副次的な降臨
(なに……? 気でも触れたかロートス――)
俺の首は胴体とサヨナラし、床に落ちていく。
だが意識ははっきりしている。視界も。
俺の目が捉えたのは、首の断面から放たれた強烈な光の奔流。
血の代わりに噴き出した、果てしないエネルギーの波動だった。
その輝きは文字通り光の速度で天へと伸び、見える空すべてを覆うほどの閃光をもたらす。
すげぇ。
目が痛くなるほどの眩さ。
まるで太陽――それ以上の膨大なエネルギーだ。
(これは、光? いや、生命の輝き……)
マシなんとか五世も困惑している。
【ゾハル】となった奴には理解できるだろう。俺の体内から放出された閃きは、ある意味で奴と同じ、外なる理にある存在なのだから。
(まさか神……神を呼び出すつもりか!)
バカめ。誰がそんなもん呼ぶかってんだ。
この期に及んで神に頼るなんて、手のひら返しも甚だしい。
俺が召喚するのはそんなもんじゃない。
天を埋め尽くした光が、瞬く間に収束する。
光は跡形もなく消え、刹那の静寂が訪れる。
次いで、圧倒的な存在感を放つ四条の白い光が差し込んだ。
(おいおい……笑えないジョークだ。この輝きは、まさしく世界の異質。バカな。この【ゾハル】以外に理を超越する存在があるなんて)
果てしない天から降ってきた四本の光柱は、【ゾハル】の前に整然と現れる。
神々しくも温かさを感じる光の中には、人の影が浮かんでいた。
俺の首は床に落ちてゴトンと鈍い音を立てたが、どうでもいい。
望む景色が、この目にはっきりと映っているのだから。
「寝起きに目に入るのが悪趣味な板っ切れとはのう。目覚めが悪いとは、こういうことを言うのじゃ」
深紅の和装をはだけさせ、艶めかしい白い肌を見せるナイスバディな和風美女。将軍家の姫を思わせる豪奢な装いと圧倒的な存在感はあまりにも頼もしく、麗しい。
「あはは、アカネ様らしい言の葉です。でも私は最高の目覚めだと思います。こうしてまたこの世界に戻ってこれた。大切な人達と一緒に、大切な人の為に戦える。こんなに嬉しいことはありません」
ノースリーブのメイド服。光を浴びる褐色の肌は滑らかかつ健康的で、活発と利発の雰囲気を兼ね備えている。隠しきれない気品も相俟って、眩暈がするような可憐さだった。
「メイド長の仰る通りですわ。再びマスターの手となり足となり、そして盾となる。この渇望を満たす日がやっと訪れたのです。この歓喜を表現する言葉がないことにもどかしさを覚えるほどですわ」
透き通るような空色の髪。水色のワンピースの裾を揺らす立ち姿は、優雅でたおやか、そしてなにより力強く、無垢で美しい。
「みな同じ想いです。私達が生きる意味、戦う意義。すべては愛する人と添い遂げんが為。悠久の時も世界の隔たりも、些末事に過ぎません。私達には、切り開くべき未来があるのですから」
金糸を編んだようなロングヘア。丸眼鏡の奥にある碧眼は理知的で、少女らしい茶目っ気を秘めている。ところが緑を基調としたローブを張り上げる豊かな胸元をはじめ、成熟したボディラインが大人の女性らしさをも強調していた。
俺は今、自分でもどういう気持ちかわからない。




