第百二十二話 宴会。そして、渡る力
「……ラウ。フラウ。
そろそろ起きな」
「ふにゅ?
あ、ご主人様ぁ」
毛布を掛けてもらって眠ってしまっていたフラウを起こすと、むにゃむにゃ言いながら起き上がってきた。
「ご主人様、ぼろぼろですね」
フラウに言われて、自分の姿を見てみると、煤で顔は真っ黒で、服も飛び散る火の粉で細かい穴が空いていて、たしかにボロボロだった。
結局、日が沈んで昇るまで打ち続けていたんだから当然か。
フラウの横で、毛布にくるまって一緒に寝ていたミツキとプルも目を覚ます。
「よく俺についてきたな」
「ドワル老」
一仕事終えたドワーフの頭領のドワルは、気付けの1杯と言って酒をあおっている。
酒はドワーフ特製のもので、アルコール度数は90%以上だとミツキが教えてくれた。
それ、もうアルコールだろ。
というか、1杯って、その樽のことか?
「見事だ!
おまえを認めよう!
ほら!おまえも飲め!」
「いや、未成年だから」
「えっ!」
「え?」
なんすか、ミツキさん。
「なんだ、つまらんのう」
「なら、私が飲む」
「へ?」
そう言うと、プルはドワルが持っていた樽を持ち上げて、ごくごくと飲み始めた。
「ぷはー」
「おおっ!
嬢ちゃんイケるクチだな!」
「酒は飲み物」
いや、そうだけど、そうじゃない。
1樽一気飲みしやがったぞ?
「ご主人様、あれ美味しいですか?」
「……フラウ。
あれは人をダメにする毒だ。
あいつらは変態だから飲めるだけだ。
真似しちゃダメだぞ」
「わかりましたぁ」
「おい!
影人!
聞こえとるぞ!」
「影人も変態!」
……うるさいぞ、酔っぱらい。
そうして、いつの間にか他のドワーフも混ざっての大宴会が始まった。
酒の匂いがすさまじかったが、大皿で出される大味の料理たちはどこか懐かしく、学園祭のような盛り上がりとなった。
「あ~!ご主人様ら~!
抱っこ~!」
誰だ!フラウに飲ませたのは!
「ほ~ら!
これがあっちの世界のダンスよ~!」
「い~ぞ~!
ねーちゃん!
もっとやれー!」
ミツキさん、楽しそうですね。
「《創造錬金》。
ほら。こうすれば、より強い火力にも耐えられる」
「おお~!
なるほど!
それ、魔導具にしてくれよ!」
「仕方あるまい」
うん、プルさんは酔ってもプルさんなんですね。
翌日。
俺は改めてドワルの元を訪ねた。
「いや、昨日は楽しかった!」
久しぶりに刀を打ったからか、ドワルは上機嫌だった。
「……だが、刀はたいした出来ではなかった」
俺からすれば、なかなかの名刀だったのだが、やはりドワーフの長たる者からしたら、満足のいくものではなかったようだ。
「では、【岩窟王】を渡します」
「頼む!」
ドワルは机に頭が着くぐらいの勢いで頭を下げた。
『サポートシステムさん』
『承知しました。
スキル【岩窟王】をドワルに貸与します』
そして、ドワルに【岩窟王】が宿った。
その後、ドワルは再び鎚を振るった。
いや、振るいまくった。
【岩窟王】を取り戻したドワルは全盛期以上の勢いで武器を作り上げていく。
弟子たちも、頭領の突然の復活に目を丸くしていた。
俺が【岩窟王】を渡したことは内緒にしておくよう頼んであるから、久しぶりに俺と刀を打って、かつての勘とスキルを取り戻したことにしてもらった。
少し無茶苦茶な気もしたが、繊細な仕事のわりに細かいことは気にしないドワーフの性質が、その説明の一助となった。
というか、俺の刀のことを忘れてないか?
「おー!
影人!
なんだ、まだいたのか!」
……やっぱり忘れてたな?
「あ、そうだったな!
すまんすまん!
すぐに黒影刀を打ち直そう!」
再び黒影刀のことを話すと、ドワルはさっそく取り掛かってくれるようだ。
「おい!
ワタルはどこにいる?
あいつにも手伝わせるぞ!」
ワタル?
ワタルって確か。
「あいつなら北の山に材料を取りに行って、昨日帰ってきたから、まだ寝てますぜ!」
近くにいたドワーフがドワルに答える。
「呼んでこい!
大仕事だ!」
「へい!」
ドワルに言われて、そのドワーフが駆け出ていく。
「ねえ。
ワタルって、カエデ姫の」
「ああ」
ミツキが俺に耳打ちしてくる。
そう。
たしか、カエデ姫が様子を見ておいてほしいと言っていた転生者だ。
いったいどんな人物なのか。