第百五十六話 まさかのお風呂回の続き
「まてまてなのだー!」
「きゃっきゃっ」
「お風呂で走ると危ないわよ~」
「ふみ~」
体もキレイになって、浴場で追いかけっこを始めたフラウとノア。
ミツキとプルはそれをのんびり眺めながら大浴場の湯船につかっていた。
「……影人、また変わってたわね」
「……気付いた?」
ミツキがぽつりと呟き、少ししてからプルが答える。
「私自身が強くなって、あの力のヤバさをより感じるようになったわ。
あの力は異常よ。
あれは成長して伸びていってるっていうより、堕ちていってるわ。
このまま影人を放っておいていいのかしら」
「……言い得て妙」
前を向いたまま語るミツキに、プルは足をパタパタと揺らす。
「影人自身が望んでる、気がする。
自分がそうしないといけないっていう覚悟?」
「でも、このまま行けば、きっと戻れなくなる。
もしも、もしも影人が堕ちたまま戻れなくなったら、私たちは止めないといけない。
その命を奪ってでも……」
ミツキがうつむく。
「……止めるだけがすべてでもない」
「えっ?」
ぽつりと呟くプルに、ミツキが顔を向ける。
「自分で戻れないなら引っ張りあげてやればいい。
仲間とは、そういうもの」
プルがしたり顔でうんうんと頷いていた。
「……そうね。
そのためにも、私たちももっと強くならなきゃね」
「ん。
そゆこと」
2人は笑顔を見せ、フラウたちに目を向けた。
「きゃっきゃっ」
「まてまてなのだー!」
「まってー」
「「ん?」」
フラウとノアの追いかけっこに、いつの間にか誰か混ざっていた。
「んー?
誰なのだー?」
「あっ!」
「オウカさんだよー!」
「「……え?」」
一瞬止まったあと、ミツキとプルが動く。
「まおっ……むぐ!」
「まあまあ、騒いじゃダメよ~」
ミツキが魔王と言おうとした瞬間、オウカはミツキの後ろに回ってミツキの口を抑えていた。
プルが杖を亜空間収納から取り出そうとしたが、オウカはミツキの首に静かに爪を当てた。
「……くっ」
それを見て、プルは亜空間に突っ込んだ手を抜いた。
「そそ。
別に私は争う気はないから、物騒なことはやめよーよー」
オウカはにへらと笑い、ミツキから離れた。
「……くっ!
なにしに来たの!?」
ミツキはバッ!とオウカから離れ、プルと並んだ。
フラウもそれに合流し、ノアも様子を見ながらその後ろにつく。
「なにって、お風呂入りに来たのよー。
お風呂は無礼講ってゆーでしょ。
皆ものんびりしなよー」
「そんなわけないでしょ!」
のんびりとしたオウカの態度にミツキたちは警戒を解かずにいた。
「やれやれ、しょーがないわねー。
まあ、ホントは光の巫女ちゃんの進捗を見に来たのよ~。
あのホネホネのおっさんのとこでまた進化したみたいじゃない」
オウカはそう言うと、フラウのことをじっと見つめた。
「……あう」
何もかもを見透かされそうな視線に、フラウは思わずたじろぐ。
「……ふ~ん。
影人が混じったんだ。
……ずるいなぁ」
「ひっ!」
オウカの嫉妬にまみれた暗く冷たい眼差しに、フラウは身を縮込ませた。
ミツキとノアがバッ!とその間に入る。
「ん~、ま、いっか!」
オウカは攻撃体勢に入っていたプルを一瞥したあと、能天気に背を向けた。
「まだまだ途上みたいだし、もうちょい様子見よーっと」
オウカはそう言うと、てくてくと歩いていった。
男湯と女湯を隔てる壁に向かって。
「ちょっと!
どこ行く気よ!」
「え?
せっかくだから影人にも会ってこうかと思って」
「そんな格好で、しかも男湯なんか行っちゃダメよ!」
「え~。
ダメ?」
オウカが振り向き、ミツキにポージングを決める。
一糸まとわぬその姿で男湯に行けば、たしかにいろいろと大変なことになるだろう。
「ダメ!ゼッタイ!」
「ぶー!」
オウカは唇を尖らせながら、不満げに右手を何もない空間にかざす。
「しょーがない。
今日のところは帰ってやるか」
そして、その空間に扉を出現させると、その中に入っていった。
「じゃ、まったね~。
あでゅ~」
そして、扉が閉まると、スウッとその扉は消えていった。
「……なんだったのよ、まったく」
「……」
フラウはオウカが去ったところを、しばらくそのまま眺めていた。
「……すごかったわね」
「……ばいんばいん」
「ボンキュッボンなのだ……」
「……あう」
いろんな意味で完敗した女性陣だった。