真の黒幕
「意味わかんねーんだよ!」
俺はさらに攻撃を加速させる。
幾度かの斬撃を放ち、マシなんとか五世が距離を取るタイミングに合わせて、追撃の魔法を叩き込む。
「フレイムボルト・レインストーム!」
四方から包み込むようにして迫る火炎は、余すことなくマシなんとか五世に着弾。
「効かないねぇ」
奴は変わらぬ微笑で肉薄してきたが、そんなことは予測済みだ。
フレイムボルト・レインストームを撃ったのは牽制に過ぎない。あえて突っ込ませるための嫌がらせだ。
普通に攻撃しても当たらないなら、カウンターを狙うしかない。
マシなんとか五世が掌底を繰り出すのに合わせて、俺は狙いすましたカウンターの斬撃を放つ。
「おっと」
だが、当たらない。
それどころか、カウンターにカウンターを合わされるという屈辱を受け、痛恨の掌底をモロに喰らった。
そのまま床に叩きつけられる。『臨天の間』の広大な床の隅々にまで、亀裂が広がるほどの衝撃だった。
「見え見えだよ。キミらしい」
俺はひととき呼吸を忘れた。
全身に迸る激痛とダメージが動くことを許してくれない。
「エンディオーネの大鎌か。厄介なシロモノだけど、使い手がキミじゃあね……初めて手にする武器で冒険するような愚行は、感心しないな」
うるせぇな。今はこれしか持ってないんだよ。
マシなんとか五世は俺から目線を外し、ボロボロになって朽ち果てた『臨天の間』を眺める。
「ここは機関を象徴する場所だった。『臨天の間』という名は、神に挑むヘッケラー機関の本質を示すために僕がつけたんだ」
「……何が言いてぇ」
「僕は昔から、この場所が崩れ落ちる時にこそ機関の目的が成就すると確信していた。その時が、今まさに訪れようとしている。因果なことだ。よもや僕とキミが相見える時だなんてね」
俺は満身創痍の身体に鞭を打ち、気合と執念で立ち上がる。
「機関の目的を憶えているかな?」
答えずにいると、マシなんとか五世はやれやれと首を振った。
「最強の人間を造り出し、神の呪縛から人を解放することだ」
「バカみたいに単純だ」
「けれどイージーじゃない」
マシなんとか五世はしたり顔で、
「プロジェクト・アルバレス。数百年の時を経て、世界の生まれ変わりを渡り、ついに結実しようとしている。これがどういう意味かわかるかい?」
「……わかるさ」
人の運命を縛る神からの脱却。
それは俺が――否――俺達が戦い続ける理由だ。
「僕達の目的は同じだ。といっても、同志というわけじゃない」
「ああそうだな」
長年の違和感に、ようやく合点がいった。
「お前なんだろ。エレノアを唆して、原初の女神に仕立て上げたのは」
マシなんとか五世の口角が、ぐいーっと吊り上がった。
「ご名答。キミにしては上出来だ」
こいつは、マジで許すわけにはいかねーな。




