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第百二十話 岩窟王

「こちらです。

足元に気を付けて」


 俺たちはドワーフの国の国主であるレギンに連れられて、頭領のいる、国の一番奥に向かっていた。

 レギンから、頭領は刀をしばらく打っていないと言われたが、それでも会わせてほしいと懇願し、頭領のいる鉱山奥地に案内してもらうことになったのだ。





「オヤジ!

いるか!

お客さんだ!」


 レギンが声を張り上げる。

 俺たちの時とは口調が違うが、こちらが地なのだろう。


 どうやら、鉱山の採掘現場のすぐそばに鍛冶場を作っているようだ。

 そんなにすぐに刀を打つ必要があるのだろうか。


 頭領はまさに採掘している箇所のすぐ横にいた。

 鉱物を確かめながら、弟子が鍛冶をしている様子を見つめながら激を飛ばしている。

 辺りは炎の熱気に包まれていて、プルの掛けた結界がなければ、かなりの暑さだっただろう。

 レギンを含めたドワーフたちはたいして暑そうにはしていないが、種族耐性みたいなものがあるのだろうか。


「おい!

オヤジ!」


 レギンが近くまで行って声を張り上げると、頭領はようやくこちらに気が付いた。

 レギンの後ろにいる俺たちにも視線を寄越す。


「おお。

レギンか」


 無愛想な声と、こちらを品定めするかのような視線が、職人気質を感じさせる。

 正直、本場の鍛冶の現場と、ドワーフの、鍛冶の頂点に興奮を隠しきれないが、何とか落ち着いたフリをしていた。


「……そいつらは?」


 頭領がこちらを顎でしゃくって、レギンに尋ねる。

 一応は他国の王からの紹介なんだが、それを気にしない態度は、さすがと言うべきか。

 レギンは俺たちに頭領のドワルを紹介してから、頭領に俺たちのことを紹介した。


「彼らは<ワコク>の殿様の紹介だ。

彼、影人さんが持つ黒影刀を打ち直してほしいそうだ」


「……黒影刀だと?」


 頭領がじろりとこちらを見据える。


「俺はもう打ってねえと言ったんだろ?」


 頭領に睨まれて、レギンが怯む。


「い、言ったが、それでも会わせてほしいと、彼が」


「ふうむ。

おい、小僧」


「なんだ?」


 国賓レベルの相手に小僧呼ばわり。

 もはや職人というより、こういう人なのかもな。

 まあ、それなら俺も変な気を使わなくていいか。


「ちょっと刀を見せてみろ」


 頭領に言われ、俺は鞘ごと黒影刀を渡す。

 頭領は黒影刀を抜くと、品定めをするように、俺と黒影刀をじろじろと見ていく。


「なるほど。

おまえ、黒影刀を使えるのか」


「ん?」


「黒の力を使っただろ」


 黒の力?

 あの、スカーレットを倒した時の力か。


「ああ、たぶん」


「たぶん、か。

まあ、たしかにこのなまくら具合じゃあ、たいした実感はないか」


 なまくらか。

 キマイラや、魔王直属軍のスカーレットの首も落とした刀なんだが。

 というか、その威力でなまくらの状態なのか?


「……ふむ。

はっきり言おう。

俺はこの刀を打ち直せない」


「……なぜだ」


 俺が尋ねると、頭領は言いあぐねいているようだった。


「……俺には、岩窟王がないんだ」


「ない?」


 頭領はこくりと頷く。


「前はたしかに【岩窟王】のスキルを持っていたんだ。

岩窟王は地位であり称号でありスキル。

俺は先代から岩窟王を継いだ時に、確かに【岩窟王】のスキルも受け継いだ。

そのスキルで実にたくさんの名剣名刀を生み出した。

だが、ある日突然、そのスキルが消えたんだ」


「スキルが、消えた?」


 そんなことあるのか?


「原因は分からん。

だが、その日から良い剣は生み出せなくなった。

自身の腕でそれなりの剣は打てるが、やはり【岩窟王】があるのとないのとでは、その出来は一目瞭然。

半端な剣を打って、岩窟王の名に傷をつけたくねえ。

だから、俺は剣を打つことをやめたんだ。

今は、後進を育てて、新たに岩窟王を継いだヤツが再びスキルに目覚めることに賭けてるんだ。

だから、それまではそいつは打ち直してやれない。

すまねえな」


 頭領はそう言って、俺に頭を下げた。

 プライドの塊のような人間が頭を下げる。

 その重みは、十分に分かっているつもりだ。


 だが、どうにかしてやれないものか。

 黒影刀のこともあるが、正直、職人が自分の仕事を満足に出来ないという状況をなんとかしてやりたい。


『マスターがお忘れのようなので、恐れながら提言致します』


『ん?サポートシステムさん?』


 俺が考えあぐねいていると、万有スキル『百万長者』内のサポートシステムさんが話し掛けてきた。


『マスターの保有するスキルの中に、【岩窟王】は存在します。

そして、それは当代岩窟王であるドワル氏に委譲可能です』


『あっ』


 思い出した。

 岩窟王をどこかで聞いたことがあると思ったが、『百万長者』の中のスキルの1つだったのか。

 なるほど。

 このタイミングでこのスキル。

 これは完全にそういうフラグなわけか。

 頭領を信用して俺のスキルを明かし、【岩窟王】を与えることでストーリーが先に進むわけだ。

 パンダの仕業か?

 それとも偶然か?


 まあいい。

 ドワーフの頂点に立つ男がこんな小僧に頭を下げたんだ。

 俺も、出来る限りのことはしよう。


「頭領。

少し、場所を変えてお話しませんか?」


「ああん?」


 俺の提案に、頭領は頭を上げて首を傾けた。




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