ep.21 温かな空間
「いやぁ、人間があやかしに紛れているとは! 凄いなぁ」
「はは……」
「雪女さんは、この狐さんに片想いしてるのかい? 頑張れよ!」
「あ、ありがとう」
「鬼くんは、狐さんのことを大切に思ってるんだなぁ。うんうん。いい友情だ」
「だから、俺はユタのことをだな……」
そうして好きなだけ好きなことをしゃべくり倒し、日本酒を一本開け、そして上機嫌で「ありがとな!」と言って帰っていった。
「……変わった吸血鬼だったね」
九条の一言に、全員が「ですね」「そうね」「な……」と口々に同意した。
常識は変わっていくものなんだな、と優太は新たな教訓を胸に刻み込んだ。
***
「「あっはっはっはっは!」」
次の日、やって来たロウとマオに昨夜の出来事を話すと、大声で笑った。
「いやー、凄い吸血鬼ね」
「トマトジュース嫌いの、血苦手とか! どんな吸血鬼って話だよなぁ、ほんと!」
「あーぁ。満月で一日動けないロウちゃんのお世話に行ってなかったら会えたのになぁ」
「いや、会わなくて良かったと思うよ」
そう言って九条は小さくため息を吐いた。
九条がこんな風にため息を吐いたりするのは珍しかったが、でも実際に吸血鬼と対面した優太としてはそうなる気持ちも分かった。
それくらい、時間の長さの割りに内容が濃かった。
「あー、笑った笑った」
「ここは本当に珍事件が多発するわねぇ」
「お前が一番珍しいけどな」
「ちょっとぉ、何よぉ。そんな奇想天外生物みたいな言い方しないでくれる?」
「ちげぇのか?」
ロウの言葉にマオは直ぐに立ち上がり、そのままロウにヘッドロックをかけた。
「いでぇいでぇいでぇ! ギブギブギブギブ!」
ロウがマオの腕をバンバン叩きながらもがく。
その姿を見て、優太も、九条も、雪も、そしてほんのちょっとだけ天も笑った。
その空間は、とても温かくて、お日様みたいだと、優太は思った。
──俺、ここが好きだ。
はじめのうちは怖いと思っていたけれど、今では出来ることなら、ずっとここで働いていたいと思えるようになっていた。
──この、仲間たちと、ずっと一緒に……。
しかし、その願いも虚しく、
この時間に終わりがくることを、
優太はまだ、知らなかった。
case.5 吸血鬼 終