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実は賭けだった

「とにかく逃げるぞ! まだ間にあう!」


 マホさんがエレノアの手を掴み、王都の方角へと駆け出す。


 上空の咆哮は徐々に近づいてきている。このままこの場所にいれば、すぐに見つかってしまう。

 子どもを傷つけられたと知ったが最後、親ドラゴンは俺達を許さないだろう。


「サラ、セレン。行こう」


 俺も小声で叫ぶという器用なことをこなし、マホさんらの後に続いた。

 親ドラゴンが俺達を探し始める前に、一刻も早く離脱しなければ。


「ご主人様っ。そのスキル使ったままじゃ、ドラゴンに見つかっちゃいますよっ」


 草原を走りながら、サラがそんなことを言い出した。


 確かにそうだ。この状況なら解除してもいいが、それよりも逆に利用するのもありかもしれない。


「サラ。俺が囮になる。セレンと一緒に王都まで走り抜けろ」


「そんな……だめですっ!」


「だめじゃないんだよなぁ」


 存在感を増幅させた俺が囮になれば、少なくとも四人は無事に王都まで辿り着けるだろう。


「死ぬつもり?」


 セレンの問いに、俺は笑ってみせる。


「まさか。俺は捨てられた神殿であの巨像を倒したんだぜ? ドラゴンに絡まれても、勝算はあるってこった」


 セレンは無表情で俺を見つめる。


「わかったら行け! 立ち止まるなよ!」


 俺は急ブレーキをかけ、すぐさま進路を反転。元の場所へとんぼ返りする。


「ご主人様っ」


「セレン! サラを連れていけ!」


「わかった」


 俺に追従しようとしたサラは、セレンに腕を掴まれて引っ張られていった。


 これでいい。あいつを巻き込むわけにはいかない。

 それにな。ステレオタイプで古臭い考えかもしれないが、やはり男たる者、女の子を守ってなんぼだろうが。


 エレノアのヒロイックな行動に触発されたってのもあるかもしれない。ともかく、俺は走り、ドラゴンのもとへと戻った。


 そのタイミングで、頭上から二体のドラゴンが急降下。まるで墜落するような勢いで、俺の目の前に降り立った。


 さきほど戦ったドラゴンの数倍はある巨体。ゆうに全長十五メートルはある。

 低い唸り声をあげて、2体合わせて四つの目玉が俺を捉えた。乾いた笑いしか出せない。万事休すとはまさにこのことか。


 まったくついてない。

 転生前は社会的に目立ちすぎて死亡。転生後は目立たないように頑張っていたというのに、魔法学園に入ってからは悉く裏目に出ている。挙句の果てには、ドラゴンに対して目立ち今にも殺されそうになっている。


「まったく俺の運命ってやつは、一体どうなってやがるんだ」


 ま、いいさ。長い人生こういうこともある。


 ドラゴンが、傷ついた子どもと俺を交互に見やる。そして、犯人は俺だと当たりをつけたのだろう。目玉が血走り、分厚く鋭い牙を剥き出しにして、俺に対して凄まじい咆哮を放った。

 びりびりと大気が振動する。その圧力たるや、子ドラゴンの比ではない。


「はは……すげーな」


 もう笑うだけだ。

 親ドラゴンは、このまま俺を殺す気だろう。


 だがしかし。


「たぶんこの賭け、俺の勝ちだわ」


 一応の根拠をもって、俺は勝利と生存を確信した。

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