第百二十八話 珍しく別行動
「魔王の侵入に関しては口外禁止、か」
「うむ」
頭領は俺たちにそんなことを言ってきた。
本来、永世中立国として在るドワーフの国における狼藉は、強制排除プラス半永久的入国禁止、及び、ドワーフ製の武具の装備不可という、非常に厳しい罰が科されるのだが、魔王には、そのすべてが通用しない。
そんなことが露見すれば、ドワーフの国の在り方に関わってきてしまうため、頭領はやむなく泣き寝入りすることを選んだのだ。
魔王は素手で黒影刀を受けたし、その気になればいつでも侵入できる。
おまけに、頭領の【岩窟王】を奪っているのなら、自ら武器を精製することも可能だ。
彼女がこの国を滅ぼさずにいるのは、ほんの気まぐれに過ぎないのだろう。
頭領はそれを理解しているため、このような措置を取ることにしたようだ。
「わかった。
まあ、仕方ないな」
「オッケーよ」
「ほーい」
「わかりました」
ミツキたちも各々返事を返す。
「それで?
おまえらはこれから<ギガステス>に向かうのか?」
<ギガステス>とは、巨人の国だ。
魔王とは停戦状態にあり、そして、命の実を黒影刀に組み込むのに必要な鎚があるらしい。
「そう、だな。
そうするか」
「へい影人」
……プル、人をsiriみたいに言うなよ。
「なんだ?」
「その前に、<マリアルクス>にある大図書館に行きたい。
命の実の加工に必要な術式について調べる」
「大図書館?
そこに何らかの情報があるのか?」
「わからん!」
「おい」
プルが堂々と胸を張っている。
「なんせ、私も初めて行く。
あそこには、神樹の守護者とその弟子にしか入れない扉がある。
そこは、訪問者に必要な情報をくれるらしい」
「なるほど。
エルフの大森林の深奥にある、命の樹の部屋みたいなものか」
「そや、それやー」
情報の宝庫。
ネットみたいなものか?
「わかった。
じゃあ……」
「へい影人!」
ミツキ、おまえもか。
「ここは手っ取り早く、二手に分かれましょ。
……そうね。
プルとフラウが大図書館。
私と影人が巨人の国で」
「なるほど。
それもありだな」
「へ、へい、か……ご主人様」
……フラウ、無理はしなくていいんだぞ。
「私は、ご主人様と一緒が、いいです」
フラウがうつむきながら、控えめに言ってきた。
それに、ミツキがニヤニヤしながら絡む。
「おんや~!
フラウちゃんたら、影人と片時も離れたくないなんて、健気ね~」
「ち、ちがっ!」
ミツキにからかわれて、フラウは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
まあ、たしかにフラウは俺の側にいた方が守りやすいが。
「でもね、フラウ。
これにはちゃんと理由があるの」
「え?」
ミツキはフラウを自分の方に向かせると、理由を説明した。
「フラウはいま、光の巫女の力を扱えるようになるためにトレーニングをしてるでしょ?」
「うん」
「それを効率的に行っていくために、賢者の力を使えるプルと一緒にいるのが一番いいのよ」
「……そう、だね」
フラウはしぶしぶながら納得したようだが、少し落ち込んでしまったようだ。
あとでフォローしておくか。
「あ、私、魔導王はマスターしたから、大賢者になる。
だから、フラウのトレーニングはもっとスピードアップするぜぃ」
「あら、そうなの?
てか、早すぎよ。
魔導王って、マスターするのに30年はかかるって言われてるのよ」
プルの【時の旅人】の効果に、ミツキも呆れ顔だ。
ホントに、俺も人のことは言えないが、プルが一番のチートなんじゃないかと思う。
そして、ドワーフの国で準備を整え、一夜を明かし、翌朝、俺たちは二手に分かれて出発することになった。
と言っても、俺とミツキはエルフの大森林まで、プルの転移魔法で送ってもらうので、そこまでの大移動とはならなそうだ。
巨人の国<ギガステス>は、エルフの大森林を南に行ったところにあるらしい。
大森林と<ギガステス>の間には魔王領があるが、辺境地だから、軽く変装するだけで良いとのことだ。
「よし、じゃあ、行こうか」
「あ、ちょっと待って」
エルフの大森林に着いて、フラウたちと分かれて出発という時に、ミツキは残念そうな顔をしているフラウに近付いていった。
ミツキが何やら、フラウに耳打ちしている。
「大丈夫。
フラウの影人に手を出したりなんてしないから」
「ち、ちがっ!
もう!」
「なんの話をしてたんだ?」
「ふふ、内緒~」
2人の会話は聞こえなかったが、フラウが真っ赤な顔をしているから、ろくな話ではないんだろう。
「……フラウ」
「あ、ひゃい!」
俺は完全に油断していたフラウの頭に手を置いた。
「仲間と離れるのは不安かもしれないが、念話でも話せるんだ。
そんなに心配するな」
「……そういうことじゃないです」
「ん?」
フォローしようとしたつもりなんだが、フラウは余計に不機嫌になってしまった。
「やれやれ、しょーがないわねー」
そのやり取りを見ていたミツキが、フラウの頭に置いた俺の手を取り、フラウの頬に置いた。
そして、俺に耳打ちしてくる。
……それを、俺に言えと?
フラウが頬に置かれた俺の手に自分の手を重ね、こちらを見上げてくる。
「……フラウ。
フラウは俺の大切な人だ。
必ずフラウの元に帰ってくるから、フラウもトレーニングを頑張りながら待っててくれ」
「……!」
おい、ミツキ!
フラウが全身真っ赤になったぞ!
大丈夫なのか!
ほっぺたも、ものすごく熱いんだが!
「フラウ、オッケー?」
ミツキに言われて、フラウがハッと我に返る。
「あ、はいっ!」
そして、弾けるような笑顔で良い返事を返してきた。
どうやら、ご機嫌は直ったようだ。
さすがはミツキ大明神。
そうして、プルとフラウは大図書館へ。
俺とミツキは、巨人の国<ギガステス>に向かうこととなった。