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第百五十九話 再びのドワーフの国

 そして、俺たちは再びドワーフの国に来ていた。

 魔王が大衆浴場に乱入してきた件は気になるが、現状では特に調べることもできないため、一旦置いておくことにした。

 一応、<ワコク>のカエデ姫と殿様には報告しておいた。


 それにしても、カエデ姫の結界を抜けて侵入できるのなら、すぐにでもカエデ姫を暗殺してしまえば大軍を人間の領域(ヒューマンフィールド)に送り込めるのに、魔王はなぜそうしないのか。

 今のこの状況を楽しんでいるような気もするし。

 魔王には、何か別の目的があるのだろうか。


 まあ、今それを考えたところで答えは出ないか。

 とりあえず、俺は俺に出来ることをしよう。



 





「おう!

影人!

もう全部揃えたのか!

早かったな!」


 以前同様、役所で手続きをして頭領に会おうとしたのだが、入口に着いた途端、顔パスで国の一番奥、つまり頭領の鍛冶場まで案内してくれた。

 どうやら、俺たちが来たら真っ直ぐここに通せと命じていたようだ。


「どれ!

さっそく全部見せてみろ!

ほれ!

早くしろ!」


 頭領のドワルは目をキラキラさせながら急かしてきた。

 ノアはビビってたが、鎚を出すように頼むとしぶしぶ背負っていた鎚を取り出し、打出の小槌サイズだったものを2メートル弱の大きさに変えた。

 この鎚はどうやら自由にサイズを変えられるようだ。


「ほぉ~!

こいつが巨人族に伝わる王の鎚か!

なるほど!

全体が黒で、槌頭と鉤爪だけが聖銀、ミスリルか!

黒の部分は何で出来てるんだ?

魔鉄鋼?

いや、隕鉄も混じってる?」


 何やらドワルのツボをついてしまったようで、ノアの鎚をまじまじと眺めながらぶつぶつと呟いている。


「なんか、このおっさん怖いのだ~」


 ノア、気持ちは分かるよ。

 熱中してるオタクのおっさんは怖いよな。

 でもな、好きな肉について語ってる時のおまえもこんな感じだぞ。








「ふ~。

んで、魔法は神樹の守護者の弟子である嬢ちゃんで」


「えっへん」


 ひとしきりノアの鎚を崇めたドワルは満足した様子で他の要素を確認し始めた。


「術式は影人か。

無事に滅びの王になれたんだな」


「……知ってたのか?」


 滅びの王のことも、俺がそれになったことも言っていないんだが。


「そりゃあな。

黒影刀を真打ちすることが出来るのは【岩窟王】を持つドワーフ国の頭領だけだ。

もっとも、必要素材をすべて集めることが出来たやつにしか教えちゃならねえ掟だったからな。

悪く思うなよ」


 そういうことか。

 秘伝中の秘伝として、代々頭領にだけ伝えられていたということのようだ。


「……それはつまり、黒影刀がなまくらになることも、再び打ち直されることも決まっていた、ということか」


「……ま、その辺はご想像にお任せだな」


 言えないってことか。


「……これは独り言なんだが」


「ん?」


「ドワーフ国の頭領が黒影刀を打ち直す秘伝を代々継承するように取り決めたのは女神様だって話だ。

まあ、昔のこと過ぎて眉唾だけどな」


「!」


 女神……あのパンダか。

 そういや、教会であいつにいろいろ聞かないといけないんだったな。

 また聞かなければならないことが増えてしまった。

 いったいどこまでがあいつの計画の内なのか。

 すべてはあのパンダの手のひらの上なのだろうか。


「……ッ」


「どうした?

影人?」


「……いや、なんでもない」


「そうか?」


 いかん。

 あのパンダのもふもふした手のひらの上で世界が転がされてるファンシーな絵面を想像してしまった。

 もしかして、俺の印象を悪くしないために、俺にだけはパンダの姿で居続けているのだろうか。

 まったく、くえない神様だな。





「よし。

じゃあ、さっそく作業に入るぞ。

ワタル!

命の実を持ってこい!」


「あ、はーい!」


 ドワルに命じられて、転生者でカエデ姫の想い人でもあるワタルがバタバタと駆け寄ってきた。

 ワタルが大事そうに抱えた風呂敷をテーブルに置くと、ドワルがその包みを開けた。

 その中には、神々しささえ感じる金色の光を放つ黄金のリンゴのような果実が現れた。

 エルフの大森林の最奥で、フラウの姉が封印されていた命の樹に実っていた果実である。

 本来、俺の力である闇と正反対の力である命の実を黒影刀と同化させて打つことで、黒影刀はその本来の力を取り戻すらしい。





「んじゃ、さっそく始めるぞ。

嬢ちゃんは俺が合図したら集束高温系の火魔法を撃ってくれ。

何回か撃ってもらうから魔力量には気を付けてくれよ」


 台の上に黒影刀と命の実を置いたドワルはノアから借りた鎚を構える。

 助手を務めるワタルはミスリル製の鎚を持ち、【深層解析看破】のスキルを発動させている。


「レーザーじゃない方がいいのか。

《シン・ギガブレイズフレイム》の一極集中でいい?

そんなら朝まで連続で撃っても余裕だけど。

休み休みでいいなら3、4日いけるで~」


「火魔法の最上級魔法じゃねえか!

十分すぎるぜ!」


「ふふふ~ん♪」


 はいはい。

 褒めてもらえて良かったね。


「俺はどうしたらいい?」


「ここにいろ」


「……それだけか?」


「それだけだ。

ワタルのスキルで常に影人と黒影刀とを同期させながら打つ」


「……いつまでだ?」


「3日はかからないようにする」


「……お、おおう」


「影人さんはまだいーよ~!

俺なんかスキル使いっぱなしなんだからぁ~!」


「……そ、そうだな。

よろしく頼む」


「やだよ~!」


「うるせい!

さっさとやるぞ!」


「ひぇ~ん!」


 ……と、とりあえず頑張ろう。





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