第百四十一話 新たな万有スキル所持者
「……ミツキお姉ちゃん、大丈夫でしょうか?」
「ん?」
道中、フラウが心配そうに呟く。
俺たちはいま、人間の領域にある西の<アーキュリア>に向かっていた。
<アーキュリア>には転移魔法が使えないため、南の<リリア>に転移してから、徒歩で向かう。
「……実際、英雄級のジョブは修得が難しい」
「プル」
プルはミツキがエルフの大森林に向かったと聞いて、弓士の英雄級のジョブになるためだろうと言っていた。
「儀式や試練が必要だし、最悪、死ぬ、かも」
「そ、そんな!」
プルの話にフラウが顔を青くする。
「ん?
俺はわりとすんなり影撃の英雄になれたぞ?」
とくに特別な何かをした覚えはないんだが。
「影人は変態だから」
……そこもそれで片付けるのか。
「まあー、潜在的にそのジョブにつけるようなヤツは、特に苦労しないでなれるものなのだ!」
おお!ノア!
まともな解答ありがとう!
「ちっ!」
……プルさん?
「……」
「……フラウ、どうした?」
フラウが下を向いて考え込んでいるようだ。
「……私も、もっと強いジョブになりたいです!
私はまだ影長にもなってないです!」
フラウが顔を上げて、懇願するように見つめてくる。
フラウは今は忍だ。
まだまだ下積みの期間といったところか。
焦ることはないのだが、周りのレベルが高すぎることに焦りを覚えるのは無理もないな。
さて、どう言ったものか。
「光の巫女は最上級の称号・ジョブだから、心配はいらない」
「プル」
俺が言いよどんでいると、プルがフラウに話しかけた。
「光の巫女は神樹の守護者に近しいレベルのジョブ。
それこそ、王級のジョブなんかより、よっぽど格上。
完全に修得できれば、一気にレベルアップ。
変なことは気にせず修行に励むといい」
「あ……うん!」
プルの言葉に、フラウは嬉しそうに頷いた。
「そうか。
王級よりも上のジョブもあるんだな」
「ん。
でも、それはほんのわずか。
たぶん、世界に数人しかいない」
俺の呟きにプルが頷いて答える。
「そんなことより!
影人!
私と勝負するのだ!」
「ノア?」
ノアが話を遮って、俺に指を差してきた。
「破理と良い勝負するヤツと、私も手合わせしてみたいのだ!」
ノアはわくわくした顔で、手足をバタバタさせている。
巨人は強者に従う種族だというが、元々戦闘が好きな種族のようだ。
「……別に構わないが、おそらく俺はノアにまったく敵わないぞ?」
「む?
なぜなのだ!?」
ノアが首をかしげる。
「そもそもミツキと2人がかりだったし。
こちらはあいつを殺すつもりだったが、あいつの方は俺たちを殺すつもりはなかったみたいだからな。
たぶん、俺の力を見たいからってことで、軽く手合わせしてみただけなんだろう」
「むぅ」
「それに、あんたは破理よりも強いだろ?」
俺が尋ねると、フラウが驚いた顔をしていた。
「まーなー。
巨人はスキルや魔法に頼らなくても、そもそもの肉体の強さがあるから、破理とは相性があまり良くないし、私のスキルはあいつのスキルでは封じれないからな!」
なるほど。
破理のスキルは【覇者の挑戦】。
その効果は、この世界の根幹を成すスキルを一時的に封じること。
そのスキルを使わなくても、もともと持つ肉体の強さで戦う巨人は、破理にとって良い対戦相手であると同時に、相性の悪い相手でもあるわけか。
そしてそれは、魔王のスキルを奪うスキルも同様。
つまり魔王軍にとって、巨人は相手にするには面倒な相手、というわけか。
ん?
というか。
「破理のスキルの対象は王級以下のスキルだよな?
それの対象にならないって……」
「ん?
ああ、私のスキルは万有スキルといってな。
王級よりも上のスキルなのだ!」
「なっ!」
まさか、俺と魔王以外の万有スキル所持者がここにいたとは。
それはたしかに、魔王も手を出しにくいわけだ。
「ん?
でも、なんで影人が破理のスキル効果の範囲を知ってるのだ?」
「ん?
あ、いや、なんとなく、な」
「ふーん。
ま、いっか!」
俺も万有スキルを持っていることや、サポートシステムさんの存在はまだ話さない方がいいだろう。
ノアは悪いヤツではないみたいだが、もしかしたら敵に回る可能性もある。
安易に情報を明け渡すのは尚早だろうな。
「そういえば、影人が使ったあの黒い力。
あれ、まだうまく操れてないみたいだな」
ノアが思い出したように呟いた。
「なんていうか、その刀の大きな力に振り回されてるみたいな感じだったのだ」
「……ああ、その通りだ。
そのためにも、黒影刀を真の姿にする必要がある」
俺が黒影刀に手をやると、ノアは刀を見つめたあと、のんびりと空を見上げた。
「ふーん。
ま、あとは、影人がさらに上のジョブになるとかなのだ」
「ああ、だが、これ以上はすぐには難しいだろう。
まずは影撃の英雄をマスターしなければ」
「ま!
何はともあれ、強くなってくれるなら私は嬉しいのだ!」
ノアは空を見上げたまま、嬉しそうにくるくると回る。
「仕方ないから、影人がその力を完全に使えるようになるまで待っててやるのだ!」
そして、ピタッと止まると、再びビシッと、俺を指差す。
「はは、それは助かる」
そう言って、俺はやれやれと目を閉じる。
「そして、私に勝ったら結婚なのだ!」
「は?」
そんな俺に、再びノアはキスをしようとしたが、
「……むぎゅ?」
「……同じことはさせないのです」
フラウの手でガードされていた。
「むむむ。
フラウはどうして邪魔するのだ?
フラウも影人のことが好きなのだ?」
「なっ!
ちっが……!」
「え?
そうなのか?」
「違うです~!」
「ぎゃふっ!」
なぜ俺が殴られる?
そしてどこへ行く?
「影人さんひゅーひゅー」
プルさん口笛吹けてないぞ。
「いや、違うらしいぞ?」
「……影人はバカで変態」
え?
ひどくない?