第一話 異世界の神様はパンダらしい
『俺は知ってる。
俺はこれを知ってるぞ。
死んだ記憶がないから、転移なのか、転生なのか、いまいちよく分からんが、
あの世界に特に思い入れも、まあ……ないし、転生ってことにしておこう。
それで、この真っ白な何もない空間はあれだ。
神様的なやつから、この世界を救ってください的なことを言われて、何かチート的なやつをもらえるシーン的なやつじゃないか?
というか、本当に何にもないんだな。
自分の体も見えん』
「こんにちは。
草葉影人さん」
「誰だあんた?」
『…………なんだあれは?』
「私はいわゆる、異世界の神様です」
「いや、パンダだろう」
『いや、パンダだろう』
「いえ、あなたを召喚した神です」
「いや、どう見てもパンダだろう」
『どっからどう見てもパンダだな。
りんりんかんかんらんらんだ』
「いえ、神です」
「あー、はいはい。
んで、そのパン…神様が俺に何の用?」
「いま、パンダって言いかけたでしょう」
『………しつけえなコイツ』
「………まあいいでしょう。
私はそちらの世界で流行っている異世界転生モノ同様、こちらの世界が大変なので、異世界から勇者を召喚して何とかしてもらおうと思っている異世界の神です」
『なんで異世界のパン神がこっちの流行り廃りに詳しいんだよ』
「あれ?ねえちょっと。
なんかもうパン神みたいな名前で呼んでません?」
「……あー、こっちの考えてることが読める的なダルいやつか」
『うざっ』
「あ、はい。そうですね。
なので、さっきからステレオ放送的な感じで、ダブルで傷つけられてます」
「あ、なんか、悪い」
「いえ、多少センチメンタルですが、話を先に進めましょう。
早く本編にいかないと、飽きられてしまいますからね」
「誰に!?」
「えー、簡単に説明しますと、私が管理する世界は、
時代設定は定番の中世ヨーロッパ風。
公爵と侯爵が読みが同じで、アニメじゃ、どっちがどっちが分からんわ!って突っ込みたくなるやつです。
んで、毎度お馴染みの亜人とか魔族とかがいて、魔王的なのがガハハハって現れて、人間いらーん魔族世界支配するーゆーてイキって、人間の国と戦争してて、今はこのままではヤバそうだから、勇者なんとかしてよーってところです」
「…………分かりやすい説明ありがとう」
「んで、お決まりですが、魔力があり、魔法が発達した世界です。
世界としての経過年数は、そちらの世界とそんなに変わらないのですが、魔法がある分、科学文明の発達は遅く、魔法以外で言うと、軍隊も冒険者も剣や槍、弓、斧なんかで戦い、大きいものでも、カタパルトやバリスタが、攻城兵器や大型魔獣の討伐として使われているぐらいですね」
「………今までに、勇者召喚はしたことあるのか?」
「あ、はい。何人か来ていただいたことがありますよ」
「そいつらは、科学文明の利器を広めたりしなかったのか?
火薬とか」
「そうですね。
この世界への適応の関係で、基本的にお若い方をお呼びしてますので、知ってはいても専門的な知識がない方が多く、チャレンジはしても、結局は魔法の方が手っ取り早いということで、断念していました」
「なるほどね。
俺を呼んだってことは、その辺をどうにかしてほしいってことか?」
「あ、そういう専門知識をお持ちなんですか?」
「………そういう訳ではないのか」
「そうですねえ。まああってもいいとは思いますが、魔法は結局、大多数の者が使えますし、特別に才覚がある者なら、子どもでも強力な魔法を使えますから、銃や火薬はあまり活躍しないかなあ、と」
「………そうか」
『その特別な才覚とやらがない者でも人を殺めることができるのが、そういう兵器なんだが。
………まあ、無為に人殺しの道具を広める必要もないか』
「皆さん概ね、同じような結論で断念なさったようですよ」
「まあ、そうだろうな。
あの世界で若い者というと、学生がほとんどだろうし」
「あー、皆さん、そう仰ってましたねー」
「そうか。
それで?
あんたは俺にどうしてほしいんだ?
人間の国とやらに味方して、魔族と戦って、魔王を倒せばいいのか?」
「ん?
