再会と別れ
その後の戦闘はやばかった。
名状しがたい剣戟が迸り、筆舌に尽くしがたい魔法の応酬が城塞を派手に彩っていた。
凄まじいとしか言い様がない。
エレノアの神性を享けたシーラとレオンティーナを相手に、アンは涼しい顔を浮かべている。
今更ながら、アンに勝った俺は強すぎるってことなんだなぁ。
リリスも複数人と渡り合っている。見物していろと言われたが、俺はそれでいいのだろうか。
右腕を失った。剣も消滅した。
だが俺はまだ戦える。加勢した方がいいに決まってる。
それとも、アンは何か考えがあって俺に見物しろと言ったのだろうか。たとえば、守護隊を引きつけている間に先に進ませるとか。
そうに違いない。そうでなければ、わざわざ俺を戦線から外す意味はないもんな。
「よし。頼むぞアン」
激しい戦闘のどさくさにまぎれて塔へ駆け寄り、内部へと進入。
リリスとアンがド派手に戦ってくれるおかげで守護隊の目を容易に掻い潜ることができた。
俺はたった一人、塔のクソ長い螺旋階段を駆けあがっていく。
そしてついに辿り着いた。
この世で最も神に近い場所。『臨天の間』だ。
金と銀、そして色とりどりの宝石で装飾されていた大扉は、今や虚しく朽ち果てている。
「時の流れは残酷だな」
今にも崩れそうな扉を、両手で押し開けていく。巨大な蝶番の軋む音と、石造りの床を削る響き。ゆっくりと開いた扉の先には、縦長の大伽藍が広がっていた。
先程のアンの爆撃で、天井部分のほとんどは吹き飛んでしまっている。頭上から燦々と日光が降り注いでいた。
瓦礫の散乱した大伽藍を歩く。
絶対に、ここに何かあるはずなんだ。
巨大な瓦礫をかき分けて進んでいると、あるものが目に入り、俺は思わず眉をしかめた。
「……骨?」
白骨化した死体だろうか。不自然なことに、膝を抱えて座り込む人骨の周囲だけ瓦礫がない。
歩み寄ってみると、その人骨がやけに小さいことが分かった。ボロ布を纏った骨は、幼い子どものサイズである。
俺が得心するのと、その人骨が顔をあげるのは、まさに同時であった。
「やっぱりそうか」
骨が動いたことにも驚いたが、それよりもびっくりしたのは、小さな頭蓋骨に眼窩や鼻腔がないことだった。口もなけりゃ歯もない。
この人骨はまず間違いなく、あののっぺら少女だ。
俺がこの世界に戻ってきた時、剣を教えてくれた師匠。そして、コッホ城塞を維持している、ある意味この地における神のような存在だ。
「ずっと、待っていてくれたんだな」
微笑みかけると、白骨となったのっぺら少女の手がこちらに伸びた。
「ありが――」
衝撃と轟音。
直上から降ってきた巨大なナニかに、のっぺら少女が粉々に粉砕された事実を、俺はすぐに理解できなかった。




