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勝てるよ

 甘かった。


 生クリームよりも甘ったるい俺の考えが、思いもよらぬ事態を引き起こしてしまった。


 いま俺達の目の前には、アフリカゾウよりも一回り大きな巨大なドラゴンの威容があった。

 セレンもサラも俺も。ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなっている。


 どうしてこうなった。


 途中までは順調だったんだ。月明かりの下、『ちょっとした光』を発動してナハトモスクを採集していた。時折出現するラットマウスを蹴飛ばしながら、持ってきた袋一杯に薬草が集まった頃、異変は起こった。


 なんと突如として頭上からこのドラゴンが急降下してきたのだ。そして、俺達を睨みつけ、袋一杯だったナハトモスクを奪い、食い尽くしてしまった。


 一体、どういうことなんだ。


「もしかして、ファイアフラワードラゴンじゃ……」


 サラが慄然とした声で呟く。


「なんだそれ」


 俺の疑問には、セレンが答えてくれた。


「別名ハナクイ竜。植物の中で一番魔力のある部位が花。だから、魔力を求めて花を食べるモンスターも多い。ファイアフラワードラゴンは雑食だけど、個体によっては限りなく草食に近いものもいると聞く。でも」


「でも?」


「基本的にドラゴンは昼行性。夜に行動することはない。それに王都の周りにドラゴンの巣はない。定期的に上級冒険者が駆逐している。だから、本来この地域にはいないはずのモンスター」


 まじかよ。


「でも草食ってことは……俺達を喰ったりしないよな? さっき、めっちゃ花食ってたし」


「ご主人様……残念ながら、ドラゴンは極めて好戦的なモンスターです。機嫌が悪い時は、同族以外の生き物を殺すまで追いかけてくる習性があるんです」


「は? ふざけんな」


 マジでキレそうだわ。自分が食物連鎖の頂点に君臨しているとでも思っているのか。

 あまりにも傍若無人な習性だ。


 だしぬけに、ドラゴンは咆哮を放った。びりびりと空気が震え、大地が震動する。俺達は耳を押さえて踏ん張る。咆哮だけで吹き飛ばされてしまいそうな衝撃だった。


「ご主人様……どうしますか?」


「どうもこうも。逃げるしかないだろ」


「無理。逃げられない。ドラゴンは飛行できる」


 無理かどうかはやってみないとわからんだろ。


 というか、サラもセレンも、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。

 ドラゴンだぞ? もっと慌てふためくもんだろ。


「戦う」


 セレンが平坦な声で決意を表明した。


「馬鹿言え。こんなやつと」


「S級を目指すなら、いつかは乗り越えないといけない壁。竜狩りは一流の証」


 そうだとしても、今じゃないだろ。冗談抜きで死んじまう。

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