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第百三十話 出迎え

「もうこの森は、巨人の国の領地なんだよな?」


 俺が尋ねると、ミツキは周りをキョロキョロ見回しながら答えた。


「そうよ。

でも変ね。

話では、国に入るとすぐに使いの者が来るって話だったけど」


「そうなのか?」


 森を歩いてそれなりに経つが、いっこうに迎えが来る気配は感じられない。



「それはな、おっちゃんが巨人の人たちに迎えに来ないように言っておいたからだ!」


「なっ!」


「え!?」



 突然、背後から声が聞こえ、バッ!と振り向くと、すぐ目の前に、1人の男が立っていた。

 それは、手を伸ばせばすぐにでも触れられそうな距離で、俺たちは慌てて男と距離をとった。


 空間転移でもなく、俺たちに気付かれることなく、こんなすぐ近くに?

 いったい、どうやって。


「あんたは?」


 俺が警戒しながら尋ねると、男はあくびをしながら、それに答える。


「あ~、おっちゃんは魔王直属軍の中の1人で、破理(はこと)って言うんだけど、てか、おまえら来るの早すぎだろ。

せっかく気持ち良くお昼寝してたのに、急いで来なきゃいけなくて大変だったぞ」


「ま!魔王直属軍ですって!?」


 ミツキが驚いて武器を構える。



 が、



「え?

うそ、矢が出せない!」


「なに?」


 ミツキは【終わらない狩人】のスキルで、弓に矢をつがえようとしたが、どうやら矢を生成できないようだ。


「まーまー、そうキリキリしなさんな。

今はまだやる気はないからよ。

とりあえずついてきな。

巨人の王のとこに案内してやるよ」


 破理はあくびをして、顎に生やした無精髭をぼりぼりとかきながら、森の奥へと、すたすたと歩いていってしまった。

 その隙だらけの背中を見て、俺たちはおとなしくついていくことしか出来なかった。










「おー!

破理のオヤジ!

どうだい!

一杯やってかないか?」


「悪いなぁ、今は仕事中だ!

あとで行くよ!」


「あ!おっちゃ~ん!

また遊んでよ~!」


「また今度な~!

それまでにちゃんと勉強もするんだぞ~!」



 巨人たちが住まう<ギガステス>。

 その入り口たる街に着いた。

 ここに住んでいるのは小巨人(リトルジャイアント)と呼ばれている種族で、身長は3~6メートルほど。

 人間からしたら、それでも十分大きいのだが、巨人族からしたらだいぶ小型のようだ。

 子供(と思われる)でも、俺よりもだいぶ大きい。


 それにしても、俺たちを案内している破理という男。

 ずいぶんとこの街の住人に慕われているようだ。

 <ギガステス>は魔王軍とは停戦の関係にあるようだし、魔王直属軍の破理はその使者だと思われるが、それがこの馴染みようとは。

 本当に魔王軍なのか疑いたくなるところだ。

 停戦とは、一時的に戦をしないというだけで、その国の使者ならば、邪険にはされても、決して好意的にされるようなものではないと思うのだが。


 だが、ミツキは依然として男を警戒している。

 自分のスキルが使えなかったこともあるのだろうが、ミツキは冒険者として、命をかけたやり取りを俺よりもずっと長く続けてきている。

 俺には隙だらけのおっさんにしか見えないが、ミツキには、何か感じるものがあるのだろう。




「さ、こっちだぜ~」


 小巨人(リトルジャイアント)の街を抜け、再び森をしばらく歩くと、木々の高さが先ほどの倍近くなった森に入った。

 そして、その木々の間に建てられた家々もまた巨大だった。

 扉だけで15~20メートルぐらいはあるんじゃないだろうか。


「おお!

破理!

客人か!」


「うわっ!」


「きゃっ!」


 突然、頭の上の方からバカデカい声が降り注ぎ、俺とミツキは思わず耳をふさいだ。


「おお~!

旦那、王に言われた通り連れてきたぜ~!

王の家に案内してくれよ~!」


「うむ、構わんぞ!」


 破理が上を見上げて声を張り上げると、目の前の木が動いた。

 いや、どうやらあれは木ではく、巨人のはいた靴だったようだ。


 少しして、とてつもなく巨大な手のひらが優しく地面に置かれた。


「さあ、お客人。

俺の手に乗るといい。

王の家まで運んでやろう」


「行ってきな~。

おっちゃんはさっきの小巨人(リトルジャイアント)のとこで一杯ひっかけてから合流するからよ~」


「あ、おい!」


 そう言うと、破理は鼻唄を歌いながら、来た道を戻っていった。


「か、影人」


 ミツキが戸惑ったように俺を見ている。

 たしかに、これに乗るのは勇気がいるな。

 だがまあ、悪意は感じないし、話を聞かないことには進まない。

 とりあえずは言う通りにするしかないだろう。


「行こう」


 そうして、俺たちは巨人の手のひらの上で遊覧飛行をすることになった。





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