ああ。どちらでもいいですよ。
人間たちにとっての勇者になってもいいですし、魔族側に付いて、人間を根絶やしにしようとしてもいいですし、あるいは他の種族をまとめて第3勢力として名乗りをあげてもいいですし、別に世捨て人として、隠遁生活を送っていただいても構いません。
それだけのお力は差し上げますので」
「は?」
「私としては、進化の可能性の観点からも、より多くの種族が切磋琢磨してほしいと思ってはいますが、1種の種族によって世界が統一されるのも自然の摂理かな、と。
個人的には、皆でお互いを高めあっていただけるのがいいかなとは思いますが、神という立場的には、世界自体が失くなってしまうような事態にならなければ、あとは世界の在り方として受け入れるつもりです」
「観測者としての意見か。
当事者的には理解しかねるが、理解しようとすることが間違いか。
まあ神とはそういう存在なんだろう」
「理解していただけたようで何よりです」
「俺はな。
でも、今までには、わーわー喚いたやつもいただろうな」
「そうですね。
神である私こそが真の敵だ!とか言って、私の元まで手を伸ばそうと頑張っている方もいましたね」
「まあ、そんな言い方をすれば、元凶はコイツだ!って思うのも出てくるだろうな」
「でも、そのおかげで、この世界はより成長してますからね!」
「ははっ!
結局は、それさえ世界のための餌か。
飄々として。
やっぱりあんたが元凶だろ」
「そうかもしれません!」
「はっ!
怖いな、あんた」
「あんたの心積もりは分かった。
だが、それならなぜ、異世界から勇者という存在を召喚する?
魔王によって世界が支配されようとも、それも自然の摂理なんじゃないか?」
「いやー、そうなんですけどねー。
実は、あの魔王。
先ほどあなたが仰っていた、『神こそが元凶だ!』さんなんですよー。
なので、できれば、魔王を討伐してほしいなーと」
「………あー、バツが悪くなったのか」
「そうなんですよ!
私が与えた強力な力で魔王として降臨して、この世界の頂点に上りつめるつもりらしいです!
一応、この世界の神ですし、さすがにそれは他の種族に申し訳ないなあ、と。
しかも、世界中の生命と魔力を使って、神を撃ち落とす!なんて言い出す始末でして」
「自業自得だろ。
あんたが自分で手を下すわけにはいかないのか?」
「観測者である神が、一個人に直接手を出すのはちょっと……」
「観測者である神が、異世界の一個人を勝手に呼び込むのはいいのか?」
「さ!
それでは、お待ちかねのチートターイム!」
「あ、そういう感じね」
「この世界には、魔法の他にスキルシステムがあります。
詳しい説明を聞きますか?」
「………ゲームかよ」
「RPG大好きです!」
「………あー、軽く説明してくれるか?」
「はい!では簡単に。
この世界の種族は生まれながらに、何らかのスキルを所持しています。
料理が上手になるスキルとか、槍の名手とか、魔法の強化とか、コインを縦に置くのが上手くなるスキルとか、
スキルの種類はピンキリで、その振り分けもランダムですが、種族固有スキルなどの一部限定スキルや、ごく限られた者しか得られないユニークスキルなんかもあります。
また、鍛練を続けることで、その分野のスキルを後天的に獲得できることもあります。
とはいえ、平均的なスキル所持数は2つか3つですかね。
多くても5つ程度でしょう」
「スキルがあると、どれぐらいの補正がかかるんだ?」
「そうですねえ。
そちらの世界で言うと、
学生時代に部活でそこそこやってた!って方が、オリンピック選手レベルになる感じです」
「…………それは、だいぶだな」
「そうですね。
なので、基本的にはスキルに合った職業に就く方がほとんどです」
「それは、皮肉なもんだな」
「まあ、どうしてもスキルにない職業に就きたいなら、死に物狂いで頑張って、そのスキルを獲得すればいいんですよ。
好きこそ物の上手なれってやつです」
「なるほど。
努力が実るのなら、頑張る価値はあるな」
「そうですね。
取り分け、戦闘面に関しては後天的にスキルを得ることが多いので、軍などでは、スキルによって採用が決定するわけではないみたいですよ。
まあ、元から戦闘に向くスキルを持ってる人は、集団行動が得意ではないことが多いですからね」
「ああ。
まずは軍属意識を根付かせてから、戦闘向けスキルを身に付けさせるわけか」
「そんな感じです」
「結局、どこの世界の知的生物も一緒なんだな」
「失望しましたか?」
「いや、どちらかと言えば安堵だな。
元の世界の人間ばっかりがクソ野郎じゃないって分かったからな」
「ふふっ。
なら良かったです」
「それで?
