表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
904/1001

マジで死にそう

「そんな……主!」


 アンの泣きそうな声。


「ありえません……我が主が、こんな……!」


 その声に応えてやりたいが、叶わない。

 ぱっくりと裂けた胸から流血し、俺は血だまりに沈んでいく。


(チェックメイトだ。ロートス・アルバレス)


 頭の中に直接響く、マシなんとか五世の声。


(肉弾戦ではキミの勝ちだ。でも僕の本分は殴り合いじゃない)


 耳が遠くなって、俺を呼ぶアンの声は聞こえなくなっていく。

 それなのに、頭に響く不快な声はむしろ鮮明だ。


(僕は研究という戦場に挑んできた。気が遠くなるほどの時間を戦いに費やしたんだ)


 くそ。訳が分からない。


(まだ負けないよ。いつだって大物は、変身を残しているものさ)


 意識が薄れていく。

 あまりに血を流しすぎた。

 いくらこの肉体が強靭だといっても、それはあくまで理の内にある強さ。

 理の枠を超えたマシなんとか五世の力に対抗するには、今の俺は弱すぎる。


 瀕死の俺にまだ残っている感覚が、アンとマシなんとか五世の戦いを捉えている。

 多少なりともマーテリアの神性を宿すアンなら対抗できるだろうか。


(キミには何度だって驚嘆する。魔王を倒すのみならず、忠誠を誓わせる人間がいるなんて、いったい誰が考えただろうか)


 そんなに驚くほど、アンは必死に戦っているのか。

 俺を守るためだろうか。それとも仇を討つためか。

 そこまでアンに心酔される覚えはあんまりないんだけどな。


 だけどな。もういいんだ。

 どの道この傷じゃ助からない。アンの魔法で治せないんじゃ打つ手なしだ。


 すでにほとんどの感覚はなくなっていた。俺は最後の力で体を起こそうとする。

 逃げろと、アンに伝えるために。


 やっとの思いで仰向けになった俺の目に映ったのは、瘴気の波動が形成した漆黒の球体だ。

 あれは確か、アンの『黒虚空万象滅閃光』か。

 武名を馳せたグランオーリスの王ヘリオスを一撃で屠った技だ。あれには俺も肝を冷やした記憶がある。

 瘴気の檻で敵を包み込み存在そのものを蝕む荒業だ。あれが通用すれば、まだ勝ち目はあるかもしれない。


 淡い期待はすぐに裏切られた。

 漆黒の球体は、無数の鋭い歯車によって内側から破られる。

 ズタボロになったアンが俺の近くに飛来。床に激突して動かなくなった。

 そんなバカな。


(マーテリアの神性。知ったつもりでいたけど、想像以上の脅威だ。なかなかスリリングな空間だったよ)


 その時初めて、俺は変身したマシなんとか五世の姿を目の当たりにした。

 崩壊する『臨天の間』に浮かぶ、金色の長方形。

 人よりも長く、幅広く、分厚いそれは、一枚のプレートのように見えた。


 だが、違う。

 歯車の紋様が無数に彫られたその物体の正体。

 見たこともないほど巨大な、一冊の本であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大きな戦闘をさんざん繰り返し、その度に油断から窮地に陥ってからの学習が無い。脳筋とは言え流石に無いわぁって思うけど、これがデフォルトなんだよなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