第百三十一話 巨人の王の元へ
「おお~!
高いな!」
「ちょ、ちょっと高すぎじゃない!?」
俺たちは持ち上げられた手のひらの上で揺られていた。
巨人は当然のように大きいのだが、周囲の木々や家も大きいので、自分たちが小さくなったような気になる。
手のひらサイズの人形が人間の街を歩いているようなものだな。
ミツキがおそるおそる下を覗き込みながら、俺にしがみついてくる。
「ミツキは高いところは苦手なのか?」
「い、いや、そんなこともないけど、アトラクションと違って、シートベルトも柵もないじゃない。
こんなの、そりゃ怖いわよ!」
それもそうか。
俺は命綱なしでこういう高所を渡ることもあったから慣れているが、普通はそんなことないもんな。
「さて、お客人。
はじめましてだな」
俺たちを持ち上げた手の持ち主が俺たちの後方から話し掛けてきた。
顔も大きすぎて、全体像を把握できないが、チリチリの長めの髪の毛に、長い赤髭が特徴の巨人だった。
まるで、ドワーフをそのまま大きくしたような容姿をしている。
「ああ、はじめまして。
俺は影人。
こっちはミツキ。
ドワーフの国の頭領に紹介されて来たんだが」
「おお!
ドワルから念話で聞いてるぞ!
【岩窟王】の再取得に手を貸したのだろう?
あやつの作る武具には、俺らも世話になってるからな!
俺はディーダ!
礼を言うぜ!」
ディーダはにかっと笑った。
どうやら、気質もドワーフに似て、気のいい男のようだ。
「それなら話が早い。
実は、巨人の持つ……」
俺が訪問の目的を話そうとすると、ディーダはそれを制した。
「あー、そういうのは王と話した方が早い。
俺にはよく分からんからな。
俺は酒とメシぐらいにしか興味がない!」
いっそ清々しいぐらいにはっきりした男だ。
思わず、くすっと笑ってしまった。
「そうか、わかった。
そうだ。
あの破理とかいう男。
あいつは本当に魔王直属軍の1人なのか?」
とてもそうは思えないんだが。
「ん?
おお、あいつか。
あいつは気のいい男だぞ!
最初は俺らも警戒してたんだが、ありゃあ、ただの酒好きだな」
そう言って、かっかっかっと笑うディーダは到底嘘を言っているようには見えなかった。
もしも人身掌握術なら、たいしたものだ。
あいつの目的がはっきりするまでは油断はできない。
しばらくは様子見か。
「そういえば、巨人の王って、どんな人なの?
私も冒険者歴がそんなに短いわけじゃないのに、巨人の王に関しては、ほとんど情報を持ってないわ」
ミツキが思い出したように問い掛ける。
「ああ、王はあまり人前に姿を見せないからな。
知らなくても無理はない。
まあ、そんなに恐ろしい方ではないから心配するな。
ちょっと、面倒なところもあるが……」
なんだか含みのある言い方なんだが……。
「おまえら、それなりに強いだろ?」
「どうだろうか。
巨人の物差しで測ったことがないから分からないが」
「安心しろ。
パッと見でも、俺からしたら、おまえらは合格だ」
「合格?」
「おまえらも、頑張れば王に認めてもらえるだろうから、気張れよ!」
「あ、ああ」
だいぶ嫌な予感がするな。
「俺たちの基準は強さだ。
たぶん、王と拳で語り合うことになるから、そのつもりでいろ。
巨人の王、大戦鎚、ギガント・ノートとな!」