そのクソ野郎に、どんな力を与えてくれるんだ?」
「んー、そうですねえ。
特に制限もないのですが、どんなスキルが欲しいですか?」
「あー、あんたを殺せるスキルかな」
「それは却下ですー!
そういう意地悪なのはやめてください!」
「それは残念だ。
参考までに、今までの奴らはどんなスキルにしたんだ?」
「ざ、残念なんですね。
んーと、基本的にはズルいのが多いですね。
『最強の矛をくれ!』とか、『最強の盾をくれ!』とか~」
「テンプレはいい」
「ふふふっ。
まあ、中には、『スキルを無効化するスキル』とか、『無限の魔力』とか、『不老不死』とか、なかなか面白いのもありましたね」
「………そいつらは、今どうしてるんだ?」
「んー、なんだかんだで、やられちゃいましたねー。
『不老不死』の方なんて、どこまで自我があるのかとか、どこがメインの器官になるのかとかで、いろいろ実験された挙げ句、跡形もなく消滅させられて、そのあとはどうなったかは分からないですねえ」
「お、おお」
「それでー、
どんなスキルにするか決まりましたかー?」
「ふむ。
そうだ。言語はどうなってる?」
「種族ごとに固有言語がありますが、世界共通語があります。
そちらは転生特典で、標準装備されてるから大丈夫ですよ」
「そうか。
身体能力は?
元の世界の人間の身体能力は、戦闘が日常的に行われるこの世界の種族のものとは比較にならないんじゃないか?」
「それは大丈夫です。
そちらの世界の方は、総じて強いので」
「そうなのか?」
「はい。
そちらの世界は、世界自体が魔力の存在を阻害するダークマターで構成されているという、超ドM仕様な世界なのです。
つまり、そちらの世界はこちらの世界の住人からすれば、常に何トンもの重りをつけて生活しているようなものです」
「そんなのから突然解放されたら、この世界に降り立って、俺たちは大丈夫なのか?」
「はい。
その辺は神補正で何とかしてます。
召喚されて歩きだそうとしたら、ものすごい勢いで壁にぶつかってエンドとか、そんなクソゲーなことはしませんよ。
ちゃんと身体機動も思考加速もつけてるから安心してください!
もう失敗しません!」
「失敗、したのか」
「ははははー」
「まあいい。
それなら、俺はスキルはいらない」
「え!?
いや、そういうわけにはいかないですよ!」
「常人を遥かに上回る身体能力。
それだけで、十分なチートスキルだろう」
「いやいや!
他の方々は、それに加えて超強力なスキルをプラスしてますから!
特に魔王のスキルはヤバいですし、それだけじゃ敵いっこないですよぅ!」
「どうせ、パワーアップテンプレで強くしすぎたんだろ」
「うっ!」
「バトル系の悲しい性だな。
まあ、俺は俺のやり方でやるよ」
「うー。
ですが、スキルを何も与えないというのは、さすがに聞こえが悪くて」
「そうなのか。
神もいろいろ大変なんだな」
「そーなんですよー!
だから、ここは私を助けると思って!
ぜひ!」
「………パンダに土下座させてるようで、さすがに気が引けるな」
「もうパンダでもいいです!
いや、私は卑しいパンダです!
どうかこのパンダめをお助けください!
ぜひ!
このとーり!」
「あー、もう分かったよ」
「で、では!」
「じゃー、何でもいいから、あんたが勝手に何かスキル付けといてくれ。
それでいいだろ?」
「ありがとうございます!」
「………言っておくが、良識の範囲内だからな」
「分かっております!
お任せください!」
「ひ、ひとつ!
ひとつだけだからな!」
「はい!もちろんです!
では、『スキル付与』!」
「おわっ!
もうか!」
「………ふっ、人間ちょろいな」
「おい!
聞こえてるぞ!」
「では!
いってらっしゃーい!」
「おい!」
「ばっははーい!!」
こうして俺は、異世界へと旅立っていった。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
作品の読みやすさのため、前書きや後書きはあまり書かないようにしてます。
感想などは常時受け付けてます!
ぜひにぜひに。