俺は途中で挫折し、焚き火の番人になった)
どうやら、フラウには年の離れた姉がいたようだ。
その姉は神託の巫女と呼ばれ、未来視のスキルを持っていたらしい。
そして、フラウたちの住んでいた村は神託の巫女を崇め、外界から隠し、隠れ里のような所でひっそりと暮らしていたという。
「えっとね!
おねえちゃんは星読みが得意で、よく夜ご飯のメニューを当ててくれたんだ!
鹿焼きとか、猪鍋とか、たまにパパがライノスが狩れた時は、おねえちゃんとフラウでやったー!って喜んだよ!
そしたら、領主様が来て、おねえちゃんはすごいんだよって言って、領主様と一緒に、領主様が連れていかれちゃったんだ!」
らしい。
全体的に解読が必要な文も多かったが、どうやら星読みというのが未来視のことのようで、要は予知能力者だったのだろう。
それが土地の領主にバレて、利権のために連れていかれたってところか。
それで、連れていかれる直前、姉からフラウに神託が伝えられた。
それが、
「次に神樹が光った時に降りてきた人に仕えなさい」
だそうだ。
そして、それがどうやら俺のことらしい。
仕えるという言葉からメイドを連想して、そこから「ご主人様」が出てきたようだ。
神託って、あのパンダだよな?
あいつ、いったいどんなつもりでこの娘を俺の所に?
まあいい。
パン神はあとで問い詰めるとして、
おい、テツ。
少し離れた所でこっそりほわほわするな。
自分にも年の離れた妹がいる?
おいおい。
俺の共感者は皆無か。
やっぱり北に行くべきだったか。
そして、フラウの姉が連れていかれてすぐ、村は多数の魔獣に襲われて滅び、両親によって守られたフラウは奴隷商に見つかり、奴隷として売られる所だったそうだ。
それなのに、買い手がつき、そいつに引き渡される前日、なぜか牢の鍵が開いていて、なぜか牢には見張りもおらず、途中で巡回中の見張りに見つかって追いかけられたが、何とか森まで逃げてこられたらしい。
そのまま神樹を目指していたら、キマイラに遭遇し、逃げ回り、そして、今に至る、と。
なぜ逃げられたかについては疑問しかないが、いま考えても答えは出ないだろうから、とりあえずはいいか。
フラウの説明が終わったあと、俺は再びフラウに近付き、腰を落とした。
「フラウ。
君の姉が俺に仕えるように言ったそうだが、具体的にはどうしろと?」
「んー、分かんない!」
「は?」
「あ!でも!
おねえちゃんは、
きっとその人はフラウを助けてくれるから、フラウもその人を助けてあげるのよ
って言ってた。
だから、フラウはご主人様に仕えて、ご主人様を助ける!」
そう言ってフラウは、自信満々に鼻息を荒くした。
「そうか」
俺はそれだけ言って、フラウの頭をなで、フラウも嬉しそうになでられていた。
まあ、何となく事情は分かった。
パン神がこの娘を寄越した理由も。
フラウを使って、この『百万長者』を使いこなせというのだろう。
俺に、この少女を信用しろってことか。
他者に貸し与えることでしか使用できない、百万もの強力なスキルを、この見ず知らずの少女に。
いま話した事情も、この人懐っこい態度も、すべて嘘かもしれないのに。
嘘ではないと証明する確たるものは何もないというのに。
俺のスキルを説明して、スキルを渡した瞬間に攻撃されるかもしれないのに。
この笑顔も、すべて嘘かもしれないというのに。
だが、無垢なる少女か。
もしも、フラウのすべてが真実なら、これ以上ない担い手だろう。
それは、あのパンダを信用したようで少々気が引けるが、まずは様子を見ながら手元に置いておくのもいいかもしれない。
まあともあれ、まずはフラウの姉を探してやらないとな。
おそらく両親含めた一族郎党は魔獣にやられたのだろうし、唯一の肉親ならば、何とか会わせてやりたい。
<ワコク>のあとの目的も特になかったし、その辺りを当面の目標にしてみるのも悪くないかもな。
パン神は魔王がどうこう言っていたが、そんなのは知らん。
そいつをどうするかは、さらに情報を集めてから決めるとしよう。