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第百一話 エルフの大森林

「……空気が濃いわね」


「うむうむ」


 転移魔方陣を経由して、エルフの大森林に入ったミツキとプルは、とてつもなく背の高い木々の間を歩いていた。

 一本一本の木々の間隔は狭くはないので、隆起する根もほとんどない地面は比較的歩きやすかった。


「それにしても、こんなに堂々と歩いてていいの?

もう少し隠れて動いた方が……」


「エルフがこの森にいるのは当然。

こそこそしてた方が怪しい。

私たちは、外から久しぶりに戻ってきたエルフ」


「っていう設定でいけばいいのね?

でも、顔バレとかしないのかしら。

【偽装】なんだし、私のことを知ってるエルフなんていないわよ」


 ミツキが足元の落ち葉を蹴るように歩く。

 2人の話し声以外は、ざっざっざっという足音だけが森に響く。


「エルフの久しぶりは100年単位での話。

見知らない顔なんて当たり前。

誰も気にしないし、親しい間柄じゃないと顔も覚えてない」


「それは、ずいぶん淡白な付き合いなのね」


 前の世界でも、こちらに来てからも、人と積極的に関わってきたミツキからすれば、それは考えられないような生き方だった。


「エルフの長すぎる生の中では、命の生き死にも、そんなにたいした問題じゃない。

それなりに気が合えば話はするけど、死んでしまえば、ああ死んだのか、ぐらいの感想しかない。

それがだいたいのエルフの生死観」


「……それは、プルも?」


 ミツキは心なしか悲しそうな表情をしていた。

 プルはそれをチラリと見てから、少し考えて口を開く。


「プルも、まあ概ねそんな感じ」


「……そっか」


「でも、旅の仲間がいなくなるのは、寂しい、と思ってる、と思う」


「そっか!!」


「ん」


 その後も、2人はきゃっきゃっと女子トークに花を咲かせながら、賑やかに大森林の中心地へと向かっていった。








 その大森林の中心地。

 森全体の感知を司るエルフが女王に告げる。


「女王。

新たなエルフが2名。

大森林に還りました」


「あらそう。

なら、こちらから迎えを出してやりなさい」


「はっ!」


 玉座に座ってワインの入ったグラスを傾ける女王は妖艶な笑みを浮かべていた。









「……来る」


「えっ?」


 何かを察知して立ち止まったプルにつられて、ミツキも足を止める。

 プルの長い耳がぴくぴくと動いている。

 自分たちに近付く音を探っているようだ。


「……8、9、10人。

全部エルフ。

全員武器を携帯してる」


「えっ!」


 ミツキが慌てて武器を取り出そうとするが、プルはそれを制した。


「私たちは、久しぶりに戻ってきたエルフ」


「そ、そっか、おっけ」


 プルに言われて、ミツキは大人しく向かってくるエルフたちを待った。



「おまえたち!

大森林に戻ってきた目的はなんだ!」


 リーダー格と思われる大男のエルフが到着するなり声を張り上げた。

 全員が武器を構え、数人は弓に矢をつがえて引き絞っている。


「たまの里帰りに、ずいぶん手荒な歓迎。

前はこんなんじゃなかった」


 プルは何でもないことのように、それだけを告げた。


「な、なにをっ!

いや、おまえ、プルか?

プルプラじゃないか!?」


「やほ~。

シバ、おひさ~」


 プルはリーダーのエルフにひらひらと手を振っている。

 どうやら2人は知り合いのようだ。


「まさかおまえが戻ってくるとはな~!

相変わらずちっこいなぁ~!」


 シバは武器を納めて、プルの頭をがしがし撫でた。


「おまえは相変わらずデカいけどな」


 無表情で言い返すプルの反応に、シバは嬉しそうにしていた。

 武器を構えていた他のエルフも、驚いた表情で武器を下ろしていた。


「プ、プルプラ様って、たしか、神樹の守護者様のお弟子様の?」


「そ、そうだ。

あの黄金色の髪に薄紫の瞳。

間違いない」


 他のエルフがざわついているので、ミツキは改めてそのエルフたちを観察してみると、全体的にスリムで高身長の者が多い。

 シバの屈強な肉体が異質なぐらいだ。

 さらに、尖った耳と同じように共通しているのは、全員が銀髪碧眼ということだ。

 まっすぐ下ろしていたり、ポニーテールにしていたりと、髪型はさまざまだが、その色は皆一様に銀色で、瞳は空のように綺麗に透き通っていた。

 そういえば、エルフに【偽装】した自分も銀髪碧眼だったことをミツキは思い出す。

 シバと楽しそうに話をするプルを改めて見ると、その小さな体に揺れる黄金色の髪と薄紫色の瞳が、とても異質なものだと気が付く。


「……プル、おまえ。

なぜ今になって戻ってきた」


 楽しそうに話していたシバが、突然曇った表情を見せた。


「なんかバカなことをしてる長の様子を見るため」


「……やはりか」


 淡々と答えるプルとは対照的に、シバはさらに顔色を暗くした。


「……何があった?」


 こてんと首をかしげるプルに、シバは重い口を開いた。


「…………長が、代替わりしたんだ」


「…………死んだ?」


 シバの言葉に、プルが珍しく目を見開いたあと、ポツリと呟くように聞いた。


「いや、生前退位だ。

新しい長に、その座を譲られたのだ」


「あれが、譲る?」


 プルが眉間に深くシワを寄せている。

 見たことのないプルの感情の発露に、ミツキは驚きを隠せずにいた。


「と、とにかく!

大森林に戻ってきたエルフは女王の御前にお連れする決まりだ!

一緒に来てもらおう!」


 シバはバツが悪そうに踵を返して、プルたちを先導し始めた。


「…………」


 プルは憮然とした様子で、そのあとについて歩いた。

 ミツキも慌てて2人を追う。

 他のエルフも2人を囲うように追随してきた。




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