第百四十八話 合流
「!?」
仮面の男ゲタンが、展開させていた結界内から影人とフラウの反応が消えたことを感知した。
『どうした?
ゲタン』
バラムがその様子に気が付き尋ねる。
「例の2人ですが、地下への入口の扉の眼前で反応が消失しました」
『……ほう』
バラムは背を預けていた玉座から少しだけその身を起こすと、眼球のない瞳に宿る赤い炎が紫に変わる。
『……ふむ。
これは【影】のスキルだな。
影をたどってこの大墳墓に侵入。
……【影追い】か』
「!」
バラムの言葉にゲタンが自らの影に視線を落とす。
「ま、まさか!」
『……来るな』
そして、ゲタンの影から影人とフラウが飛び出した。
「ふ~、やれやれ。
やっと終わったのだ!」
一方その頃、城の外でノアが行っていた大地の浄化が終わる。
大地の浄化は終わったが、すでに出現していた生ける屍は消えないようで、プルに張ってもらっていた《聖域結界》の外には無数のゾンビたちがさまよい、結界に触れては消えていた。
「う~む。
あとはこれを全部片付けるのだな。
……めんどいのだ」
結界の外に溢れるゾンビたちにノアが辟易していると、空から一条の光が落ちてきた。
「んー?」
その光が地面に突き刺さると、周囲に光が拡がり、それに触れたゾンビたちが消滅した。
そして、その光が2本3本と増えていき、まるで雨のように、ゾンビたちが蠢く大地に光の雨が降り注ぐ。
炸裂する光に、ゾンビたちが次々に消失していく。
「おー!
すごいのだー!」
その光はノアの結界には影響を及ぼさないようで、ノアは燦然と輝く空を見上げながらはしゃいでいた。
やがて、光が降り終わると、ノア以外に動くものはなくなった。
「いやー、すごい数だったわねー。
あら?
あなた、巨人の王よね?」
そして、ノアが造った土壁を越えて入ってきたミツキがノアを見つける。
「うむ!
ノアなのだ!
今のはミツキの技なのだな!」
「そーよ。
無事に光弓の英雄になれたの。
えっと、よく状況が分からないけど、とりあえずゾンビたちは倒しちゃって良かったのよね?」
ミツキが周りをキョロキョロしながら状況把握に努めている。
「良かったのだ!
私1人で片付けるのはめんどかったから助かったのだ!
影人たちは先に行ってるから、一緒に追うのだ!」
「なら良かったわ。
ま、よく分かんないけど、それならとりあえず、一緒にお城に行きましょっか」
「行くのだ!」
そうして、2人は城内に侵入していった。
「ふ~。
収穫十分」
プルが亜空間での実験を終え、城内に再び戻ってきた。
魔法無効化の紋に対する実験でそれなりの成果をあげられたらしく、ほくほく顔をしていた。
「あ!プルなのだ!」
「ホントだ!
お~い、プル~!」
「あ、ミツキ。
と、ノア」
ミツキとノアがそんなプルを見つけ、手を振って駆け寄ってきた。
プルはミツキの周りを揺蕩う魔力をじっと見つめる。
「……無事に新しいジョブになれたんだ」
「さっすが、よく分かるわね。
おかげさまで、無事に修了したわ」
「んなら良かった。
でも、さっきの矢。
ただの光の矢じゃなかった?
光属性は闇系にダメージ増だけど、アンデットみたいなのを浄化する聖属性の力はない、はず」
プルがこてんと首をかしげる。
「あ、感知してたのね。
それはたぶん、これのおかげよ」
ミツキはそう言って、首に下げたペンダントを掲げた。
「それ、エルフの守り?」
「そ。
なんか、長さんに餞別だってもらったのよね」
「エルフが他種族にエルフの証を渡すのは珍しい。
ずいぶん気に入られたみたい」
「あら、そうなの?」
プルに言われ、ミツキはエルフの女性が彫られたレリーフのついたペンダントに目を落とした。
「……まあ、根性見せたからね」
そして、慈しむようにそれを撫でてみせた。
「プルだけがここにいるってことは、影人たちはもっと奥なのだ?」
ノアがプルの奥に続く廊下をひょいと覗き込む。
「ん。
2人はたぶん、一足飛びで地下の地下に行った、と思う」
プルが地面の下を見たのにつられて、2人も地面を眺める。
「……大丈夫かしら、2人で」
「私たちも行くのだ!」
「ん。
でも、私たちは【影追い】とか出来ないから、普通に行くしかない」
「……急ぎましょ」
ミツキの言葉にしたがって、3人は地下へと急いだ。