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あやかしBarへようこそ  作者: 渡辺 翔香(旧:渡井彩加)
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ep.2 出会い②

「何を飲む? オススメでいい?」


 バーテンダーは優太がビール以外の酒に詳しくないのを知ってか知らないでか、そう言ってくれる。


「あ、はい」

「じゃあ、少し待っててね」


 バーテンダーが酒を作ってくれている間、優太は改めて店の中を見回した。

 カウンターは木製で、椅子はよくバーで見かけるような、高くて丸い、クルクル回るやつ。

 照明はカウンターの上とカウンターの中にある棚のお酒を照らす間接照明だけで、店内は薄暗く、でも暗すぎずの丁度いい塩梅に調整されている。

 うっすらと何処かから聴こえてくる音楽がしっとりとしたジャズで、耳に障らない。


 ──静かで、お洒落な店だな。


 優太は前働いていた職場の関係で何度かこの手の店に入った事があるが、その中でもずば抜けてこの店は洒落ていた。


 ふと、そこでバーテンダーが何故優太の事を「珍しい」と言ったのか分かった。

 すっかり忘れていたけれど、優太はスウェットにコートという格好だった。

 こんな格好でこんなバーに来る人なんて、普通はいない。


「あ……すみません。こんな格好で来ちゃって……」


 優太は思わずバーテンダーに謝った。

 こんなお洒落な店に、スウェット姿の男なんて、似合わないにも程がある。

 それこそ、他のお客さんが来たら自分の姿を見て落胆してしまうのではないかと思うほどに。


 しかし、バーテンダーは

「いや、いいんだよ。好きな格好で来るといい」と言った。


「でも……」

「それより、お酒出来たよ。帰るとしても、これ飲んでからにしてね」


 そう言いながらバーテンダーが優太の目の前に置いたのは、ロックグラスに入った茶色の飲み物だった。


「……ウイスキー?」

「ウイスキーと梅酒を合わせて作ったカクテルだよ」

「ウイスキーと梅酒ですか!?」


 はじめて聞いた組み合わせに声をあげると、バーテンダーが「ははっ」と笑った。


「そう。ウイスキーと梅酒を半々で入れて、そこに炭酸水をいれたもの。ストレス発散と、食欲増進に効果があるんだよ」


 バーテンダーはそう言いながら冷蔵庫を開けると、「これはサービスだよ」とローストビーフのようなものを出してくれた。


「君、食事をまともに摂っていないだろう?」

「……何でそれを」

「顔が少し白くて貧血ぎみみたいだし、痩せているからね。食べないと、ちゃんと寝れないよ」


 バーテンダーはまるで優太の心の中を覗き込んでいるかのように、優太の悩み──食べれない、眠れないをスラスラと言い当てた。


「エスパーですか?」

「まさか。取りあえずそれ、飲んでみてよ」


 バーテンダーに勧められ、優太は「いただきます」と言いながらウイスキー梅酒に口をつけた。


「おいしい!」


 ウイスキーの芳醇さはそのままに、梅酒のさっぱりさが加わっている。その上、炭酸が入っているから口のなかがスッキリするし、思わず進んでしまう味だ。


「気に入ってくれたみたいでよかった。ちゃんと一緒におつまみも食べないとダメだよ」

「は、はい」


 バーテンダーにそう言われ、優太はサービスのローストビーフを口にいれた。


 ──何だコレ……口の中で肉がとろける!!


 あまりにも美味しいローストビーフに、優太は夢中になった。直ぐに平らげ、バーテンダーにローストビーフの追加を注文した。


「はいよ」


 バーテンダーはローストビーフばかりか、チキンやサラダも出してきてくれた。


「やばい……どれもうまいっす」


 ウイスキー梅酒も追加した優太は、その料理と酒の旨さに舌鼓を打った。


「それは良かった。沢山食べな」


 気を良くしたのか、バーテンダーは「これ試作品だけど」とか「余りだから」と言いながら次々と料理を提供してくれる。優太はそれらを休むことなく食べ続け、気がついた時には目の前には空き皿が十五枚ほど並んでいた。


「もう、食べれないです……!」


 こんなに食べたのはいつぐらいぶりだろうか。

 優太はカウンターに突っ伏した。お腹がいっぱいで、暫くの間動けそうにもない。


「ははっ、こんなに沢山食べてくれて、僕は嬉しいよ」


 バーテンダーはそんな優太を見て、嬉しそうに笑った。

 その時、チリンチリン、という音がして扉か開いた。


「いらっしゃい」

「おぉ、珍しいな。先客がいるなんて」


 優太はその声に反応してカウンターから顔を上げた。


 そこには、ガタイのいい、強面の男性が立っていた。

 一見本職の方のような風貌のその男性は何故か、頬にある大きな傷跡をポリポリと掻きながら眉間に皺を寄せて、優太をじぃっと見ていた。


 ──睨まれてる……めっっちゃ睨まれてる!! えっと、俺、何かしたっけ!?


 優太の顔から、血の気が引いていく。



「……おい、九条(くじょう)。お前、あの子にどんだけ酒を飲ませたんだよ。顔真っ青だぞ?」

「いや、あれは(ロウ)に怯えてるんだよ。君、すんごい怖い顔してるから」

「あ"? ……そうなのか?」


 その会話はもう既に、優太の耳には届いていなかった。


 優太は急いで立ち上がり、

「お、お邪魔だてしてしまってすみません!お勘定お願いします!」と言った。


 それに慌てたのはロウだった。


「お、おい! ちげぇんだよ! 別に俺、怒ってねぇから!! んな慌てて帰らんでもいいから!!」

「で、でも俺、こんな格好ですし、目障りじゃ……!」

「んなもん、気にすんな!!」

「いや、でも……!」

「優太くん、優太くん」


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