第十四話 王子と姫のプレゼン大会
「草葉様!」
ライズ王子の後続部隊が合流してすぐ、カエデ姫が食い気味に話しかけてきた。
「な、なんでしょう」
あまりの勢いに引き気味になってしまった。
「実は、私も転生者です!」
「え、そうなのか?」
これは意外だった。
名前に違和感は感じたが、テツという名前の者もいるし、転生者の子孫の可能性は考えていたが、まさかご本人様とは。
「ええ。
ですので、草葉様が女神様のことをパンダと表現なさった時、私にはあなたが転生者だと確信することができました!
あの女神様のお姿はパンダという、向こうの世界の動物のお姿なのでしょう?
その言葉に気がつく者がいるかどうか試すために、あのような形容で女神様を表現なされたのでしょう?」
「あ、あーそうそう。
そうなんだよー。
メガミサマの言葉ぶりから、こっちにはパンダはいないみたいだったから試してみたんだー。
さすがはカエデ姫だー。
バレてしまったかー」
言えないな。
この会話をきっと聞いているであろうパン神への皮肉として言っただけだなんて。
というか、あのパンダ、メスだったのか。
メスとか言ったらまた怒りそうだが、まあいいか。
それにしても、
「あんたはパンダ自体を知らなかったのか?
いったいいつからこっちにいるんだ?」
パンダが日本に来たのっていつだったか。
少なくとも、情報自体はまあまあ前からあったんじゃないか?
「あ、私があちらの世界にいたのは、平安と呼ばれた時代です」
「へ、へいあん!?」
おいおい。
突っ込みどころが多すぎるぞ。
「えーと、カエデ姫様はおいくつであらせられますでしょうか?」
そりゃ、思わず最高敬語気味にもなるさ。
「ふふっ。
安心してください。
女神様いわく、時空間の歪みによって向こうの時代が異なることもあるそうです。
実際に、私がこちらに降臨したのは、こちらの世界では6年前です。
この言葉遣いや知識は、同時期に転生してきた子が教えてくれました。
確か、平成が終わる頃に来た子で、異世界転生にも、やたらと詳しくて助かりました」
カエデ姫はそう言って懐かしむように笑った。
ただでさえ綺麗な顔なのに、笑うとそれがさらに倍増するように思える。
でもどうしてだか、どこか寂しげにも見える笑顔だった。
「また、我がワコクは過去、転生者を数多く招いており、実に多くの日本の文化が取り入れられております」
「まあそうだろうな」
カエデ姫の着物や忍の黒装束。テツの和製鎧を見れば、それは一目瞭然だった。
「はい!
ですので、我が国でおくつろぎいただきながら、この世界や転生者に関してのお話をお聞きいただき、草葉様のお話も、ぜひともお聞かせいただければと思います!」
「おい!
ちょっと待て!」
おいおい。
この姫さん。
いきなりだいぶぶっ込んできたな。
不利な状況を打開するために、一気に勝負を決めに来たのか。
そりゃあ王子も焦って止めるよな。
「草葉殿は我がマリアルクス王国にお招きするのだ!
勝手に話を進めるな!」
「あらあら。
素が出ておりますわよ。
ライズ王子様」
倒木から立ち上がって憤っている王子を尻目に、カエデ姫はクスクスと笑みを浮かべていた。
「草葉殿!
我が国にも転生者はいます!
ワコクにはカエデ姫しかおりませんが、マリアルクスには3人の転生者がおります!
我が国に来ていただければ、すぐにお話が出来るように手配いたしましょう。
それに、この世界に関しての説明も、王立学院の講師でもあるこのザジが1から説明いたします!
ぜひとも!
我が国マリアルクスまでお越しください!」
その後も2人は負けじと、温泉が良いだの食事が良いだの、歴史が、景色が、安心安全がと、旅行パンフレットのような宣伝文句をお互いにあげ連ね続けた。
他の者たちはまた始まったと呆れながらも、俺の結論に傾聴の構えのようだった。
フラウだけはトリアの膝枕で、すーすーと寝息を立てていた。
さて、どうしたものか。
俺としては主観を交えた説明よりも、客観的な立ち位置から見た世界の情報が欲しかったのだが、ここまで来てしまえば、おとなしくついていって説明を聞いた方が良さそうだな。
どちらも、魔王という共通の敵と相対しているし、その中で互いにケンカできる程の平和は維持できているみたいだしな。
あとは、どちらについていくか、か。
今までの話し振りや個人的見解からも、それは既に決まっていた。
王子と姫はまだ互いにワーワー言い合っていたが、
「よし。
決めた」
そう言うと、2人はピタッと言い合うのをやめて、こちらにぐんっと向き合った。
その勢い、少し怖いのだが。
他の者も皆、こちらを注視している。
「俺は…………」