第百十八話 ドワーフじゃん!あのドワーフじゃん!
翌日、俺たちは無事にドワーフの国の入口までたどり着いた。
途中、魔獣や盗賊が襲ってきたが、何の問題もなく打ち倒し、特にケガもなく来ることができた。
「わ~!おっきいですね~!」
国の入口にある巨大な門をフラウが見上げる。
ドワーフの国は巨大な山の岩壁を背にして作られていた。
そこから半円状に巨大な石壁を築き、その中に国を作った。
門は、その半円状の石壁のちょうど中間地点にあった。
「もともとは後ろの鉱山から良質の鉱物がたくさんとれるからってことで、初代岩窟王がここに拠点を置いたのが始まりらしいわ」
「岩窟王?」
「ドワーフの頭領のことをそう呼ぶのよ。
なんでも、鍛冶に関して特別な力を持つらしいわ」
「王級のジョブってことか」
「たぶんねー」
それは、法王の例を見ても、かなりの能力を持っていそうだな。
ん?というか、岩窟王って、どこかで聞いたことがあるような気がするんだが。
……思い出せないな。
まあ、いいか。
「影人。
置いてく」
「ああ、いま行く」
俺はプルにせっつかれて、ドワーフの国の門へと近付いていった。
「冒険者かぁ?」
おおっ!
ドワーフ!
小柄でありながら屈強な肉体。
もじゃもじゃのヒゲ。
バイキングみたいな兜に大きな戦斧。
門番のドワーフは、物語に出てくる、イメージ通りのドワーフだった。
「なんだ?
人の顔をじろじろ見て。
ドワーフを見るのは初めてか?
あんちゃん」
この職人気質な感じ。
いいな。
「ちょっと影人!
聞かれてるんだから答えなさいよ!」
「あ、すまん」
いかんいかん。
嬉しくなってつい眺めてしまった。
「いや、すまない。
俺は転生者なもので、ドワーフは初めてだったんだ」
「ほお!
転生者か!」
俺が転生者だと分かると、ドワーフは嬉しそうな顔をした。
「転生者は異種族に対して変な偏見がないヤツが多いからな。
中立国を名乗る俺たちからすれば好ましい存在だ」
……まあ、ある意味変な偏見を抱く転生者はいると思うけどな。
ダークエルフとかなんかに。
「本来なら、すぐに中に入れてやりたいんだが、一応決まりでな。
身分証と、何か紹介状のようなものはあるか?
あれば、手続きを省略できるぜ」
「ああ、これでいいか?」
ドワーフに言われて、俺たちは冒険者証と、殿様からもらった紹介状を見せた。
「おっ!
<ワコク>の殿様のお墨付きかよ!
あのおっさんはホントに気に入った相手にしか書かないからな。
よっしゃ!
あんたらのことを信用しよう。
すぐに通っていいぜ!」
「それは助かる」
殿様はこんなところにまで影響を及ぼしているのか。
なんにせよ、手間が省けて助かったな。
「出来たら頭領に会いたいんだが、どうしたらいい?」
「ん?
ああ、その紹介状があれば、会うことぐらいは出来るだろう」
ん?
含みのある言い方だな。
「頭領は国の一番奥にいるが、とりあえずは中央の役所に行って手続きをしな。
そこで頭領の息子が、頭領との橋渡しを一手に引き受けてる。
その紹介状を見せれば、明日にでも頭領と会えると思うぜ!」
「そうか、分かった。
ありがとう」
俺たちは門番のドワーフに礼を言って、国の中へと足を踏み入れた。
「お~!
なかなか壮観だな!」
門の向こう側は、まさしく鍛冶場の集まりだった。
軒を連ねる家々からは余すところなく煙が立ち、鉄を焼いて冷やす、独特の匂いが立ちこめている。
「あっついわねー!」
ミツキさんは熱気がこもった国内にお怒りだ。
フラウもツラそうにしている。
おまけにフラウは匂いにも敏感だから、余計にツラいのだろう。
プルはというと、
「……プル。
その快適そうな結界、俺たちにもかけてくれよ」
「えー」
プルは遮熱消臭結界を張っていて、通常運転だった。
「おら、お腹が減って力が出ない」
どんなキャラだよ。
「役所で、この国で一番のメシ屋を聞こう。
あ、でも、俺たちは暑さと匂いで、そんなに早く歩けないなー」
プルはさっと、俺たち全員に自分と同じ結界を張った。
「何してるの、早く行く」
「やれやれ」
1人で突っ走るプルを、俺たちは呆れ顔で追いかけた。




