第十二話 そうです、わたすが………
焼け焦げた地面からシュウウーッと煙が立ち上ぼり、その中から剣を肩に担いだライズが出てきた。
その剣はまだバチバチッと雷の余韻を残していた。
「王子!
お疲れ様でっす!」
リードたちがライズに駆け寄ってきた。
「ああ。
皆もご苦労だったな」
ライズはそう言いながら、纏っていた雷を払うように、剣を一度ぶんっと振るって鞘に納めた。
ライズの後ろには、全身から煙をあげて倒れているキマイラの姿があった。
「ライズ王子!
おかげで助かりました!」
テツもライズの元に駆け寄り、バッと頭を下げた。
「いや、こちらこそ、俺たちだけでは倒しきれなかっただろう。
それに、少女を保護してくれて助かった。
礼を言おう」
頭を下げるテツに、ライズも手を胸に当てて軽く一礼をした。
「さすがは『雷神ライズ・マリアルクス』ですね。
たまには役にお立ちになられるようで感心しましたわ」
そこに、後方支援をしていたカエデも追い付き、合流するなり、ライズにそう言い放った。
「お褒めに預かり光栄です!
防御だけ!
は素晴らしいカエデ姫様のサポートのおかげで、何とかお役に立てました!」
そして、ライズもそれに受けて立つのだった。
「あらあら。
こちらこそ、栄誉あるマリアルクスの一助になれて、心の底から嬉しいですわ!」
「いえいえ。
私の方こそ、歴史あるワコクのために働けて、喜びを隠しきれません!」
「ふふふふふ」
「ははははは」
2人の不気味な笑い声が響き、再びおらおろしている黒装束の2人に、
「あー、いつものことなんで、もうほっといていいっすよ」
そうフォローを入れるリードだった。
「それにしても、まさか神樹の森にキマイラですか」
カエデは改めて、倒れているキマイラをじっと見つめた。
「本来でしたら、神樹の加護があるこの森に、レベル30以上の魔物が現れることなどあり得ないのですが」
テツがカエデの横で、考えるような仕草をしながら話す。
「そうですね。
過去には、大結界に触れた飛竜が落ちてきたこともありますけど、だいぶ弱っていましたし、レベルもせいぜい40ほど。
レベル95のキマイラが万全の状態で現れるなど………」
カエデも考え耽るように呟いていた。
「テツ殿!
少し話があるのだが!」
「承知した!
すぐに参ります!」
ガルダに呼ばれ、テツはカエデに一礼してからライズたちの元へと走っていった。
「姫様!
無事に討伐されたのですね!」
「トリア!」
キマイラの気配が消えて静かになったことを確認したトリアが少女を連れて、カエデとライズたちの間あたりの木々から姿を現した。
「ひめさま!」
フラウがたたたっと、カエデの元に駆け寄った。
「ひめさま!
大丈夫でしたか?
おケガは?」
心配そうに見てくるフラウにカエデは目を細め、
「大丈夫。
みんな無事ですよ」
そう言ってフラウの頭を撫でた。
「ならよかったです!
…………えっ?」
嬉しそうに頭を撫でられるフラウだったが、すぐにカエデの後ろの異変に気付いた。
「姫様!」
「姫っ!」
「おいあれ!」
「マズイ!」
そこには、確かに討伐したはずのキマイラがフラフラしながら、カエデたちのすぐ近くで、こちらを睨み付けていた。
「あ、あ、」
フラウは目を大きく見開き、固まってしまっていた。
ライズたちは弾かれたように動き出し、キマイラに向かって走り出た。
ザジはその場で無詠唱魔法を放ったが、キマイラは魔法障壁でザジの魔法を弾き、大きく口を開いて、カエデたちに牙を向けた。
「くそっ!
間に合わない!」
ライズたちは全力で向かったが、キマイラの牙の方が早かった。
「くっ!
結界も間に合いません!」
カエデは防御が間に合わないことを悟ると、バッとフラウを抱え込んだ。
「ガアアアァァァァッ!」
そうして、キマイラの牙がカエデに届く直前、
「やれやれ。
仕方ないな」
「え?」
カエデはそんな声を聞いた。
ザシュッ!
次の瞬間、キマイラが動きを止めたかと思ったら、ズッ……とキマイラの2つの頭が首から落ち、少ししてその巨大な体もズズゥーンと音を立てて崩れ落ちた。
そしてそこには、脇差しを持った男が立っていた。
「な、なんだ、あれは?」
「キマイラの両頭を、脇差しで、しかも一刀で」
「おいおい、嘘だろー」
突然現れた男性に、ライズたちも呆然と立ち尽くすだけだった。
「姫さん。
脇差し貸してもらったよ」
男はそう言って脇差しに付いたキマイラの血を振り払い、再び姫の腰に下げられた鞘に脇差しを戻した。
刀が鞘に納まるチンッという音で、皆がハッと思い出したように動き出す。
「姫っ!」
「姫様っ!」
テツと黒装束の2人が姫と男の間に立ちふさがり、トリアがカエデを抱き締めた。
その後、ライズたちもテツたちの横に展開し、武器を構えた。
「カエデ姫の命の恩人にこんな仕打ちをしたくはないが、まずは名乗ってもらおうか。
そして、その強さの理由も」
ライズが皆を代表して、男にそう話しかけた。
「やれやれ」
その男は頭をかきながら、ライズの質問に答える。
「俺は草葉影人。
パンダの導き(くそパンダのせい)によってやって来た、異世界からの転生者だ」