密着
「そういえば、あの黒い球を作ったのもエマだって言ってたよな」
「え、ええ……」
「どういうことだ。いつどこでエマと会ったんだよ」
俺はイキールに詰め寄る。図らずも瓦礫に押し付けるよう形になった。
ごまかさずに答えろ、という俺の意思表示である。
「あなたが世界樹の中に行った後、私はエルフの里を出て森に戻ったの。あなたに言われたことを考えたくて、一人になりなかったから。そこで、あの子と会ったわ」
「エルフの森って、ここだろ? こんなところまでエマが一人で来たってのか」
俺でもエルフの森に辿り着くまでに紆余曲折あったってのに。一般的な魔法学園生であるエマがたった一人で来られるとは到底思えない。
「その頃にはもう覚醒してたんだろうね。今の吾輩と同じように、前世界の記憶と能力を取り戻していた」
ヒーモの補足は的を射ているように思えた。確かにそれなら辻褄があう。
「それから、あの子は私に色々教えてくれたわ。いわゆる……この世界の真実を」
なるほどな。
グランブレイドに説かれる〈八鍵の教え〉や〈真世界〉の存在。デメテルを中心とするこの世界が、エレノアによって再創世されたものという真実。
そして前世界から続く経緯まで、エマの口から語られたってことかよ。
「お前はそれを信じたのか? エマの言うことを鵜呑みにして?」
「私だって最初は相手にしなかったわよ! 思春期にありがちな妄想なのかなって思った。でも、あの子は真剣だったのよ」
息が触れるほどに近いイキールの美貌が、沈痛な面持ちになる。
「それに、話の筋は通ってた。立て続けに起こってたペネトレーションとか、グランブレイドの大臣から聞いた話とか……あなたの言動とか。色々合点がいくところが多かったし」
「それで、俺のことを好色が災いして世界に破壊と再生をもたらした激ヤバすけこましハーレムマスターだと思ったわけか」
「どこか間違ってる?」
「間違っちゃいないが、イケメンって単語が足りてないな」
「ふざけないで」
至って大真面目だが?
それはともかく。
「エマに唆されたお前は言われるがまま裏世界に来て、まんまとエレノアの願いを叶えようとしたってわけか」
「違うっ。私は自分の意志でやったの! デメテルは私の大切な故郷! それを守るのが私の使命なのっ!」
俺の胸倉を掴んで力説するイキール。唾が顔にとんだけど、これはご褒美と思っていい。
「なぁロートス。そんなことはどうでもいいだろう。吾輩は一刻も早くエマくんの所在を知りたい」
たしかに。
「イキール。お前の想いや信条はあとで飽きるくらい聞いてやる。今は時間が惜しい。エマはどこにいる」
「どこって……知らないわよ。そんなの」
まじか。
イキールが知らないとなると、一体誰が知ってるのか。
「ねぇパパ」
そこにアナベルの声が間に入ってきた。
「そのエマって人。もしかして眼鏡をかけた大人しそうな女の子?」
「知ってるのか」
アナベルは呆気に取られた表情で頷く。
「エルフの里にいるよ。帰ってきたみんなと一緒に」
驚愕。
今の胸中の表すただ一つの言葉だった。




