第百三十三話 ルルの知識部屋へ。そして、巨人の王
「ささ、こちらになります」
最初に案内してくれた男性は入口の案内に戻り、彼の上司の男性が、ルルの蔵書スペースへと案内してくれた。
そこは、コインロッカーのようなものが無数に並んでいる空間だった。
そして、そのコインロッカーには縦横10個ずつ。計100個の小さな扉がついていて、その扉はひとつひとつが縦横10cmぐらいの大きさしかなかった。
「では、私はこれで」
そう言ってお辞儀をすると、男性はすぐに部屋を出ていった。
機密保持のために、どのロッカーを使っているのかを見ないようにしているようだ。
「こっち」
プルは迷うことなく、無数に並ぶロッカーの間を歩いていく。
フラウはプルを見失わないように、その後ろにパタパタとついていった。
「ここ」
プルが足を止めると、そのロッカーの扉には、『3784』と書かれていた。
「こ、こんなちっちゃい所に資料が入ってるの?」
フラウが尋ねると、プルはふるふると首を横に振った。
「これはあくまで亜空間への入口。
中に入るための扉の1つ」
プルはそう言うと、手のひらを扉にかざした。
『神樹の守護者の、知識の泉。
我、守護者を受け継ぐ者。
扉の鍵よ、ここに姿を現せ』
そう言って、プルが手のひらを握ると、その手には1つの古びた鍵が握られていた。
プルがその鍵を扉に差して回すと、ガチャリと音を立てて扉が開き、プルとフラウを吸い込んだ。
「え?
ひゃあぁぁぁぁ……!」
フラウの悲鳴までも扉に吸い込むと、扉は再びその口を閉じた。
ガチャリと音を立てて、巨人の王の家の扉が開く。
「ディーダ!
うるさいのだ!
そんなにバカデカい声を出さなくても聞こえるのだ!」
「おお、こりゃすまなんだ」
赤髭のディーダが平謝りする相手。
巨人の国の王。
魔王軍が滅ぼすには手を焼くと判断するほどの存在。
大戦鎚ギガント・ノート。
「……小さい、な」
「ええ」
「こら!
聞こえてるのだ!
小さいとはなんなのだ、小さいとは!
失礼なのだぞ!」
左手を腰に当てて、俺とミツキを右手で順番に指差しながら、ぷんぷん怒っているのは、フラウぐらいの大きさの少女だった。
金色の髪を高い位置でツインテールにしていて、毛先にウェーブがかかっている。
とても巨人たちを相手に出来るとは思えないのだが。
「おお、そうだ。
王よ。
小巨人からこいつを預かっててな。
俺では硬くて割れないんだわ」
ディーダは思い出したようにそう言うと、懐から3メートルぐらいの胡桃のようなものを取り出した。
「あ!
あれって、世界最高硬度の木の実って言われてる硬鎧錬実じゃない!」
「それは、ずいぶん硬そうだな」
「ずいぶんなんてもんじゃないわよ!
巨人が数人がかりで連日叩き続けて、ようやく割れるから、市場ではかなりの高値で取引されてるのよ!」
「そうなのか」
巨人の王だという少女は、それをディーダに地面に置いてもらうと、右手を軽く振り上げた。
「チョーップ!」
「……は?」
そして、硬鎧錬実に軽く手刀を振り下ろすと、世界最高硬度の木の実はあっさりと半分に割れ、地面にヒビが入った。
「……割れたぞ」
「……割れたわね」
唖然とする俺たちをよそに、ギガント・ノートは自分の身長の倍近い木の実を片手でひょいと持ち上げた。
「ほい、割れたのだ。
まったく、こんなのも割れないなんて修行が足りないのだ」
「いや、王の手を煩わせるとは面目ない。
では、俺はこれを小巨人に届けてくるのでな」
木の実をぽいと投げられたディーダはそれを優しく受け取り、ずしんずしんと地響きを立てながら去っていった。
「さて、おまえたち。
私に用があって来たのだろ?
家に入るといいのだ。
お茶でも出すのだ」
ギガント・ノートはそう言うと、鼻歌を歌いながら家の中へと入っていった。
「……発散してスッキリしたのかしらね」
「……もう、よく分からないな」
俺とミツキはとりあえず彼女のあとを追って、普通の一軒家である巨人の王の家に入っていった。