第百五十八話 影人、飛び蹴りをくらう
『……以上が事の顛末です。
こちらからの報告はこんなところですね』
『……なるほど。
フォルトナー博士が……』
皆より一足先に風呂から上がった俺は<マリアルクス>のライズ王子に今回の件を報告していた。
バラムの存在とその消滅。
そして、フォルトナーがその手足として暗躍していたことを。
ちなみに、俺が滅びの王を継いだことや、フラウの成長のことは言っていない。
余計な情報を与えて警戒されても困るからな。
ライズ王子のことはそれなりに信用はしているが、王子という立場を考えると手放しに信じるわけにはいかないだろう。
『……影人殿。
今回の件、フォルトナー博士には情状酌量の余地があると思いますか?』
……ライズ王子は優しいな。
今回のフォルトナーの行動は自分が所属する国への妨害・反逆行為に他ならない。
ひいては、西の<アーキュリア>復興という人間種族への妨害とも言える。
よくて国外追放。
悪ければ死罪だろう。
『……申し訳ありませんが、俺に国家の処断に口出しする権利はありませんので』
『……そう、ですよね』
彼はいったい何を俺に期待したのだろうか。
しょせんは一介の転生者にすぎない俺の言葉で、一国の王子がその判断を変えるとでも言うのだろうか。
……。
『……ですが、まあ、悲しき王の魂の救済と、孤児の里親探しという功績はそれなりに認めてやってもいいのではないかと愚考します』
『そうですよね!』
声だけでも、飛び跳ねるように喜んでいるのが分かる。
やれやれ。
とことん甘い王子だ。
だが、王ではなく彼に報告して良かったのかもしれない。
マリアルクス王なら問答無用で死罪にしたか、都合の良いように利用するだけ利用しただろうからな。
『……では、あとの報告はお任せしますね』
『はい!
報告ありがとうございました!』
「……ふう」
これでいいだろう。
お咎めなしとはいかないだろうが、あとは彼が何とかするはずだ。
個人的には、フォルトナーのやっていたことは嫌いじゃないからな。
「あ!いた!
影人!」
「ん?」
「この大変な時にのんびり座ってんじゃないわよ~!」
「うおっ!」
ミツキが俺を見つけるなり飛び蹴りをかましてきた。
ギリギリ避けたが、急になんなんだ。
「避けんな!」
いや、避けるだろう。
「……!」
突然、体が動かなくなる。
これは……。
「《拘束魔法》。
ミツキ、もう一回」
え?
プルさん?
「さらに!
【地を這う蛇】なのだ!」
ノアさん?
俺の足が隆起した床に挟まれたんですが?
「死ねっ!」
そして、再び飛び蹴りするミツキ。
後ろの方にアワアワしてるフラウ。
「ぐはっ!」
そして、俺は顔面に思いっきり蹴りをくらった。
解せぬ。
「……なるほど。
また魔王が来ていたわけか」
俺はフラウに氷嚢を頬に当ててもらいながら、女湯での出来事を聞いた。
「……男湯にいた時も、出たあとも、なんの気配を感じなかったんだがな」
「結界。
魔力や気配を遮断する結界を張ってた。
ご丁寧に魔王本人の魔力は完全遮断しつつ、それ以外の魔力は平常時のまま結界の外に放出するようにされてた」
だからか。
女湯からはいつも通りの皆の気配しか感じなかったのは。
ん?
というか、それなら気付けるわけないし、俺がミツキに蹴られる必要はなかったんじゃ。
結界に気付いていたプルを見ると、ニヤリと嫌な顔で笑っていた。
こいつ、ホント良い性格してるな。
……それにしても、また魔王が来たのか。
俺とフラウの進捗を確認するためと言っていたらしいが、魔王はなぜそこまで俺たちに固執するのか。
魔王の本当の狙いはどこにあるのだろうか。