我儘を貫く男
最後にエレノアに会った場面を思い返す。
神の山の地下。マーテリアが封印されていた地には、真新しい人工物があった。巨大な歯車で形作られたゲートだ。エレノアはその奥から現れた。
今思えば、マシなんとか五世との繋がりを疑うには十分すぎる手がかりだ。歯車と言えばこいつみたいなところあるからな。
「以前、プロジェクト・アルバレスを発動する際、エンディオーネには一杯食わされた。彼女はキミという異分子を紛れ込ませ、プロジェクトを自分の都合のいいよう書き換えようとしただろ? 今度は、僕が同じことをやったのさ」
「……なんだと?」
「エンディオーネはエレノアちゃんに神性を譲ることで、キミをこの世界に呼び戻そうとした。アカネのばばぁはキミを追いかけて別世界にまで行った。あの二人は、この世界にはキミが必要だと強く信じていた。だから僕もそれに乗っかったのさ」
「どういうことだ」
「僕は考えた。もしエレノアちゃんが女神の神性を得たら、何をするだろうかと。あの子はキミのことが大好きだ。恐ろしくなるほどに」
「その感情を利用して洗脳したのか」
「洗脳だなんて人聞きの悪い。僕はただ……提案しただけさ。ロートス・アルバレスを独り占めしたくないかとね」
「そんな提案に、エレノアが乗るとは思えねぇ」
「あはは! キミって男は、つくづく女心がわかってないねぇ」
「なに……?」
「あの子の独占欲は相当なものだよ。上手く隠していたのかもしれないけど、それに気付けないようじゃこの事態も避けようがない」
気付いてたさ。
あいつは現代日本生まれだ。一夫一妻制の国で育ったのなら独占欲が強いのも当然だし、男と女はただ一人を愛するっていう価値観が根付いているのも頷ける。
いや、これは言い訳だ。
俺はエレノアのすっきりしない想いに気付いていながら、真正面から向き合うことを避けていた。屁理屈を言って誤魔化そうとしてきた。
なぜなら俺はハーレムを築きたかったからだ。
誰か一人を選ぶということは、それ以外の誰かを捨て置くということ。俺はその道を選ぶ気はなかった。
その結果、エレノアは新たな世界を創造した。
「ロートス。キミは僕があの子を唆したと言ったが、それはあくまで過程に過ぎない。世界がこんなことになった根本の原因は、キミの強欲にあるんだよ」
俺の、強欲か。
「んなこたぁわかってる」
誰よりも理解して尚、俺は大切な人達を一人余さず愛すると腹を括ったんだ。
「マシなんとか五世」
「なんだい?」
「自分のことを棚に上げるなよ。俺に言わせちゃ、お前の方がよっぽど欲深い奴だぜ」
この期に及んで、俺の前に現れたんだからな。




