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センタークエスチョン

「他の者はどうなったのです」


 原初の女神の問いに、サニーはうんざりしたように首を振った。


「大体は気力をなくしたか、正気を失ったかのどちらかだ」


「正気を? 何かあったのか?」


「何もなかった。なさすぎたんだ。この村は平穏だ。肉体という枷から解き放たれた俺達には生存に関する一切の欲がない。そんな状態で気の遠くなるような時間を過ごせば、人の心なんてものは簡単に壊れてしまう。今ごろ奴らはこの裏世界のどこかで彷徨っていることだろう。心を失った亡者みたいにな」


「意外なことです。多少なりとも〈妙なる祈り〉を発現した者であれば、心を強く保てるはず。それなのに、残ったのはあなただけですか」


「人の心は移ろいやすい。信念や誓いなんてものは簡単に忘れてしまう。俺はそれを目の前で何度も見てきた」


 なんてこった。

 ここに来たのはある意味で選ばれし英雄達だっただろうに。

 それなのに、耐えられなかったってのか。


「サニー。あんたはどうして正気を保っていられるんだ?」


「さあな。俺自身、自分が正気であるかどうかの確証がない。今こうして話しているお前達が幻覚かもしれないしな」


「おい……」


「冗談だ」


 サニーは椅子に座り直し、膝に肘をつく。


「俺には取り戻したい仲間がいる。愛する女もだ。その為には、聖女が再創世をした世界を元に戻さなければならない。それまでは、何千年でも何万年でも耐えてやるさ」


「サニー……お前」


 そうか。

 こいつがまだ心を強く保っていられる理由。

 それは俺と同じなんだ。


 大切な人を取り戻す為。

 自分達の世界に戻る為。

 流石はサニー・ピース。俺が認めた数少ない男の一人だ。


「とはいえ一人じゃ力不足。だからお前を待っていた。ロートス」


「随分と待たせちまったみたいだな」


「まったくだ。だがこうして現れた。俺の見込み通りな」


 サニーは立ち上がり、壁に立てかけてあったバスターソードを背負う。


「案内したいところがある。ついてこい」


 そう言って家を出ていくサニー。

 俺は原初の女神と顔を見合わせる。

 そして互いに頷き合うと、すぐさまサニーを負った。

 辿り着いたのはアインアッカ村の片隅にある大岩の前だ。


「ここは……」


 懐かしい。

 ここは俺のお気に入りの場所だった。


 何かイヤなことがあった日は、この岩の上で黄昏ていたんだ。

 大量のクソスキルを授かった鑑定の儀の後もそうだったっけ。

 あの日も俺は、この岩の上で夕焼けを眺めていた。

 エレノアと一緒に。


「登ってみろ」


 サニーが大岩を見上げながら言う。

 俺は言われるがまま、大岩の上にぴょんと跳び乗った。苦労してよじ登っていた頃が嘘のようだ。


「いくつかの街が見えるだろう?」


「ああ。見える」


 現実の世界では見えるはずのない景色。平原の奥には、リッバンループの街並みをはじめ、王都ブランドンの大通り、マッサ・ニャラブの砂漠地帯や、グランオーリスの首都アヴェントゥラまでもが見えている。

 本来なら、アインアッカ村に最も近いリッバンループまでにも徒歩で半月ほどの距離がある。こんな所から見えるはずがない。

 これもエレノアの記憶から創られたことによる歪みだろう。


「俺は、あの場所に何かがあると踏んでいる」


「何かってなんだよ」


「わからないんだ。この村から出ることができないからな」


「出られない……じゃあ、見えるだけで調べてはいないんだな?」


「ああ」


 そういうことね。

 だったら話は簡単だ。


「この村から出る方法を探して、ここから見える四つの街を調査する。それでいいな?」


 俺の言葉に、原初の女神が首肯した。

 はたして、ロートス達はアインアッカ村から脱出し、無事に街に辿り着くことができるのだろうか。

 大岩の上で黄昏る俺の頭の中で、そんなナレーションが聞こえたような気がした。

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