第百二十九話 巨人の国を目指して、ミツキと話してみた
「何気に、ミツキと2人は初めてじゃないか?」
「あー、そうかもねー」
俺とミツキは、エルフの大森林を出て、巨人の国<ギガステス>を目指して歩いていた。
つまり、魔王の領地だ。
とはいえ、変装の必要なんてないぐらいに誰もいない。
魔獣の類いもほとんど出てこない。
まるで平和な、自然豊かな場所だ。
そのため、俺とミツキはぽつぽつと木が生えている草原を、爽やかな風を感じながら、のんびりと歩いていた。
「あ、そういえば」
「ん?
なに?」
俺はこの前気になったことを思い出した。
「ミツキ。
ドワーフの国で、俺がまだ未成年だと聞いて驚いてなかったか?
あれはなんでだ?
ミツキと俺はそんなに変わらないだろう?」
「……あー、やっぱり影人は知らなかったのね」
「ん?」
ミツキはばつが悪そうな顔をしていた。
「転生者は、こっちの世界に降り立つ時に、自分の年齢を自由に設定できるのよ」
「え?
そうなのか?」
初耳なんだが。
「ほら、私って、こっちに来てから8年ぐらい冒険者やってるじゃない?」
「そういえば、そんなことを言っていたな」
「で、私は17の時に、あっちの世界から転生してきて、で、女神様に、好きな年齢で転生できるって言われて、私は9歳にしてもらったのよ。
で、そっから8年経つから、今はちょうど、転生する前と同じ年齢になったってわけ」
「なるほど。
そうだったのか」
8年も冒険者をやっているから、この世界についてもそれなりに詳しいわけだ。
「でも、なんでそんな子供に戻ったんだ?
この世界で冒険者としてやっていくのに、子供の姿ではいろいろ不利なんじゃないか?」
「あら、そんなことないわよ?」
「そうなのか?」
「ええ、子供の姿だと、盗賊なんかは油断してくれるし、庇護欲をそそるのか、他の冒険者も優しくしてくれるしね」
ミツキはそう言って、意地悪そうに笑った。
「……女は怖いな」
「使えるものは使わないと」
ふふんと笑うミツキは、たしかに俺よりも大人に見えた。
「ま、そのせいで、厄介な変態ギルドマスターに目をつけられたんだけどね」
「ああ、ストライクゾーンが10歳以下とかいう変態か。
ギリセーフだったわけだ」
「アウトの間違いでしょ」
そう言って、嫌な顔をしながらも楽しそうに笑うミツキ。
女心というものは分からないものだ。
「あ、そうそう。
神樹の守護者様のところの、ユリエさんは分かる?」
「月影の魔女か」
こっちの世界に降り立ったものの、外に出たくないからと、そのままルルのサポートをするようになった、最初の転生者。
「彼女、ホントはまだ20代らしいわよ」
「はっ!?」
いや、完全に老人の姿だったが。
「なんでも、まだ6歳ぐらいの時に転生することになって、もともと引っ込み思案だったから、さっさと隠居したかったんだって。
それで、おばあちゃんの姿にしてもらったらしいわ。
ま、結局、そのままあそこに居続けてるわけだから、ある意味、望みは叶ったわけね」
「なるほど」
そんな考え方をする人もいるのか。
しかし、6歳でずいぶん思い切った決断をしたものだ。
言われてみると、ボロが出てからの彼女は、たしかに見た目の年齢のわりに、精神的に未熟な感じがしたな。
「人にも、いろいろあるんだな」
「そーねー」
「ん?
てことは、ミツキはいま……」
「影人、女の年齢を詮索すると、長生きできないわよ?」
「あ、はい。
すみません」
まだ十分若いだろうと思ったが、そういうことではないようだ。
その後も歩き続け、少しずつ木の数が増えてきた。
視界の先には深い森が見える。
「あの森から、巨人の国の領地ね」
ミツキが地図を確認しながら話す。
どうやって領地の境目を判断しているのかと思ったが、なるほど。
森で分けているのなら分かりやすい。
「そういえば」
「んー?」
「今回は、なんでこの組み合わせにしたんだ?」
ミツキがフラウに言ったことも理由の1つではあるんだろうが、それでも、いつもとは違う組み合わせを提案したのはなぜなんだろう。
「別にー、何となくよ。
近接と遠距離の組み合わせで、何となく影人とフラウ。
私とプルって組み合わせにすることが多かったけど、たまにはこっちにしてもいいかなって思ってね。
フラウのトレーニング云々の理由もあったしね」
「……そうか」
ミツキには流されてしまったが、何となく、もっとちゃんとした理由があるような気がした。
だが、本人が語ろうとしない以上、無理に詮索しなくてもいいだろう。
「さ、こっから先が巨人の国<ギガステス>ね」
そして、結局、魔王領では何の問題も起きず、俺たちは無事に巨人の国へと足を踏み入れていったのだった。
『嬢ちゃん。
ご命令通り、嬢ちゃんの領地ではあの子らに手出ししないよう、魔族や魔獣に言って聞かせたぜ~』
『ありがと~。
破理~』
『んじゃ、約束通り、こっから先はおじさんのやり方でやらせてもらうからな~』
『わかってるよぉ。
私は手出ししないから、せいぜいやられないように頑張ってね!』
『ははっ!
そいつぁ楽しみだ!』