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あやかしBarへようこそ  作者: 渡辺 翔香(旧:渡井彩加)
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ep.6 酒天童子①

 ──いくら、あやかしによる、あやかしの為のあやかしのバーだからと言って、こんな普通の商社っぽいビルの間にあるのに、俺以外の人間が来ないなんてこと、あるか……?


 その疑問には、九条が何てことないことのように答えてくれた。


「霊感が強い人以外にはバーは見えないんだよ。隣のビルの人とかは、ここをただの空き地だと思っているだろうね」

「じゃあ、俺って……」

「物凄い霊感の持ち主って事だね」


 九条はそう言ったけれど、優太には自分が霊感が強かった覚えなどなかった。

 幽霊なんて一度も見たことがないし、もしあったとしたらここで九尾の狐と狼男を見たからって気絶したりなんてしない。

 それでも、このバーに来ることができた。


 ──まさか、俺、引きこもりの間に霊感が強くなった……とか!?


 だとしたら、引きこもりの思わぬ副作用だ。

 全国の引きこもってる人に気を付けた方がいいと呼び掛ける必要があるのかも知れない。


「それにしても、ユタくん仕事早いねぇ」


 九条がグラスを拭きながら優太の仕事っぷりを見て言った。


「カウンターもピカピカだし、細かいことにも気がつくし。本当に接客業、やったことないの?」

「あ……はい」


 優太は自分が磨きあげたカウンターを見た。確かにピカピカだ。


 それを見て、優太は「あ」と思った。


「……デスク拭きなら、したことがありますけど」

「デスク拭き?」


 九条が優太にそう尋ねたところで、チリンチリンと音を立てて扉が開いた。

 時計を見ると、まだ二十時半。開店までまだ三十分もある。


「すみません、まだ準備中で……」


 九条がすぐにそう、声を掛ける。

 しかし、それは途中で阻まれてしまった。


「ユタくん、伏せて!」


 九条の言葉に俺は咄嗟にしゃがんだ。その刹那、何かが頭上を通り抜けていく。

 壁にぶつかり、ガシャンと音を立てて壊れたそれは、瓢箪だった。


 ──何故、瓢箪が……。


 優太のその疑問に答えるように、恐らくその瓢箪を投げたであろう人物が

「うるっせぇなー! 別にいいだろうがよ!」

と喚きながら店の中に入ってきた。


 ──って、えぇ!?


 優太はその人物を見て、瞠目した。

 身長は百四十センチくらい。髪は赤いけれど、その前髪の間から覗く顔はどこからどう見ても子供だった。


 九条も同じことを思ったのか、九条は

「すみません、ウチはバーだから……未成年は、ちょっと」と言った。


 それに、子供がぶちギレた。


「だぁれが未成年だごら! 俺は酒呑童子(しゅてんどうじ)様だ!! お前らみたいな只人が気軽に話しかけていいモンじゃねぇんだよ!」


 酒呑童子と名乗ったその子供はそう言うと、カウンターの一番端の席に座った……というより、よじ登った。


 優太は本当に人間なのでさておき、九条のことも引っくるめて「只人」と言った辺り、酒呑童子にはこのバーが普通のバーに見えているようだ。


 優太はコッソリ九条の側に行くと、小さな声で

「酒呑童子って、妖怪なんですか」と聞いた。


「僕と争えるくらいの力を持ってる、貴重なあやかしだよ」

「え、でも……」


 それなら、何故九条の正体に気づかないのか。


 優太のそんな疑問は、酒呑童子の

「おい! 何喋ってんだ! 酒出せ! 酒!!」

という怒鳴り声で何処かに追いやられてしまった。


「開店前なんだけど……仕方ないなぁ。今回は特別だからね」


 九条はそう言うと、日本酒を取り出して酒呑童子の前に置いた。

 酒呑童子はそれの蓋を開けたかと思うと、コップに注がずに豪快にラッパ飲みし始めた。


「ははは、豪快だねぇ」

「うるせぇ! くっちゃべってる暇があったらもっと持ってこい!!」


 酒呑童子、という名前なだけあって相当な酒のみらしい。


「あははっ、今日は開店するまでもなく酒が尽きちゃうかもねぇ」

「いいんですか、九条さん……」

「お金さえ払ってくれれば無問題(モウマンタイ)☆」


 そんなことを言っていると、九条と優太の間を何かが猛スピードで通り抜けていった。


「何喋ってんだよ! さっさと次持ってこんかぁ!!」

「……あと、暴れさえしなければね」


 九条と優太の間を通り抜けていったのは、またもや瓢箪だった。

 酒呑童子は機嫌が悪いと瓢箪を投げてくる性質があるらしい、と優太は心にメモをした。


「酒呑童子はね、鬼なんだよ」


 九条が酒呑童子に酒を提供しながら、小声で優太に言った。


「鬼……」

「そう、鬼。証拠に、頭に小さいけれど角があるだろう?」


 酒呑童子を見ると九条の言う通り、赤い髪の間から小さいけれど角が二本、覗いていた。


「だから、力はあるけど妖力とかはない。だから僕の正体にも気づかないんだよ」

「そうなんですか……」

「にしても、昔はもっと大きかったんだけどねぇ。なんでこんな子供の姿をしているのか……」

「おい! 酒!!」


 また、瓢箪が飛んできた。

 それでも優太や九条に瓢箪が当たらないところからすると、酒呑童子は二人に当てるつもりはないようだ。

 コントロールが信じられないくらい悪いだけのかもしれないけれど。


「あぁ、ごめんね。それにしても、君」


 九条はカウンターの下から酒を取り出しながら、酒呑童子に話しかけた。


「君言うな! 酒呑童子様だっ!」

「はいはい。で、シュテンドウジサマは、何でそんなにイラついてるの?」


 九条のその一言に、酒呑童子は一瞬だけピタリと動きを止めた、ような気がした。

 しかし、何事もなかったかのように九条が持っていた日本酒を奪い取ると「もっと酒!」と言った。





毎週水曜、日曜の13時に更新予約しました。よろしくお願いします。

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