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第百三十五話 拳聖王破理

「ひろっ!」


 巨人の王に案内された、巨人の決闘場の広さにミツキが声を上げた。

 あちらの世界で言えば、例のドーム4個分といった所か。

 まあ、10~20メートルはある巨人たちが戦うなら、これぐらいは必要なのか。


「ここはチーム戦を行ったりもするから、これでも手狭になったりするのだ!」


 王はそう言いながら、決闘場にすたすたと歩いていった。


「とはいえ、私たちぐらいのサイズには大きすぎるから、ちょっと会場を作ってやるのだ。

ちょっと待つのだ!」


 そう言うと、王は空中に手をかざし、亜空間から小さな鎚を取り出した。

 それは黒い金属製で、片方はピッケルのように尖っていた。


「ほいっ」


 そして、それを地面に叩き付けると、決闘場の平らな地面が隆起し始め、あっという間に、一辺が30メートルほどの、正方形の舞台が出来上がった。


「土を自在に操れるのか」


「そーそー。

嬢ちゃんはすごいんだよ、ホント」


 俺の呟きを聞いていた破理(はこと)が無精髭をいじりながら、出来上がったばかりの舞台に歩いていった。


「あ、そうだ。

おまえら、2人でかかってきていいからなー」


「なっ!」


「待って!

影人。

そうさせてもらいましょ」


「ミツキ……?」


 俺が1人で充分だと言おうとしたら、ミツキが俺の肩を抑えた。

 思えば、ミツキはあの男をずっと警戒している。

 俺たちが2人掛かりで挑まなければ太刀打ち出来ないほどの相手だということなのだろうか。


「……わかった。

そうしよう」


 今は、目的を最優先にさせなければ。


 俺はそう思って、破理とミツキの提案にのることにした。


「んじゃ、ルール説明なのだ!

相手に敗けを認めさせれば勝ち!

会場は作ったけど、別に場外とか気にしないでいいのだ!

ケガしたり死んだりしたら自己責任ドンマイなのだ!」


「……要はルール無用ってことか」


 王の説明に3人が頷き、俺たちは戦闘態勢に入った。

 俺は黒影刀を抜き、ミツキは弓に矢をつがえる。

 破理はたいして構えることもなく、その場に自然体で突っ立っていた。



「よっし!

それじゃ、開始なのだ!」


 まずは小手調べ。


 俺は抜いていた黒影刀を中段に構え、瞬時に破理に接敵した。


「おお!

なかなか速いな」


「そりゃどーも」


 正面に現れた俺をしっかり視認している破理に、俺は構わず胴切りを放った。


 が、


「……くっ」


 黒影刀は破理の着流しに似た服を斬ることも出来ずに、皮一枚隔てて、見えない力に止められた。


「ほー。

防御しても衝撃が少し伝わってくるな。

坊主、なかなか良い刀使ってるじゃないか」


「ちっ!」


 俺はそれ以上斬り込むのは無理だと判断して、刃を引いて、ミツキの元に戻った。


「あれは、魔力ね」


 合流したミツキが俺にそう告げる。


「極限まで鍛え上げられた魔力。

それは纏うだけで、防御力が半端なく上がるって聞いたことがあるわ。

たしか、『魔天纏(まてんまとい)』とか言ったかな。

そして、それを使えるのは、1人だけだったはず」


 ミツキの頬に、一筋の汗が伝う。


「なんだ、お嬢ちゃんはおじさんのことを知ってるのか?」


「かつて拳聖と呼ばれた男。

名前も容姿も不明で、龍を素手で粉々にしたとか、火山を拳で噴火させたとか、逸話は数知れず。

たしか、数年前に行方不明になったはずだけど、それがあなただったのね」


 ミツキに言われて、破理が気まずそうな顔をした。


「あー、おじさんも、若い頃はいろいろやったからねぇ。

そんな黒歴史もあったなー。

ま、今は大人になって、丸くなったんだよ。

それに、今は拳聖王ってジョブらしいぜ」


「……王級。

なんで、そんな人が魔王の手先なんか……」


「ま、おじさんにもいろいろあってね。

でもまあ、単純な理屈だよ」


 そう言うと、破理は腰を落とし、右拳を引いた。


「我が求むるは、ただ強者との闘いのみ」


 破理の右手に、とてつもない量の魔力が練り込まれていく。


「それが一番手に入りやすいのが、あのお嬢ちゃんの下だっただけなのさ」


「ミツキ!

避けっ……!」


 そして、破理の繰り出した正拳突きによって、破理よりも前にあったものは跡形もなく吹き飛んだ。













「?」


「フラウ、どしたの?」


「あ、ううん。

何でもないです」


 ルルの資料を読み漁るプルは瞑想中のフラウに声を掛けた。


 ここはルルのあらゆる資料が所蔵された亜空間。

 上も下もなく、ただそこに立っているという認識だけでそこに在ることが出来る空間。

 真っ暗なその空間は、ぐるぐると巡る星々によって照らされていた。


「違う。

違う。

これも違う」


 プルは本を手当たり次第に出現させては、ペラペラとページをめくると、すぐにそれを放り投げ、また次の本をめくっていった。


「プル~。

これ、いつまでやらなきゃですか?」


 フラウが座禅を組むのに疲れたらしく、プルに弱音を吐いた。


「ん。

フラウの姉曰く、光が見えるまで」


「光?」


 フラウの姉に教えてもらった、光の巫女の力をコントロールするためのトレーニング。

 その第一段階が瞑想であった。

 フラウのトレーニング内容に関しては、プルが全面的に管理しているようだ。


「ん。

なんでも、神託の巫女が未来を見通すように、光の巫女は今。現在を把握する、らしい」


「よく分からないんだけど」


 プルの説明に、フラウが首を傾げる。


「私も原理は分からん。

けど、たぶん、ここにいながら、世界の現在(いま)が分かるんだと思う。

それを、光と呼んでる、ような気がする」


「……光」


 フラウはそう呟くと、再び瞑想の世界に入っていった。

 プルはそれに軽く微笑み、再び本の山を切り崩しにかかった。




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