みんなの意見はとっても大事
とはいえ。
「無策で飛び込むわけにもいかねーか」
蛮勇や無謀じゃダメだってのは、さっきエンディオーネに戒められたばっかだし。
「みんな、何か考えはないか」
俺は仲間達を見回す。
「中の様子を探れたらいいんだけど……」
アナベルがうーんと頭を悩ませる。
「モンスターがいれば、あーしが瘴気で操って斥候にすることができるのですが」
「この高度じゃモンスターもおらんでやんす」
こういう時にアデライト先生の『千里眼』があれば最高なんだがな。あの人は魔法だけじゃなくスキルまで頭一つ抜けていた。まぁ、そんなことを言っても仕方ない。
四人で首を捻っていると、視界の端でフィードリッドが亀裂に足を踏み入れようとしていた。
「ちょ待てよ!」
「む?」
コッホ城塞の敷地内に片足を突っ込んでいる。
「あぶねぇって」
「そうは言ってもな。ワタシとて気が急いているのだ。早く進みたくて仕方ない」
さっきまで気圧されてた奴の台詞とは思えない。
フィードリッドはどこか高揚している様子だ。
「〈八鍵の教え〉といったか、ワタシの娘が女神として崇められ、加えて婿殿の中に封印されているとな。これが手をこまねいていられるか」
「気持ちは分かるが落ち着くでやんす」
「そうよ。なんでもかんでも、がむしゃらに進めばいいわけじゃないわ」
アナベルの言葉は俺に効く。
「ん? なんだこれは」
フィードリッドが何かを見つけたようだ。
「少女……いや、この魔力の波形は、モンスターだ」
「なんですって?」
アンが反応する。そして、ぱたぱたと亀裂に駆け寄った。
目を凝らすと、亀裂の近くで倒れている女の姿があった。
「あれは」
見覚えがある。
「たしか、リリス……だったか」
黒髪ショートカット。左目尻の泣きボクロが非常にセクシーだ。紺のブレザー、白いブラウス、臙脂色のネクタイ、膝丈のプリーツスカート、白いハイソックスにローファーというスタイルは、俺の母校を思い出させる女子高生ルックだったが、その服は無残にもボロボロだった。
サラを救出しに来た時に戦った記憶が蘇る。マシなんとか五世が性癖を詰め込んで作り出した人工モンスター。まだこんなところにいたとはな。
「……活動を停止しているようです」
「死んでるのか?」
「いえ、魔力不足で動くことができない状態です。人間で言うところの栄養失調に近いでしょうか」
マシなんとか五世がまだここにいた頃から、永い間ここで生き延びてきたのか。
「治せそうか?」
「朝飯前です。あーしは魔王ですから」
アンはリリスの豊満な胸に手を当てると、漆黒の魔力を注ぎ込んでいく。
「都合よくモンスターが見つかったわね」
「考えることは皆同じでやんすな」
「このモンスターを操って内部を探らせるか。婿殿、どう思う?」
「まぁ……仕方ない」
人の姿をしたモンスターを都合よく利用するのは気が引けるけどなぁ。どうしてもアイリスと重ねてしまう。
「あーしに考えがあるのですが」
治療中のアンに全員が注目する。
「このモンスターを単独で探査させるのは非効率です。もし失った場合は替えがききませんし、時間がかかりすぎます」
一理ある。
「なら、どうする?」
「このモンスターに先導させ、我々がそのすぐ後に追従します。不測の事態が起きた時には対処する手が多い方がよいでしょう」
異論は挙がらなかった。
「じゃあそれで」
計画は決まった。
ほな、行こか。




