第百五十一話 影撃の英雄のスキル
「……くっ!
はっ!」
「はぁはぁ……えやっ!」
「……くそっ」
数が多すぎる。
いくら闇の力でブーストしていても、フラウの光の巫女の力が特効だとしても、広間に溢れるスケルトンどもの数が多すぎて、いっこうに数が減らない。
一気に切り込んでバラムを倒せばと思ったが、それを阻むように攻撃してくるスケルトンどもに足を止められてしまった。
そして、少しでも足が止まれば周囲からスケルトンどもが群がってくる。
「……ちっ!」
「……はぁ!」
フラウもだいぶ疲れが出てきている。
短剣に纏わせた光の巫女の力も出力が弱くなってきているようだ。
しかも、俺の方の力は闇属性のスケルトンどもにはほとんど効果がない。
俺の闇の力は単純に身体強化程度の役割しか果たしていない。
《従属召喚》相手にこのレベルでは、バラムにはほとんど物理的な攻撃としてしか意味を成さないだろう。
やはりそうなると、フラウの剣での攻撃が必要だ。
しかし、
「……ご主人様。
あの人の所に転移できないです」
「……ああ。
わかってる」
フラウも気付いたか。
先ほどから【影追い】でバラムの影から出られないか試しているが、影が濃すぎて転移することが出来ない。
それに召喚されたスケルトンどもには影がないから、そもそも【影追い】はきかない。
つまり、物理的に移動してバラムの元までたどり着かないと行けないのだが、それを大量のスケルトンが阻む。
「……さて、どうするか」
俺は襲い掛かってくるスケルトンどもを薙ぎ払いながら考える。
一体一体はたいしたことないが、これだけ数が多いと油断できない。
そして、体力だけは確実に減っていく。
このままではじり貧。
いずれは物量に押されてやられてしまう。
今の自分の弱点が完全に露呈した形だな。
一対一の対人戦ならそれなりに戦えても、自分と同じ属性の多数が相手となると、個人技で一人ひとりを叩いていかなければならない。
「……これは、今後の課題だな」
「えっ?」
ぽつりと呟くと、フラウが剣を振りながら首をかしげた。
「いや、なんでもない」
さて、どうするか……。
「せめて、あの人の近くに飛べる影があるといいですね」
!
「そうか」
「え?」
影がないなら、ヤツの元まで影を作ればいい。
『フラウ。
これからヤツの近くまで影を届かせる。
フラウはそこに飛ぶことだけを考えろ。
他にはわき目を振らなくていい。
いいな?』
『え?
あ、はい。
わかったです』
フラウは念話を返しながら、こちらを向いてコクリと頷いた。
「よし。
【影分身】」
『……ほう』
スキルを発動すると、俺の影が8つに分かれ、そこから俺と同じ姿の形代が8体現れた。
どれもが俺と寸分違わぬ姿。
『見せかけの幻影なんかとは違う、実体のある影分身か』
「ご主人様がいっぱいです!」
そう。
これは影撃の英雄に付帯していたスキル。
自分の実体を複数作るスキルだが、力も等分してしまうために使いどころが難しく、なかなか使う機会がなかったものだ。
今回も、結局は自分1人でスケルトンどもを倒していった方が効率がいいからと使用していなかったが、違う使い方を思い付いたのだ。
『ふむ。
手分けした所で、自身の力も等分してしまう影分身ではあまり意味を成さないと思うがな』
バラムも同じ考えのようだ。
だが、俺はただの橋渡し。
フラウの刃をヤツに届かせるための足掛かりになれればそれでいい。
「いけ」
そして、俺の命令に従って、1体の影分身が地面を踏んで、バラムの方向に大きく跳躍した。
スケルトンどもの頭上を飛ぶ影分身に、ヤツらの剣は届かない。
が、それだけでは到底、バラムまで届かない。
『ふっ。
なにを……む?』
【影追い】は自らが感知可能な影に、自分の影を通してアクセスするスキルだ。
ようは、影から影に転移するスキルだと言っていい。
そして、それは影の大きさや目標となる影までの距離によって成功率が変わる。
とりわけ、あまりに小さい影には飛びにくい。
だが、目の届く距離ならば、手のひらサイズの影にでも飛べる。
たとえば、足の裏のサイズであっても。
【影追い】
『……ほう』
跳躍した影分身の足元から、もう一体の影分身が現れる。
最初の一体はそれを足場にして、再び跳躍する。
そうして落ちた一体は即座に本体に帰属させる。
影分身が致命傷を負うと、その力は霧散され、本体からその分の力が失われ、それが戻るには相応の時間がかかるからだ。
そして、最初の影分身は【影追い】によって現れる他の影分身たちを次々に踏み台にして、バラムに近付いていく。
俺本体とフラウはその場でスケルトンどもを適当に払う。
そして、最初の影分身が8体目を踏み台にした所で、バラムにまで届く距離に到達した。
バラムの近くのスケルトンどもはバラムを守ろうとはせず、剣の届かない影分身に懸命に剣を振っていた。
どうやら、個別に命令を与えることはできず、『近くの敵を攻撃しろ』とでも命じられているようだ。
『ふはははは!
よくぞここまで到達したものだ!
影分身をこんな使い方するとは考えたな!』
バラムはむき出しの歯を愉快そうにカタカタと揺らした。
『だが……、
私のことをナメすぎだな』
バラムはそう言うと、手のひらを影分身に向けた。
《ブラックカース》
そして、その手から放出された黒い魔力の塊によって、影分身は潰され、影の塊となった。
『これだけの数を召喚しているならば、他の技は使えないと思ったか!
8つに分けた力など、簡単に屑ることが出来るのだよ!』
「……ああ、たいしたもんだよ、あんたは」
『なにぃっ!』
そして、俺とフラウは影の塊となった影分身から、【影追い】によってバラムの眼前に姿を現した。




