信頼の輪
「いいか? ウィッキー」
かくかくしかじか。
ということで、俺は今の状況をさくっと説明した。
「ふんふん。ウチが寝てる間に、そんなことになってたんすねー」
地頭のいいウィッキーは、俺の拙い説明ですべてを理解したようだ。
「ここには〈八つの鍵〉と〈尊き者〉。それに〈妙なる祈り〉が揃ってるっす。あとは核心部に行って最後の仕上げをするだけっすね」
「仕上げか……」
エレノアをどうにかしなきゃならないが、具体的なプランはない。
実際に会ってみないと詳しいところまではわからないからな。
まったく、最後の最後まで行き当たりばったりってことか。俺らしすぎて誇らしいくらいだ。
「そういえば、ムーディたんはどこっすか? あの子がいなきゃ核心部へは行けないっすよ」
「あ、それならここに」
ルーチェが胸元のアイテムボックスに触れる。宝玉がキラリと光を放った。
そして、ムーディたんが俺達の前に姿を現す。
「この子の邪気は裏世界を侵食しちゃうから、可哀想だけど入ってもらってたんだ」
「あー。ムーディたんは邪気をコントロールできないっすからねー」
「垂れ流しかよ」
「だから結界を張った図書館に閉じ込めてたんっすよー」
そういうことか。空間転移のトラップが仕掛けられていたのも、ムーディたんが逃げ出さないためのものだったのか。合点がいった。
「それで、核心部に行くにはどうすればいいんだ?」
「ウチに任せるっす。オルタンシア、こっちに」
「え……自分ですか……?」
「そっす。来てくれっす」
急に呼び出しを喰らったオルタンシアは、隣のアナベルと顔を見合わせる。
アナベルはにこりと微笑んで、たしかに頷いた。
「ママ。頑張って」
娘に背中を押され、オルタンシアはおずおずとウィッキーの前までやってくる。
「あんたの出番っすよ。ムーディたんの邪気を纏って、スキルを使ってくれっす」
「……『インベントリ』を?」
ウィッキーは頷く。
「大丈夫なのか? 邪気を纏うって。オルたそに悪影響があるんじゃ」
ここまで来て今更だが、心配になるぜ。
「邪気は瘴気を模倣した根源粒子っす。まともに浴びれば、いつかのロートスにみたいになる可能性があるっす」
あかんやん。
当のオルタンシアも見るからに不安そうだ。
「でも問題ないっす。使用者自身に影響は出ないようコントロールするっすから」
「……それって、自分がおかしくなるかどうかは、ウィッキーさんの手腕次第……ってこと、ですよね?」
「そっすよー」
事もなげに言うウィッキー。
なるほどな。
「そういうことなら問題ないな」
俺の心配は一瞬にして消え去った。
オルタンシアを安心させるように、彼女の肩に手を置く。
「ウィッキーの実力は俺が保証する。こいつの魔力操作の精密さはマジでやばいからな」
コントロールするのは邪気であって魔力じゃないけど、ウィッキーが作り出したものなんだから同じようなもんだろう。
オルタンシアは少しの間、俺をじっと見上げていた。その瞳には、俺に対する絶対の信頼が見て取れた。
俺がウィッキーをここまで信頼しているのだから、間違いなく大丈夫。そんなオルタンシアの内心が伝わってくる。
「……わかりました。自分が、お役に立てるのなら」
よし。
「じゃあ、早速やるっすよ」
次の瞬間、ウィッキーが生み出した魔法の杭が降ってきて、ムーディたんの背中を貫いて大地に打ち付けた。




